北方水滸伝
人の動きではない。
眼前に広がる光景にそう思わざるを得なかった。
湖塞に入り、腕試しを行うことになった林冲は、十六人が一斉に己にかかってくるように言い放った。やめたほうが良い。そう考えて一歩前に踏み出したが、林冲の鋭く強い瞳が、それを拒んだ。心配するな、と伝えてきていた。
林冲の闘う様は、舞のようであった。
時を忘れ、見惚れた。
「安道全」
林冲の大きな声で、はっとする。
目の前には、対峙していた十六人が呻きながら倒れていたり、うずくまっている。咄嗟にけがの具合を判断し、重傷そうな者に駆け寄った。
それぞれを見て回ったが、どれも見事なまでに急所を外している。骨折も、日常生活において、大して不自由のない部位である。
「全く。不思議な奴だ」
あの雪の日に痛いほど感じた、凛と佇む彼の隠しきれない優しさを思い出す。
これだからこそ、魅かれてやまないのだろう。この、不器用で優しい友に。
