北方水滸伝



「林冲殿、いかがしました?」
「大丈夫だ。すまない、先に帰らして貰う」

 立ち上がった時、一瞬足がもつれた様に見えたが、すぐにいつもの様にしっかりした足取りで出ていった。



 めまいがする。一刻も早く、横になりたい、と身体が叫んでいる。それに、自分がいたら、思う存分楽しめないだろう、という思いも林冲はあった。


 騎馬隊の駐屯地に帰った林冲を見かけ、駆け寄ってきた人物がいた。


「林冲殿」
「郁保四か」

 そう言うやいなや、林冲は倒れこんだ。郁保四は慌てて林冲を支えた。林冲の身体は熱かった。聞こえる息も荒い。

「林冲殿、しっかりして下さい。林冲殿」

 誰か、と叫ぼうとした郁保四を止める様に、林冲がゆっくりと立ち上がった。

「すまん。もう休め、郁保四」
「ですが、林冲殿」
「いいから。俺も今日はもう休む。行け」

 何かを言いたげに林冲をじっと見つめる郁保四にもう一度、行けと目で合図する。郁保四はゆっくりと離れ、去っていった。しきりにこちらを振り返る。


 郁保四が見えなくなったら、ふいに腹の中で何かが暴れた。ひとしきり噎せたのち、掌を見ると、そこには赤いものが広がっていた。身体がいくらか楽になった。


「天命か」


 林冲は空を見上げた。今宵は新月。満天の星が広がっている。


 童貫との決戦が迫っていた。





※林冲がもしも、原作と同じく病気持ちだったら……という。




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