北方水滸伝
満月。ふと鉄笛の音が響く。林冲は隣にいた百里風を撫でながら、後ろに控えていた鉄笛の音の出所である男を見る。
「いきなり、どうした」
暫く音色に耳を傾けていた林冲が、ぽつりと呟く。百里風が静かに離れ、草を食みはじめた。
「何となく。林冲殿の背中を見て、吹こうと思った」
「そうか」
林冲は月を仰ぎ見た。馬麟が隣にやってくる。
「死ぬなよ、馬麟。何が何でも生き抜け」
「何です、いきなり。それに、貴方が其を言うんですか」
「受け売りだ。俺にこんな事を言った奴は、あっさりと逝ってしまったよ」
馬麟は言葉に詰まった。林冲の言う人物は、なんとなく予想がついた。
静寂。馬麟は静かに、鉄笛を再び奏で始めた。生きてほしい、その願いを、一心に込めて。
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