第十章
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西と東のルーキーがぶつかりあう。ものすごい動きで動き回る遠山くん。前に、白石と某ジェダイマスターの話をしたが、まさにそんな動きだった。楽しそうにテニスをする遠山くんに思わず頬が緩む。
時計を見る。立海の準決勝も始まっているだろう。四天宝寺と青学の準決勝を見届けた私は、うめに伝え、立海の試合に向かった。会場を出るときに丁度、亜久津と会った。改めてお礼と自己紹介をし、またモンブランの美味しい店があったら情報交換するとなり、連絡先を交換した。
立海の試合会場に向かう途中、氷帝が負けた時の立海とのやり取りを思い出す。
氷帝の勝ちを信じていた。今回こそはと。けれど、青学は強かった。手塚は次は分からないと言っていた。その言葉は嬉しかったが、次はもうない。片づけをしながら、気持ちの整理もつけていた。たけが不二に声をかけられており、行っておいでとうめと共に見送った。
それからすぐ、立海の皆に声をかけられ、私は笑顔で答えた。決勝で待っていると前に幸村に言われたことを思い出し、その約束を果たせなかったと思うと、鼻の奥がつんとした。
「まつ。無理をしなくていい」
そう言い幸村が私の肩に手を置いた。その優しい声に、私は溢れてくるものが止められなかった。負けたことに関して、どうこうしたいという思いはない。納得もしている。これは真剣勝負。勝者がいれば敗者がいるのは当たり前だ。今まで氷帝が勝った対戦校も、いや、この会場にいる皆が同じ思いをしている。けれど、やっぱり悔しかった。情けないけれど、涙を止めるすべが分からなかった。全力で勝負に挑んだ氷帝の皆の前で涙を見せたくはなかった。そんな私の思いを分かってか、立海の皆が私を隠すように囲んだ。
私が落ちついた様子を見て、立海の皆が元気づけるように声をかけてきた。
「皆ありがとう」
「まつ先輩が喜ぶなら、俺何でもしますから!」
「じゃあ赤也。まつに飲み物でも買ってきてあげて」
「えっ、ちょっと幸村?!」
もちろんですとか言って、止めようとしたがものすごい勢いで行ってしまった切原。どうしようかと戸惑っている私をよそに、幸村が「さて」と呟く。
「まつ。赤也をどう思う?」
「どうって?素直な子だなって思うよ。可愛い後輩って感じ。テニスは、頭に血が上るとちょっと怖いけど」
「ふふ、そうだよね」
「後輩だから、これからの成長が楽しみだよね。うちの日吉と鳳と樺地も。まだまだ進化できるだろうね」
今日の試合で私はそれに確信をもっていた。そう言うと幸村が笑う。立海の皆が顔を合わせ、頷いている。
「何かあるの?」
「次の準決勝。何があっても心配する必要はないからね」
「?」
意味深なことを言われ首を傾げると元気な声が少し離れたところからした。切原が戻ってきていた。本当に買ってきた飲み物を受け取るのに遠慮していたが、いつの間にか仁王が私の鞄に容赦なくつっこんいた。
立海と名古屋星徳の準決勝の会場が見えてきた。何か異様な雰囲気が漂っている。
人ごみに紛れるように、試合の様子を見る。すでに2試合が終わっているようだ。そのスコアボードを見て驚く。
立海の勝ちだろうと思っていたが違った。今は切原が戦っている。相手選手は外国の人だろうか。よく見ると相手のベンチにいるのは全員外国の人だった。
痛そうといった声が聞こえる。切原が相手選手にラフプレーをしたのだろうかと思ったが、相手選手は問題なさそうにコートに立っている。コートにはその相手選手しかいない。切原はどこだろうと探すように、皆の視線を追う。なんと、そこには血を流しながらフェンスに磔のようになっている切原がいた。思わず口元に手を当てる。
いったい何が。
王者立海は準決勝で敗退かといった声が聞こえる。ゲームカウントは5-0。この試合を落とせば立海が負ける。氷帝や四天宝寺に続いて立海も敗退してしまうのかと戸惑う。
「切原……」
思わず名前を溢す。相手選手が、英語で切原を思いっきり煽っている。その言葉を柳生が切原に向け翻訳するが、余計な一言がついている。その言葉に、切原が怒る。全身が血の色に染まり、髪も白髪になっている。見ていた誰かが悪魔と呟く。
ベンチにいる立海の皆の様子をうかがうと、皆が計算通りといった表情をしている。あの時、幸村は心配いらないと言ったが。切原がいないときに見せた立海の皆のあれは、切原を成長させるためにこういったことをするということだったのか。
理解はしたが、攻撃的な切原をみて身体が震える。先ほどの銀さんと河村の試合を思い出す。これまでの流血のあった試合が思い起こされる。勝利への執着。それは大切なことだ。分かっている。彼らの三連覇にかける思いも、伝統を背負う思いも分かっている。けれど、あんなに痛々しいものなのだろうか。
先ほどの一球勝負をしている遠山くんの笑顔が浮かんだ。テニスが楽しいと全身で表現していた彼。
切原が勝利を飾った。人ごみに紛れていたが、次の試合のためにコートに向かってくる仁王と、目があった気がした。私は震える身体を叱咤し、準決勝のコートを後にした。
アリーナコロシアムに戻ると、入り口にはまだたけたちがいなかった。
中で音がすると思って会場に入ると、なんとまだ東西ルーキーが一球勝負していた。驚く私に、うめがお帰りと声をかける。うめが打ち合いをしている二人について語る。
突然越前くんが姿勢を崩す。それをチャンスとばかりに遠山くんが何か叫ぶ。同時に、四天宝寺の皆が、伏せろと叫んだ。銀さんの百八式より危険とはどういうことか。
ものすごい衝撃が会場を襲う。何事かと驚く私は、覆いかぶさるように温かいものに包まれていた。
激しい衝撃が収まった。
「大丈夫かまつ」
「跡部。平気だけど、いったい」
「何が起きたんですか」
跡部に守られるように支えられていた。日吉や樺地も前に立っている。うめは忍足に守られるようにして抱きしめられている。
砂ぼこりが消えた会場を見ると、テニスボールが半分ずつそれぞれのコートに入っている。皆が何が起きたのか分からない顔をしている。
両者引き分けでルーキー対決は幕を閉じた。
それから会場の設備の人が慌ててやって来て、会場の破損具合等を確認していた。危ないからすぐに出るように言われ、明日ここで行われるはずだった決勝が3日後に延期されることが決まった。
「あれ何だったんだろうね」
「とんでもないルーキーやな」
先ほどのことを疑問に持ちながら会場の外に出てたけと合流する。外では、決勝のカードが決まったと声が上がっていた。やはり、決勝は関東大会と同じ。立海と青学の戦いとなった。
「何か青学が決勝進出祝いを兼ねて焼き肉するらしい。誘われたんだけど折角だし、氷帝の皆も行かね?」
「まじまじ?!俺もお肉食べたEー!」
「是非ご一緒させてください」
「確かにいいな。行こうぜ跡部!」
「場所はどこなん?」
「ちょっと待ってな。……ほら、ここだってさ」
「お、なかなかいい店じゃん!」
「仕方ねえな。行くぞお前ら。もちろんVIPルームはあるんだよな」
たけが青学の焼き肉パーティーを聞きつけ行こうとなった。
「まつさんも来ますよね?」
「うん。行くよ。あまり遅くは無理かもしれないけれど」
「何かあるんですか?」
「天文部の天体観測が今日あるんだ。まあ、行かなくてもいいらしいけど、最後にちょっと顔をだすかんじでも行けたらなって」
「天文部がまともに活動しているなんて珍しいな」
「たまたまだよたけ。夏休み中は今日だけだし。あ。日吉、もしUFO見つけたら連絡するね」
「待っています」
夏休み前に天体観測の日を決めたあの時、まさか氷帝が全国大会に参加するとは思っていなかった。全国行きが決まったとき、天文部の部長からテニス部優先!と言われた。
とりあえず焼き肉に一緒に行くかと思い参加することにした。むこうで忍足と跡部が、何か話している。そこに滝も加わり、私の方をちらちらと見ている。何事かと思っていると、跡部がこっちに来た。
「おい、まつ」
「なに跡部?」
「時間、あるか」
焼肉屋さんへ向かおうとなったタイミングであったが、跡部の真剣な眼差しから何か大切なことのような様子だった。返事をすると、少し歩こうと皆とは違う方向に行く。まさかヘリコプターかなんて思い口にしたらお前なと呆れられ小突かれた。
空は夕暮れ時で赤く染まり始めていた。今日は赤をよく見る日だ。