第九章
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ついに青学とのリベンジマッチが始まる。
今回、シングルスは忍足、樺地、跡部。ダブルスは向日と日吉、宍戸と鳳というメンバーで挑む。対する青学はどうくるか。跡部は、シングルス1は越前、シングルス2に手塚が来ると踏んでいた。予想が外れても、誰が来ようが勝つだけだと言っていたが。
「周助はでるんだろうか」
「どうだろう。侑士くんと当たったりしたらちょっとやだな」
「彼氏対決になるもんね」
「ストレートだなおい」
緊張を紛らわすように私たちは極力いつものような会話をする。
アナウンスが会場に響き渡る。いよいよ試合が始まる。
氷帝コールが響く。今日はいつにもまして観客が多い。というより、氷帝応援団が多い。
榊が青学のことをもはや関東大会初戦で戦った相手ではないと評価を下す。だが、実力は五分五分。勝利を掴むのは我が氷帝学園だと喝を入れ、試合が開始された。榊は相変わらず気持ち悪いけど、言うことは正しい。
シングルス3。忍足に対して青学は曲者と言われる桃城だ。桃城の投げたタオルは風に誘われベンチにたどり着く。その様子に青学の1年生が驚いている。
前回もダブルスではあったが、対戦した二人。桃城が小石にボールを当て起動をずらしたりしている。アウトに見えたボールも風によりベースラインに落ちた。
「あいつ、山籠もりしていたとか言ってたけど、自然を読む力でも身に着けたのか」
たけが呟く。桃城の洞察力が研ぎ澄まされている、そう思わざるを得なかった。試合は4-0という桃城のペースになっていた。うめが祈るように忍足を見つめる。忍足はそんなうめに微笑みかける。雰囲気が変わった。
忍足がポイントを取り返していく。桃城がどうやら忍足の心理状況を読むことができなくなったようだ。それに加え、以前立海との練習試合で見たあのテクニックを十二分に発揮している。
「千の技を持つ天才、そういうことね」
「すごいね二人とも」
柱に頭をぶつけ流血していてもなお、桃城は諦めなかった。越前がそんな桃城に声をかけている。青学は決して諦めない、それはこれまでに何度も見てきた。そして、それで奇跡と呼べることを何度も起こしてきていることも。跡部が忍足に声をかける。きっと、皆同じことを思っている。
試合の中で進化している桃城に、忍足の顔つきも変わる。跡部は恐らく、桃城の傷の具合から忍足には持久戦で挑むように思っているだろう。けれど、忍足はそれ分かっていながらあえて拒み、真っ向勝負に挑んでいる。
「あの冷静な侑士くんが、あんなに熱くなっている。そうだよね。氷帝は、侑士くんは二度と負けるつもりはない」
試合を見守っているうめも強い眼差しで言う。
渾身のダンクスマッシュを放つ桃城。忍足のラケットが飛んだが、ボールは桃城のコートに入った。
「ゲームセット。ウォンバイ忍足!6-4!」
会場に氷帝への声援が響く。うめが桃城と挨拶を交わし終え戻ってきた忍足に抱き着いていた。
「やったね侑士くん!ありがとう!」
「やっぱり意外と熱血だよなお前」
「お疲れ忍足」
抱き着くうめの背中を叩きながら、忍足が私たちにお礼を言ってきた。
初戦を取った氷帝。次はダブルス2。日吉と向日、海堂と乾だ。スタミナ勝負は圧倒的に氷帝側は不利だ。データテニスの乾とスタミナの海堂。時間をかければかけるほど危険なのは目に見えている。向日は前回、体力切れが課題だった。持久力向上は1週間という短い期間では厳しい。そこで、同じく短期決戦に強い日吉と組むことで、体力切れの前に決着をつける作戦に挑んだ。
時速200㎞を超えるサーブに驚くも、着実にポイントを重ね5-2と氷帝が優位でいる。
「よし、マッチポイントだな。この試合も氷帝の勝ちだ」
「まつ?どうしたの?」
「……あの汗の量。大丈夫かな」
「松山くんもそう思うか」
勝ちはすぐそこだ。けれど、二人の様子に嫌な予感がしてならない。榊と同じ意見になってしまったのは、この際気にしない。なかなかポイントが決められない中、データテニスが成立しようとしていた。
日吉が諦めるなと向日に叫び、ボールを返す。しかし返したボールの先には構える海堂がいた。その海堂が放つボールは螺旋を描きながら氷帝のコートに決まる。
「何だあれ」
たけが茫然と呟く。あの打球は、回転する事で空気抵抗をほとんど受けてなさそうだ。抵抗がない分、ストレートの打球よりも速い。そこから青学の反撃が始まり、体力切れの氷帝は敗れた。青学、やはりとんでもない相手だ。
「クソクソ」
「俺は、また……」
「あー!二人ともしけた面してんじゃねえ!二人は来年までにスタミナ克服しとけよな!」
「立海のジャッカルのメニューがあるからそれ参考にしてみたらどうだろう」
「たけさん、まつさん」
「お疲れ様。まだ1対1。次、決めていこう」
「うめ。ありがとな」
悔しがる二人に声をかけ、お疲れとタオルを渡す。
シングル3。跡部の予想通り、青学は手塚だった。そんな手塚と闘うのは樺地。
1勝1敗。先は見えない。跡部は樺地に行けと声をかける。
「樺地。頑張ってね」
「ウス」
相変わらずの無表情ではあるが、その瞳には確かに闘志があった。
樺地は手塚の得意技も吸収していた。樺地もポテンシャルの底が見えない一人だ。終わりが見えないようなラリーに、どうなるのか不安になる。いつまでも続くのかと思われたラリーの中、手塚は何かを決めたように零式ドロップを放つ。手塚、どういうつもりなんだろう。
そんな中、手塚が比嘉の時にみせた百錬自得の極みで樺地の球を返す。今まではする側だったされる側になり、樺地は初めて経験に茫然としている。跡部がそんな樺地に声をかけている。
しかし試合展開は5-0で手塚が圧倒的であった。天才が努力をするとああなるんだと思うと、手塚には敵わないと思ってしまう。そんな自分に何を考えているんだと首を振り、樺地を応援する。
「樺地!」
私が樺地に声をかけると、こちらを見た。微かに頷き、試合を続ける樺地。
次の瞬間私たちは目を疑った。樺地は百錬自得の極みまで吸収していたのだ。どうなっているんだと跡部以外の皆が驚愕している。
「勝つのは、氷帝です」
普段無口な樺地が大きく言い放つ。怒涛の勢いで樺地がゲームを取っていく。
「雨?」
うめが呟き空を見る。すると突然雷雨となった。天候も含めて、なんて試合なんだ。この試合はもはや自分自身との戦いとなっている。手塚を心配し止めようとした大石を竜崎先生が止めていた。
突然、樺地がミスを多くするようになった。この悪天候の中で、手塚とそっくりのショットを決めるのは至難の業だ。
経験の差が勝敗を分けた。7-6で青学が勝利を決めた。
挨拶を交わした後も樺地が茫然とコートに立っている。私は樺地の元に行く。途中ベンチに戻る手塚と目が合う。手塚にも「お疲れ様。悔しいけど、手塚はやっぱり強いね」と声をかける。
「樺地。樺地もお疲れ様」
そう声をかけると静かにこちらを見る樺地。無表情は変わらないがその目から色々な感情が読み取れる。
「行こう樺地」
「……ウス」
そう言い樺地の腕を引き、ベンチに戻る。たけもうめも樺地に声をかけている。
私たちと入れ替わるように宍戸と鳳がコートに向かう。やる気満々な宍戸たち。氷帝への声援が再びコートを包む。
しかし、雨により青学との準々決勝は一時停止試合となり、明日に持ち越しとなった。
「雨に……助けられたな」
そう強気に手塚に言う跡部。そんな私たちの前に、越前くんが立ちはだかる。
「いいよ。やろうよ」
跡部と同じく強気な越前くんは、生意気なルーキーだとラケットで頭を小突かれている。
「越前くん。また明日」
そう言い私たちはコートを後にした。
1勝2敗。青学が大手をかけている。
明日の9時、再び試合が始まる。私は雨を降り落とす空を静かに見上げた。