800字チャレンジ

「私たちって本丸じゃなきゃ出会えなかったよね」

器用な指が前髪をすくって、アイロンを通して、形を整えてから離れていく。額の上を滑る指先の感覚を少しだけくすぐったく感じながら、ふと思ったことを口にしてみた。

「どういうこと?」
「いや、最近思うんだよね。加州って人間だったら絶対一軍高校生だし、キラキラ大学生じゃん。そしたら私と接点生まれないよなって」
「え、俺ってそんなイメージ?」
「うん。おしゃれで顔良くてコミュ力高くて友達多くて、しかも先輩にも可愛がられるの。あとスクバの底にポスカで落書きしてるし、ピクトリンクアプリに課金してる」
「最後だけやけに解像度高いな」
「だから、もし審神者と刀剣男士として出会えなくても、私たちの人生ってちゃんと交わるのかなって」

前髪を梳っていた手が、ほんの少しだけ止まる。加州は一瞬何かを考えるような顔をして、それから口を開いた。

「交わるんじゃない? 少なくとも俺はそう考えてるよ」
「じゃあ私のこと見つけてくれる?」
「当たり前じゃん。あんたが来世でどこに生まれようが、猫になってようが鳥になってようが魚になってようが、ちゃーんと見つけて愛してやっから」
「えーありがと、素直に嬉しい。でも生まれ変わるならまた人間がいいな」
「そう? 俺は人間以外の主も見てみたいよ」
「例えば?」
「んー、カブトムシとか? あんた甘いもの好きじゃん」
「aikoか」
「もしそうなったらゼリー食べさせてあげる」
「昆虫用のやつ? あれ美味しいのかな」
「食べたことないの?」
「ないよ! 私のこと何だと思ってんの」
「おてんば娘。ほら、スプレーするから目閉じな」

言われるがまま目を閉じて、ついでに息も止める。細かい霧が前髪に吹きかけられるのを感じながら、ぼんやりと考えを巡らせた。

「ほらできた。細かいとこは自分で調整して」
「ありがとう。わ、可愛い」

手渡された鏡を覗いて、思わず息を呑む。職人技としか言いようのない綺麗なアイドル前髪が完成していた。さすが加州。世界で一番可愛い私の初期刀。

「ねえ加州」
「何?」
「私、やっぱり来世も人間がいい。そしたらまたこうやって髪セットしてよ」
「いーよ。来世でもとびきり可愛くしてやっから」
「ありがと」

言いながら、櫛やら鏡やらを片付ける加州の横顔をなんとなく眺める。この時間がずっと続けばいいのに。そう思ったことは内緒にしておいた。
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