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きみと星のはざま

朝、といってもこの反世界に時間という概念を持ち込んだってあまり意味がないから、表現に困るところではあるけれど。とにかく眠りから覚めるとき、わたしの身体はいつも決まって百冬実さんの腕の中にすっぽりと収められている。一切の誇張なしで世界に二人きりの状態で、毎度抱き抱えられて眠るだなんてひどく甘ったるい習慣に思えるけれど、実際はむしろその逆。極地で暮らすペンギンの親子か何かを思わせる体勢である。
そもそもわたしはどうしてこの場所に留まっているのだろうか。本来であればわたしの身体はシリウスの門番としての役割を全うして、とうの昔に崩れ去っていたはずで。あのとき百冬実さんとわたしを含む113名の力によって押さえつけられた門は無事に閉じ切ってくれたけれど、その後もわたしの人生は断ち切られることなく続いたままで、今に至る。
雑音もなく時間の流れも曖昧な反世界は考え事をするのにはうってつけの環境で、ついつい自分との対話に夢中になりすぎてしまっていたらしい。目の前で今何が起こっているのかを把握するのがすっかり遅れてしまった。

「……あれ、百冬実さんも寝てる? 珍しい」

ミラーズとしての暮らしが長いからだろうか、百冬実さんは人間としての基本的な欲求が丸ごと欠落しているらしい。一緒に過ごし始めてかなりの期間が経つはずだけど、わたしは今まで一度も彼の寝顔を見たことがなかったのである。

「まつ毛、長……」

百冬実さんの顔をこの至近距離でまじまじと拝める機会なんてめったにないから、ついじっくり観察してしまう。分かってはいたけどやっぱり美しい人だ。髪もさらさらで肌も綺麗だし。線の細い印象を受けるけど、手首とかは結構がっしりしてて。

——あ、喉仏。

あれ、わたしって今、結構大胆なことをしでかしているのでは。意識し始めた瞬間に頬がかあっと熱くなるのを感じて、ひとまずこの場を離れなければと足に力を込める。が、わたしを捉える両腕にはいつの間にか力が込められていた。

「……怜?」
「も、百冬実さん!? 起きてたんですか!?」
「顔が赤いな。何かあったか?」
「えっと、大丈夫です、だから離して」
「熱があるのかもしれないな。見せてみろ」
「ええ〜……!?」

ええい、あれもこれも全部夢だ。ここは現実世界じゃなくて、全てはわたしの妄想で、次に目を覚ましたときには何もかもが元通りになっているはず。大きく深呼吸をしてから、わたしは全てを受け入れることにした。
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