800字チャレンジ
「主、これ今日の出陣結果……って、どしたの。恋する乙女の顔になってるよ」
不意に声がした方を見上げると、そこには笹貫が立っていた。
「ちょうどいいところに。ちょっと話し相手になってくれない?」
「なーに、惚気話?」
「そう」
「あ、否定しないんだ」
正直すぎるわたしの返答に、笹貫はくつくつと喉を鳴らして笑う。
「いーよ。聞いたげる」
「ありがとう。ねえ、菜切ってわたしのことどう思ってるのかな」
「どう、って?」
「わたし、菜切にいつまでも子ども扱いされてるんじゃないかなって最近思うの」
「子ども扱い」
「菜切はいつでもわたしに優しいし、わたしのことを好きって言ってくれる。でも、それは料理をするのが好き、とか、兄弟たちのことが好き、とか、本丸のみんなが好き、とか、そういう好きと変わらないんじゃないかなって」
「へー。オレはそうは思わないけどな」
「ありがとう。笹貫がそう言ってくれるとそうなのかもって思える」
「いやいや、ほんとにさ。北谷さんは本気だと思うよ」
「本気?」
「だって北谷さん、もう主の胃袋掴んじゃってるし」
「それはそうだけど」
「それに、元は主のお父上の刀だったんでしょ? だったらご両親からの信頼も篤いわけだ。独立する一人娘の守刀を任せられるくらいに」
「うん」
「これもう外堀埋まってるよね、完璧に」
「ええー、でも菜切はそんなつもりでやってるわけじゃないかもしれないし」
「そんなに気になるなら本人に聞いちゃいなよ。ほら、さっきからそこでずっと聞き耳立ててるみたいだしさ」
「えっ」
恐る恐る振り返ってみると、そこには私が恋焦がれてやまない北谷菜切本刃の姿があった。全身からさっと血の気が引いて、ついさっきまで熱を持っていた頬や耳が急速に冷えていく。
「悪いねー。立ち聞きするつもりはなかったんだけど」
「い、いつから聞いてたの」
「笹貫が入ってきたあたりからかな」
じゃあ全部じゃん! わたしは声にならない声で叫んだ。わたしが菜切のことを大好きなのはずっと変わらない事実だけど、他の刀に恋愛相談しているところを目撃されるのは流石に心にくるものがある。
「ねえ、主」
「な、なんでしょうか」
「おれのこと、まだ好きかい」
「う、うん」
「そっかー」
そう言って、菜切は執務室の戸を閉めた。お茶とお菓子が載ったお盆を机に置いて、そうして、わたしの目の前に腰を下ろす。冷や汗がわたしの背中を伝う。笹貫はなぜか笑っていた。
「じゃあ、改めておれからプロポーズしてもいい?」
「えっ」
一瞬の出来事だった。状況を掴めずに固まっわたしの手に、菜切のあたたかな指先が触れて、まっすぐな目で見つめられた。
「主、かなさんどー」
鈍色と薄紅色のグラデーションがきらきらと輝いている。それは間違いなくあの日、わたしが恋をした瞳だった。
不意に声がした方を見上げると、そこには笹貫が立っていた。
「ちょうどいいところに。ちょっと話し相手になってくれない?」
「なーに、惚気話?」
「そう」
「あ、否定しないんだ」
正直すぎるわたしの返答に、笹貫はくつくつと喉を鳴らして笑う。
「いーよ。聞いたげる」
「ありがとう。ねえ、菜切ってわたしのことどう思ってるのかな」
「どう、って?」
「わたし、菜切にいつまでも子ども扱いされてるんじゃないかなって最近思うの」
「子ども扱い」
「菜切はいつでもわたしに優しいし、わたしのことを好きって言ってくれる。でも、それは料理をするのが好き、とか、兄弟たちのことが好き、とか、本丸のみんなが好き、とか、そういう好きと変わらないんじゃないかなって」
「へー。オレはそうは思わないけどな」
「ありがとう。笹貫がそう言ってくれるとそうなのかもって思える」
「いやいや、ほんとにさ。北谷さんは本気だと思うよ」
「本気?」
「だって北谷さん、もう主の胃袋掴んじゃってるし」
「それはそうだけど」
「それに、元は主のお父上の刀だったんでしょ? だったらご両親からの信頼も篤いわけだ。独立する一人娘の守刀を任せられるくらいに」
「うん」
「これもう外堀埋まってるよね、完璧に」
「ええー、でも菜切はそんなつもりでやってるわけじゃないかもしれないし」
「そんなに気になるなら本人に聞いちゃいなよ。ほら、さっきからそこでずっと聞き耳立ててるみたいだしさ」
「えっ」
恐る恐る振り返ってみると、そこには私が恋焦がれてやまない北谷菜切本刃の姿があった。全身からさっと血の気が引いて、ついさっきまで熱を持っていた頬や耳が急速に冷えていく。
「悪いねー。立ち聞きするつもりはなかったんだけど」
「い、いつから聞いてたの」
「笹貫が入ってきたあたりからかな」
じゃあ全部じゃん! わたしは声にならない声で叫んだ。わたしが菜切のことを大好きなのはずっと変わらない事実だけど、他の刀に恋愛相談しているところを目撃されるのは流石に心にくるものがある。
「ねえ、主」
「な、なんでしょうか」
「おれのこと、まだ好きかい」
「う、うん」
「そっかー」
そう言って、菜切は執務室の戸を閉めた。お茶とお菓子が載ったお盆を机に置いて、そうして、わたしの目の前に腰を下ろす。冷や汗がわたしの背中を伝う。笹貫はなぜか笑っていた。
「じゃあ、改めておれからプロポーズしてもいい?」
「えっ」
一瞬の出来事だった。状況を掴めずに固まっわたしの手に、菜切のあたたかな指先が触れて、まっすぐな目で見つめられた。
「主、かなさんどー」
鈍色と薄紅色のグラデーションがきらきらと輝いている。それは間違いなくあの日、わたしが恋をした瞳だった。