第九章
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全国大会3日目の午後。ついに全国大会準決勝が始まった。
アリーナコロシアムでは青学と四天宝寺が、屋外のテニスコートでは立海と名古屋星徳の試合が行われる。
私はたけ達と一緒に青学の試合を見ている。
「初戦は周助か」
「四天宝寺は白石くんだね」
試合を見つめる。白石のテニスは相変わらずの無駄のないテニススタイルだった。昨年度から部長を務めていると聞いている。いい顧問に出会えたようでよかった。
試合前、白石にシングルス3で出ること、準決勝を見守っていて欲しいことを告げられた。あの頃と違う四天宝寺の、皆で目指した四天宝寺のその姿を見て欲しいと。
チェンジコートの際に、白石と目が合った。白石はこちらに微笑み、右手につけているリストバンドを左手で握っていた。あのリストバンドは皆で誓った時のだ。よく見ると、四天宝寺の皆が着けていた。光は2つ左手に着けている。その1つはもしかして……。
あのままもし、何事もなく四天宝寺にいたら、今頃私はあのベンチにいたんだろうか。白石の試合を見守りながら、謙也や光たちと言葉を交わしていたのだろうか。新しい顔の、遠山くんや今は辞めてしまったと聞いたが千歳とはどんな関係を築いていたんだろうか。
そんなことを思っていると、跡部がやって来たのか、私の隣に立った。視界に青と白のユニフォームが入る。前に氷帝のマネージャーだと言われた時のことを思い出す。自分の纏うユニフォームを見る。それは今傍に立っている人たちと同じだ。私の手首には、もうあのリストバンドはない。
そうだね。今までも、これからも私は氷帝だ。そう思い前を向く。
たけは青学を応援している。関東大会の決勝と同じだ。全てを出し切った氷帝。全国大会、どちらが勝っても、どこが優勝しても祝いたい。
今は白石が、四天宝寺が応援を望んでいる。なら、私は四天宝寺を応援する。再び目が合った白石に頑張れと微笑み返した。
「たけには悪いけど、白石を応援するね」
「何今更なこと言ってんだ。気にすんな」
「うん」
「じゃあ私は応援する二人を応援するね」
「はは。新しいなそれ」
「うめらしい」
試合は白熱した。不二は試合の中でも凄まじい進化を遂げていた。新たな技を生み出し、白石を追い詰めるもあと一歩届かなかった。
シングルス3は白石が制した。たけが悔しがる不二を見つめている。
「行ってもいいんじゃない?」
「他校だろ」
「けど、不二くんにとって大切な人だよ」
そううめに言われ、たけは不二の元に向かった。座る不二にタオルをかけ、隣に座り手を握っていた。
それからあの四天宝寺のラブルスと、青学の2年生ダブルスが行われる。覆面と言う秘密兵器を使用し、タイブレークの末、青学が勝利した。
シングルス2。河村と銀さんのパワー勝負が始まった。
「ねえ前にいつか死人出るんじゃないかとか言ったけど、ほんとに出そう」
「河村」
波動球により吹き飛ばされ、流血している河村。見ていて痛々しい。もうやめた方がいいのでは、と思った時、河村を客席で支えた人物がいた。
「あの人は……」
「何だまつ。亜久津を知っているのか?」
彼は以前、幸村のお見舞いの日に不良から助けてくれたモンブランの人だ。疑問を口にする跡部に、前に偶々あったことがあることを伝えた。亜久津と言うのか。しかもテニス選手だったらしい。彼が河村を励ます。
河村の執念が、青学の勝利をもぎ取った。
ダブルス1に手塚が出てきた。乾と手塚のペアと闘うのは、千歳と光だった。千歳はやめたと聞いていたが。手塚のダブルス出場と千歳の復活。その意外なオーダーに驚く。
私たちの近くで女の子と試合を見ていた千歳が、謙也に言われコートに向かう。忍足が謙也は出ないのかと宍戸の口癖を交えながらこぼしている。
千歳の背中を見送る謙也は、少しばかりだが悔しそうな顔をしている。
「謙也」
「おう。強い奴がコートに立つ。当たり前のことや」
いつもより元気のない謙也。さっき、準々決勝で敗退した氷帝の私を元気づけるように明るく接してくれた。私はよし、と決意し謙也の名前を大きく呼ぶ。突然のことに、なんだと驚く謙也に向かって拳をつくる。
「じゃんけん!」
ぽいっ!と勢いよく言う。謙也も咄嗟だったが、出している。じゃんけんは私が勝った。
「あっちむいて!」
ほいっ!と重ねて言う。全力で謙也が顔を向ける。私の示した方向も、そっちだった。全力で負けた謙也にちょっと申し訳なくなる。
「だああ!まった負けたわ!!」
「激ダサ」
「うっさいわ!……けど、ありがとな。元気出たわ」
「さっきのお礼だよ」
謙也が私の肩を握りこぶしでトンと叩く。その顔は笑っていた。
試合は無我の奥の扉を開いた同士の戦い。名目上はダブルスだが、実質シングルスになっていた。扉は同時に開くことが可能出ることを手塚が示し、青学の勝利が決まった。
青学の決勝進出のアナウンスが鳴り響き、両校がテニスコートに並ぶ。不二はコートに向かう時、たけの額にキスを落としていた。幸せそうに微笑みあう二人に、なんか見ているこっちがむず痒くなった。うめが横で、きゃっと声を上げていた。
準決勝にて敗退。昨年度と同じ結果になった四天宝寺。
跡部も手塚に強くあれと言葉をこぼし、満足したように会場を後にしようとしたとき、遠山くんが声を上げる。その一言は、四天宝寺の皆に強く刺さるものだった。遠山くんは駄々をこねるも、白石が諦めるように諭す。その言葉に、表情に胸が締め付けられる。
白石が拳を強く握り、前を見ている。その横顔が一瞬、1年の時の地区大会の時と重なる。あの四天宝寺が敗退が決まった時、悔しさを滲ませながら苦し気に、進み続けることが全国までの近道だと語っていた白石。個性あふれる集団をまとめる彼は、チームの勝利のために完璧であり続けている。そんな彼が当時は自己犠牲的に見えて不安だった。けれど、信頼の眼差しを受ける今の彼や彼を支える仲間たちは、あの頃とは違う。悔しさを滲ませながらも、どこか明るい。確信をもって次を見据えていそうだ。
コートを去ろうとした選手たちに、客席の誰かが大きくお願いをする。
一球勝負ならとなり、遠山くんと越前くんの東西ルーキー対決が始まった。