北方水滸伝



 暁の空。梁山泊を包む闇を、光が食んでいく。
 そんな中、診療所の主はそっと息を潜め、ある部屋を覗く。そこには、友が静かに寝息をたてていた。

「林冲。おい、林冲」

 まさか、いやそんな筈はない。急いで駆け寄る。昨日からまるで動いていない彼の口元に、静かに耳をあてる。

 林冲が微かに言葉を漏らした。

 ばっ、と身を離す。絞り出すような声だった。口元に耳を当ててたからか、はっきりと聞き取れた。何だか、聞いてはいけないものを、聞いてしまった気がした安道全は、静かにその場を去った。

 安道全が出ていった部屋に飾られた小さな花瓶には、白い花が風に揺れていた。
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