800字チャレンジ
わたしはあなたの地球になりたい、ということわざがあるの。月には。/初谷むい
魔法使いは魔力が成熟した時点で身体の成長が止まるのだという。幼くして全盛期を迎えれば子どもの姿で、年老いてから成熟すればその姿で。数百年、ときには数千年に及ぶこともある、魔法使いの長い長い一生を過ごしていくことになる。ということを私に教えてくれたのは、天文学者で哲学者で鉱物学者で数学者で発明家の、青年の姿をした魔法使いだった。
「……なんだか星みたいね」
質量によって幾分か差があるとはいえ、短くても数百万年、長ければ数百億年もの間、夜空で輝き続ける星。燃えながら光って、最後は爆発して宇宙から消え去ってしまう星。やっぱり魔法使いの生き方とどこか似ている。
「星か。言われてみれば確かにそうかもしれないな」
私の呟きが聞こえたのか、望遠鏡を覗き込んだままムルは言った。独り言のつもりで口にしたのに。何かに集中すると周りの音が聞こえなくなってしまう性質だと知っていたからこそ、少しだけ驚いてしまう。
「聞こえていたの?」
「聞こえていたとも。魔法使いを星に喩えるなんて、なかなか詩的な表現じゃないか」
「忘れて。別に深い意味はないの」
「パティアには詩人の才能もあったのか。ますます引く手数多だな」
顔が熱い。もしかしたら赤くなっているかもしれない。照れているのを気取られたくなくて、私は窓の方へ視線を移した。しばらく星空を眺めてから、ぽつりと口を開く。
「でも、人は死んだら星になるって言うわよ」
「はは、羨ましいな。俺は死んだら石になるよ」
「前から思っていたけれど、あなたって冗談が下手ね」
「よく言われる」
誰に? と尋ねかけて、ふと神酒の歓楽街で酒場を営んでいるという魔法使いの姿が浮かんだ。何百年という時を生きてきて、これからもまだまだ続いていくのであろう彼の生涯が孤独でないということは、なんだかとても良いことのように思えた。
「そもそも冗談が上手いとはどのような状態を指すのだろう。ねえパティア、議論をしないかい」
「今日はお断りするわ。これから婚約者と食事の約束があるの」
「そう。それは残念」
待ち合わせ場所まで箒で送ろうか、という彼の申し出を丁重にお断りして天文台を出る。生ぬるい夜風に頬を撫でられて、もう夏がそこまで来ているなと思った。順調にいけば今年の夏は流星群が見られる。次に観測できるのは百年以上後になるから、見逃すわけにはいかない。
「百年って、あっという間なのかしら」
私には想像もできないような感覚だけれど、おそらく魔法使いにとっては瞬きのような時間なのだろう。だとしたら。数十億年もの時を生きている、月、という存在はきっと、この上なく彼の伴侶に相応しい。皮肉なことに。
私の生は、彼の宇宙で輝くにはあまりにも短すぎる。
魔法使いは魔力が成熟した時点で身体の成長が止まるのだという。幼くして全盛期を迎えれば子どもの姿で、年老いてから成熟すればその姿で。数百年、ときには数千年に及ぶこともある、魔法使いの長い長い一生を過ごしていくことになる。ということを私に教えてくれたのは、天文学者で哲学者で鉱物学者で数学者で発明家の、青年の姿をした魔法使いだった。
「……なんだか星みたいね」
質量によって幾分か差があるとはいえ、短くても数百万年、長ければ数百億年もの間、夜空で輝き続ける星。燃えながら光って、最後は爆発して宇宙から消え去ってしまう星。やっぱり魔法使いの生き方とどこか似ている。
「星か。言われてみれば確かにそうかもしれないな」
私の呟きが聞こえたのか、望遠鏡を覗き込んだままムルは言った。独り言のつもりで口にしたのに。何かに集中すると周りの音が聞こえなくなってしまう性質だと知っていたからこそ、少しだけ驚いてしまう。
「聞こえていたの?」
「聞こえていたとも。魔法使いを星に喩えるなんて、なかなか詩的な表現じゃないか」
「忘れて。別に深い意味はないの」
「パティアには詩人の才能もあったのか。ますます引く手数多だな」
顔が熱い。もしかしたら赤くなっているかもしれない。照れているのを気取られたくなくて、私は窓の方へ視線を移した。しばらく星空を眺めてから、ぽつりと口を開く。
「でも、人は死んだら星になるって言うわよ」
「はは、羨ましいな。俺は死んだら石になるよ」
「前から思っていたけれど、あなたって冗談が下手ね」
「よく言われる」
誰に? と尋ねかけて、ふと神酒の歓楽街で酒場を営んでいるという魔法使いの姿が浮かんだ。何百年という時を生きてきて、これからもまだまだ続いていくのであろう彼の生涯が孤独でないということは、なんだかとても良いことのように思えた。
「そもそも冗談が上手いとはどのような状態を指すのだろう。ねえパティア、議論をしないかい」
「今日はお断りするわ。これから婚約者と食事の約束があるの」
「そう。それは残念」
待ち合わせ場所まで箒で送ろうか、という彼の申し出を丁重にお断りして天文台を出る。生ぬるい夜風に頬を撫でられて、もう夏がそこまで来ているなと思った。順調にいけば今年の夏は流星群が見られる。次に観測できるのは百年以上後になるから、見逃すわけにはいかない。
「百年って、あっという間なのかしら」
私には想像もできないような感覚だけれど、おそらく魔法使いにとっては瞬きのような時間なのだろう。だとしたら。数十億年もの時を生きている、月、という存在はきっと、この上なく彼の伴侶に相応しい。皮肉なことに。
私の生は、彼の宇宙で輝くにはあまりにも短すぎる。
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