北方水滸伝



「林冲殿?林冲殿、入りますよ」


 先ほどから声をかけても返事がない。明かりが点っているので中に林冲がいると馬麟は分かっていた。


「何の様だ。帰れ」


 不意に絞り出すような声が聞こえた。

「どうしたんですか、林冲殿」

 扉の向こうで、激しい音がした。何かが倒れた様な音だ。馬麟の背中に嫌な汗が流れる。扉に手をかけるが、鍵がかかっているのか開かない。

「林冲殿。開けて下さい」

 扉を激しく叩く。林冲からの返事はない。馬麟は無心で叩いた。

「どうしたのだ、馬麟」

 索超が通路に現れた。調練帰りなのか、腰には剣が履かれていた。
 馬麟はとっさに引ったくるようにその剣を引き抜き、扉を破壊し部屋に侵入した。

「おい、馬麟。何を」

 言い終わる前に、馬麟が剣を落とした音が響いた。何事かと、索超が静かに部屋に入る。目に飛び込んできた景色に、索超は目を疑った。


「そんな。林冲殿」

 そこには倒れ、固く目を閉ざしている林冲がいた。部屋に転がり込むようにして入った馬麟が、必死の呼びかけと共に上半身を抱き起こしている。林冲の口元には血がついていた。

「おい、医者を」

 索超は林冲の口元に手をやり息を確認し、外に向かって叫ぶ。林冲はそんな索超の腕を掴んだ。微かに手が震えている。

「やめろ、馬麟、索超。呼ばんでいい」

 言うやいなや林冲は噎せ、血を吐いた。喉が笛のように鳴っていた。
 馬麟と索超はお互い顔を見合わせ、索超が林冲の首を叩いた。林冲が馬麟の胸に倒れ込む。

 二人は走った。


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