04 偽物と偽物
夢小説設定
設定ストーリーの都合上名前が複数出てくる為、
前世の名前以外は固定です。
以下、
エステル・ヴェセーラ(〜U.C.0068)
アラヤ・ストロム(U.C.0068〜)
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・・
「…本当に順調にいくでしょうか?」
隣にいるレヴィン(レヴィ)が私に問いかけた。
「大丈夫。ちょっとした邪魔はあるかもしれないけど、最後までできるよ。」
契約は完了したし、条件も追加できたから余程の事が無い限りは中断もしないだろう。
ジオンに来て2日程経ったが、その間に人手を追加した。
地球から一緒に仕事をした仲間を数人と、ジオン側が手配した数人で仕事に当たる。
今は校内を歩きながら機材の設置スポットをチェックしている所だ。
「…まぁ、そうですね。…それにしてもここはかなり広いし…生徒の数も中々に多いというか。」
視線が…と、気まずそうな表情で彼女は真っ直ぐ前を見ている。
「まあ、士官学校だからね。外部の人間が滅多にこないだろうし、私達みたいに制服を着ていない若者が歩いていたら気になるだろうね。」
休み時間の最中である学生達がジロジロとこちらを見ていた。
レヴィンは沢山の興味の視線が集まる場に慣れていないからかカチコチになっている。
その様子を面白そうに眺めつつも、私は建物を隅々までしっかりと確認する。
私自身、興味の視線はとっくに慣れているし今更だった。
…ただ、そのうち生徒の誰かしらと関わりを持つようになるだろうし、"彼ら"にだけは関わらないように気をつけなければならない。
「…!」
一瞬、どこからか鋭い視線を感じた。
辺りを見回すが、それらしき人物は見当たらない。
「何かありましたか?」
私の様子を見たレヴィンがそっと声を掛けてくる。
「…いや、大丈夫。気のせいだと思う。」
…何だかとても、嫌な予感がする。
見知らぬ人間に警戒するような人物が、ふと、頭に過ぎった…が、そっとかき消す。
どうか当たりませんように。
心の中で祈った。
_ _ _ _
「…こちらに気づいたのか?」
「ん?シャア、どうしたんだ?」
校舎の廊下で、窓を背に立つ男"シャア・アズナブル"は興味深そうに外を見下ろしていた。
「いや、問題ない。」
「ふうん…? あれ、下にいるのは誰だ?」
シャアと同室のガルマ・ザビもまた窓の外に視線を向ける。
視線の先には制服ではなく、スーツを身に纏った男二人が歩いていた。
士官学校の学生達は揃ってその二人に釘付けになっている。
「…そういえば、ドズル兄さんが新しいシステムを導入するとか言ってたな。彼らはその関係者かもしれないね。…随分と若いみたいだけど。」
ここからでは周りの生徒の姿も重なって少し見えづらい。
ガルマも気になり始めたのか目を凝らして観察している。
「そうか。」
二人の内、背の低い男の顔を、どこかで見たような気がする。
「僕も気になるから、今度ドズル兄さんに聞いてみるよ。」
ガルマは好奇心を隠せない様子でシャアの顔を見て言った。
「…わかったら是非聞かせてくれ。」
シャアはニヤリと笑って答える。
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「では、本日から作業を行っていきます。前日に説明した通りまず…」
校内のチェックを終えた後、全員でミーティングを行った。
…通信会社との連携も大丈夫そうだ。
そしてついに、私達は本格的に仕事を始める。
・・
「もう少し左…そう、そこです。…うん、反応良し。大丈夫です!そこに固定をお願いします!」
中継器の設置を行い、反応を逐一チェックする。
数台の設置が終わったが、まだまだこの広い建物の中の1割が終わったというなんとも気の遠くなるような現状だった。
「…ふぅ、一旦休憩しましょうか。」
こういった政府の関係する施設での仕事は失敗が許されない。
テクノロジーが進化したこの世界でも、アナログ的な作業は残っている。
それぞれに休憩を取ろうと、私は生徒が行き来する校舎から少し離れて人気のない場所を探した。
授業が終わった学生達の姿が少しずつ増え始めた為、足早に移動し適当な建物の影に隠れる。
「…ふぅ。」
薄暗い空間に人がいない事を地べたに座り込み、目を閉じた。
エステルとして生きていた思い出のジオンは、今では忌むべき地となった。
どこに仕掛けられたのかもわからない爆弾を探しながら歩くような現状に疲れが溜まる。
絶対に、ここでエステル・ヴェセーラである事がバレてはいけない。
そうして、色々と考えながら、壁を背にして目を閉じたままでいると、一つの足音が近づいてきているのがわかった。
ザッ、ザッ
足音からして男だろう。
ジッと動かないで足音が通り過ぎるのを待つ…が。
「…おや、大丈夫ですか?」
どうにも運がないらしい。
青年が私の姿を見て体調を崩していると勘違いしたのだろう、声をかけてきた。
「…いえ、大丈夫です。少し休んでいただけでして。」
声の主を辿れば、逆光でうまく姿が見えない。
「ああ、そうでしたか。これは失礼いたしました。」
座ったままでは悪いと思い、私は立ち上がって砂を軽く払いながら青年に近づいた。
「いえ、気にしないでください。…あ、私は最近こちらでシステム改修作業を行っている者です。…貴方はこちらの学生さんですよ、ね………」
逆光で見えにくかった顔が認識できるようになり、私は一瞬言葉を失った。
柔らかい金色の髪。目を覆うサングラス。
彼は元キャスバル・レム・ダイクン…現シャア・アズナブルだ。
「…どうかしましたか?」
不思議そうな雰囲気を出しつつも、確実に警戒の雰囲気を出している。
「…いえ、一瞬知り合いに見えて…気のせいだったようです。暗かったのでそう見えただけですね。」
とりあえず、怪しまれない程度に誤魔化す。
しかし、向こうはそうはいかないらしい。
「…いえ、本当に"知り合い"かもしれませんよ。…どこかで貴方に会った気がするんです。」
彼が目を細めてこちらを射抜くように見つめている。
徐々に、ジリジリと距離を詰められ私は後ずさる。
…最悪だ。
最終日ならまだ何とでもなったのに、こんな初っ端から会ってしまったとなると…私の命が危ない。
「上手く隠しているようですが、男として振る舞うのは大変でしょう。」
彼に会ったら見破られる事はわかりきっていた。
「…私に近づいてきたのもわざとですか。…あの日の視線は貴方だったわけですね。」
壁際に追い詰められたのなら最早諦めるしかないだろう。
「やはり気づいていたか。…しかし、君は何者だ。なぜ私を知っている?」
最早取り繕うのもやめたのか、素の彼が表に出ている。
「何者もなにも。…私も貴方と同じ様な者ですから。」
私の言葉に更に警戒心を強めたシャアが、私の首を右手でそっと包むように掴むとあと少しで鼻同士が触れそうな距離まで顔を寄せた。
今ここで絞め殺すことは無いだろうが、いつでも殺せるぞという感情がひしひしと伝わる。
私は負けじとすぐ近くにある瞳を真っ直ぐ見つめ返して続けた。
「私は貴方と同じ"偽物"です。貴方もそうであるように、私も見つかれば無事ではいられないでしょう。…私は死にたくありません。貴方も今死ぬわけにはいかないでしょう?こんな事はやめましょう。」
ここで話すにはあまりに危険。さらに、目の前のシャア…いや、キャスバルという男もまた躊躇なく人を殺せるような程危ない存在である事もわかる。
「…名前は。」
「アラヤ・ストロムです。」
「そうでは無い。君の…」
「アラヤ・ストロムですよ。"シャア・アズナブル"さん。」
彼の言葉に被せるように、私は再び名乗る。
関わる気はないという、意思表示を込めてしっかりと目を見つめる。
「…いいだろう。だが、君は私を知っているのに、私が君を知らないというのはフェアじゃないと思わないか?」
意地でも名乗らないのが伝わったのは良いが、それでも私の正体を暴く事を諦めない。
興味を持たずそのまま放っておけばいいのに。
「覚えていらっしゃるかわかりませんが…幼い頃、パーティーで会っています。髪色は今と違います。」
それだけ言って私は首を掴んでいる彼の手を軽く手で払って逃げ出す。
「私は敵ではありません。…では、作業に戻りますので。」
味方でも無いけれど。
足早にその場から移動するが、引き止められることも、追いかけられることもなかった。
逆にそれが不気味に感じ、私は余計なストレスが増えた事を実感する。
…そういえば、シャアの声がちょっと違ったような気がする。
いや、気のせいか。単純に忘れてしまっただけかも。
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「敵でない…命を狙われる程となれば…」
ダイクン派か。
しかし、パーティーで会ったと言っていたが…
各勢力との交流も兼ねて開かれたパーティーはいくつも存在する。
ダイクン派の娘……
一つ言えるとするならば、私はあの目を知っている。
私は建物の影から出て、彼女が去った方角を見つめた。
すぐに答えないにならば何度でも問いただせばいい。
死にたくないと言いつつ恐れを一切見せない彼女の姿を思い出すと、自然と口角が上がった。
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