第八章
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まつが跡部に助けを求める。跡部がそんなまつ に返事をするように頷いた。
「やっと言いよった。その一言を口にするのにどんだけかかるねん」
「光」
二人の前に、財前が現れた。
「いつまでひっついとるんスか跡部さん。離れてください」
そう言い、跡部の腕の中に納まっていたまつを自分の方に寄せる。おいと跡部が言うのにお構いなしに財前はまつの顔を見て告げる。
「不細工な面」
「ふふ、相変わらず辛辣だね。光」
「やっぱりまつは笑っとる方がええわ」
それから、まつはゆっくりと跡部と財前に今までのことを話した。家庭のこと、自身の1年の時のこと。ねずとのやりとり、自分が悩んでいること全てを。
跡部たちはポツリポツリと話すまつの話を黙って聞いていた。
「まつ、前にも言ったがお前は自分を過小評価しすぎている。お前は、よくやっている」
「ほんまに昔から、ごちゃごちゃ考えすぎや」
そう言いながらも二人の口調はどこまでも優しかった。まつがありがとうと伝える。そこには笑顔があった。
「そこおる人らも、一応やけど、まつの力になると思うッスわ」
そう財前が言うと、テニス部の皆がいた。跡部も気が付いていた様だ。驚くまつに、うめとたけが飛びつくように来た。
「まつー!私たち邪魔だなんて全然思ってないよ!むしろもっと一緒にいてほしい」
「さっきは問い詰めて悪かった。まつ。何があっても私たち友達だからな」
「たけ、うめ。ごめん。ありがとう」
まつはうめの手を叩いてしまったことも謝る。気にしなくていいいと言うが、どこか気まずそうにしているまつにたけが横から声をかける。
「それ以上言うなら、榊にハグの罰ゲームにするからな!」
「えー!絶対嫌だ!」
「じゃあ、もうこの話はおしまい!」
いつもの調子の三人組にテニス部の皆も安心したような顔をする。
「まつ。何もしていないなんてことはないよ。実際に、俺はまつに救われたんだから」
「俺もあの時、やけくそになってた時、気付かせてくれたのはまつだったぜ」
思いを伝えてくる皆に、まつはどこか安心した。皆を信じたい。信じられる。そう思った。
「まつ。やっぱり、まつは凄いね」
寂しげだがまっすぐな声がする。ねずだった。突然現れたねずに全員が驚く。たけが彼女に掴みかかるように前に行く。
「てめえ!勝手に色々と、よくもまつと私たちを」
今にも殴りかかりそうなたけを、まつが止める。
「ねず。なんであんなことを言ったの?ねずは何がしたかったの?」
俯くねずに尋ねる。俯き黙っているねずの手には握りこぶしがつくられていた。
「ねず、蔵りんが好きやったん?蔵りんと仲良しなまつが気に食わなかったん?」
「違う!!」
まつを探しているとき皆でなぜか考えていた時にでた内容を金色が尋ねるも、ねずは大きく否定した。だってと口を開く。
「だって、テニス部がまつを私から取るから!私はまつの親友なのに、まつはテニス部ばっかり気にかけて、話題にして。それが悔しかったの!」
そう目に涙をためながらねずは叫び、走り去っていく。
その様子、その言葉に、一部の者は合点がいった。たけが以前にねずの目に対し既視感を覚えたのも。あれはまつを取り巻いているもの達への嫉妬の目だった。そして、たけはうめと話をしたときのことを思い出した。誰にでも優しいまつ。それに寂しさや悲しさを感じるときがあること。
「なんなんスか、あれ」
「赤也。ねずさんは、まつが俺達に取られたと思ったんだよ。自分から離れていってしまうと」
「ええ。まつ先輩は確かに誰にでも優しいですけど」
「彼女は、その優しさが自分だけのものであって欲しいと思ってしまったんだと思う」
幸村が切原に伝える。それを聞いていた跡部も、自分も抱いたことのある感情だと思い、少しばかりねずに同情した。
「私、ねずと話してくるよ。皆は午後の練習の時間になるから、気にせず練習に行って」
大丈夫か心配する声に笑顔で答え、まつはねずを追いかけた。
その様子を見ていた白石に財前が何か語りかけていた。
施設内にいないと分かったまつは、外に出ていた。そして、近くの海辺のところで静かに海を眺めているねずを見つけた。
声をかけると肩を震わせ振り向くねず。逃げようとした彼女に対し、「お話ししよう」と笑顔で言うと、大人しくその場にとどまった。二人で並んで海辺に腰をかける。海は雨上がりでもあるからか、少し荒れていたが、打ち寄せる波の音に穏やかな時間が訪れた。
「まつ。私のこと嫌いになった?」
そんな疑問を泣きそうな顔で口にするねずに、まつは今でも大切な友達と思っていることを告げる。
静かに胸の内をかたるねず。
引っ越しをしてきて、慣れない環境の中、標準語で浮くのではないかといった心配をしてうまく話せないでいた。馴染めない四天宝寺に、友達もなかなかできずいた。そんな中まつと出会った。
まつは標準語が基本でも普通に皆と話していた。なんでも小学生の頃、標準語を指摘されたため関西弁で話したら今度はそれをネタにされたことに腹が立ち、コミュニケーションがとれるんだからいいやと標準語のままでいると話していた。
「ヒエログリフとかだったら無理だけどさ。まあそう上手くいかなそうなときはジェスチャーでいけばいいし」
そんな強いまつにねずは惹かれた。別のクラスだが、たった一人の親友。頭もよくて明るくて堂々としていて、一緒にいられることが誇らしかった。廊下で会えば必ず声をかけていた。しかし、ある日、クラスに来たまつに喜んでいたらまつの目的は、自分でなく白石だった。なんでもテニス部のマネージャーになり、白石と親しくなったようだった。
完璧な白石とまつ。お似合いの二人だなんてクラスの誰かが言っていた。面白くなかった。それからまつがテニス部の皆と一緒に笑いあっているのが嫌に目に付くようになった。そこにいたのは自分のはず。テニス部に怒りがわいた。自分からまつを取るなんて許さない。そう思い、ねずはテニス部からまつを引き離そうと考えた。そうすれば、まつはまた自分と仲良くしてくれると。
しかし、まつはどこか遠くに行ってしまった。
「本当に、バカだなって思う。それに懲りずに……今回も」
今までのことを語るねずは、まつの生い立ちも知り自分が恥ずかしくなった。まつの親友などと言っておきながら何も理解をしていなかった。「親友失格だね」なんて言うと、まつが怒ったような顔をする。
「親友に失格も何もないよ。私ってさ、前もそんな感じで大切な人を怒らせて悲しませた。突然クビだーなんて言われてさ、びっくりした。その時も思ったんだけど、ねずの話、もっと聞けばよかった。それと、大切に思っていることをもっとちゃんと口にして伝えていれば」
あんな誤解は生じなかったと思うと、ねずの肩に手を置きながらまつは言う。ボタンの掛け違いは些細なことでも、それが積み重なり大きな亀裂を生むことがある。
「人ってさ、自分のことでいっぱいいっぱいだから、言葉にしなければ分からないことが多すぎる。そう思ったんだ」
だから、伝えるねと言ってまつはねずに改めて親友だと思っていることを笑顔で紡いだ。
ねずは笑顔でまつに抱き着く。そして、ごめん、ありがとうと謝罪と感謝を交互に何度も口にする。
落ち着いたねずの背中を軽く叩く。ねずはまつの後ろに見えた人物に「あ」と声を出す。まつがそんな様子に後ろを見ると、白石が少し離れたところに立っていた。
「まつ。白石君と話して。私のせいでまつを悲しませてしまった。まつは誤解している」
そう申し訳なさそうに話すねずに頷き白石の方をみる。白石とまっすぐに顔を合わすのは、あの日以来だった。二人の視線がぶつかる。まつは視線を逸らさず、笑顔で手を振ると白石もぎこちなく笑いながら手を挙げる。
そんな二人の様子を見て、ねずはやっぱり悔しいけどお似合いだと思った。まつが「さ!戻ろう!」と言い、立ち上がってねずに手を伸ばす。
その手を掴み立ち上がろうとしたその途端、ねずは浮遊感に包まれた。
「ねず!」
「まつ!!」
その浮遊感のすぐ後にまつが自分を呼ぶ声がしたと思ったら、ねずは手前に引っ張られるようにして、固い地面に投げ出された。
走ってきた白石が手を伸ばしまつの名前を叫んでいる。波の音に加えて、何かか海に落ちるような音がした。
急いで起き上がりあたりを見回しても、まつはどこにもいなかった。
白石が迷わず海に飛び込もうとしてた。その腕を誰かが掴み制止する。
「待ちなさい!」
「うんな海に飛び込むんなって、自殺行為さー」
「田仁志、行けー」
突然現れた集団のうちの、田仁志と呼ばれた大きな人物が「まかちょーけー!」といい海に飛び込んだ。