第七章
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関東大会決勝から一週間。今日は日曜日であり、まつ、たけ、うめは以前に約束していた3人で遊びに来ている。
「パンダ行こパンダ!」
「動物園とか久々だなー」
「私、後でふれあいできるとこ行きたいな」
「待ってろパンダちゃーん!」
「まつはさっきからパンダパンダうるせえ!」
そう言われたけに頭を叩かれるまつ。夏休みに入りはじめて3人揃って遊びに行くため、各々がはしゃいでいた。
それからパンダの列に並びながら、それぞれの近況報告や氷帝テニス部の話など多くの話題があがった。長い列だと3人ともはじめは思っていたが、並んでしまえば話題は尽きずあっという間だった。
「パンダ可愛すぎた。ふれあい館はまだ少し遠いし……よし、次はゴリラに会いに行こう」
「なんでお前そんなチョイスなんだよ」
「まつはゴリラだから、きっと親近感湧いているんだね」
「ちょっとうめ、どういう意味でしょうかね」
「怪力女とかじゃね」
二人に対し「ゴリラは森の賢者だからね!」とゴリラの魅力を力説するまつに生温かい眼差しが送られる。
「氷帝なんだから、次はサル山でいいんじゃない?」
「確かにサル山行ってなかったな……って越前?!」
「ッス」
「俺たちもいるよー!」
「あれー、青学の皆さんお揃いで」
突然会話に入ってきたのは越前だった。3人が現れた越前に驚いていると、青学レギュラーもいた。どうやら、青学は全国大会に向け親睦を更に深めることや関東大会の慰労会も兼ねて動物園に来ていたらしい。動物園は、さらっと零した海堂の一言で決まったらしい。
せっかくなので一緒に回ろうとなった。
「あの猿がボスっぽいね」
「跡部と名付けてあげよう」
「えー可哀そうだよ」
サル山を見ながらそんな会話をしている3人に、可哀そうなのはどっちをさしているのかは聞かない青学であった。
それからゴリラをみたり、ふれあいができるブースに行ったりした。海堂はどうやらウサギと戯れるのを楽しみにしていたらしく、ふれあいブースでは嬉しそうにしていた。3人は青学と動物園を満喫した。
午後は暑くなるのでもともと近隣の博物館など屋内の施設に行くつもりだったため、全員で動物園を後にした。
近隣には、博物館、科学館、美術館が揃っており、せっかくなのでそれぞれが興味ある場所に別れて見ようとなった。
「私はもちろん美術館かな」
「うめはそうだよなー。まつはどうする?」
「ん?そうね折角だし3人とも別々にしよっか。私は博物館も科学館も好きだからどっちでもいいかな」
「じゃあまつ、お前はデータテニスが気になっていると蓮二から聞いた。是非とも共に科学館に行きデータを極めよう」
「あー、やっぱり博物館に」
「たけ、一緒に博物館回ろう」
「周助。そうだな」
乾がまつの肩を掴み眼鏡を光らせながら言う。その気味悪さに博物館に行こうとするも、不二がたけの手をとっていた。
「ちょっと!待って、私が博物館に」
「まつは科学館だよ」
「え、嘘。不二さーん!何かあなたうめと同じ感じがする!そうだったの?!」
「まつ。私と不二くんのどこが同じなのかな?」
有無を言わせず笑顔で答える不二にまつが驚いていると、それを聞いていたうめが更に笑顔で圧をかけてくる。
「私!前の学校で仏閣同好会だったんだからね!めっちゃ仏像とか興味あるからね!」
「ぜってえそれ、また人数調整枠だろ!」
そんなことを喚きながらまつは乾に引っ張られていく。覚えてろたけなどと悪役のようなセリフを溢しながら消えていくまつたちの後を、越前と海堂がゆっくり付いていった。
博物館にはたけと不二、河村、桃城が、美術館にはうめと大石と菊丸に行くことになった。
科学館。最初は別々になんて言うんじゃなかったと零していたまつであったが、科学館の展示は面白いため純粋に楽しんでいた。
「ふむ。やはりまつが青学にいたら、俺と理系科目の首位を争っていた確率100%だな」
「意味わからんので、乾はまた今からデータを捨ててください」
「まつさんが青学にいてくれたら俺普通に嬉しいですけどね」
「そうだな」
乾とまつのやりとりの横で、二人に聞こえないくらいの声で言葉にする海堂と越前であった。
美術館では厳粛な雰囲気が漂っていた。時折ひそひそ話のようなものが聞こえるが、館内に響くのは自分たちの靴音だけといった様子が続く。うめは作品をじっくり眺めながら、自分の今度のコンクール作品のことも考えていた。その様子を大石と菊丸の二人は綺麗だと思いながら見ていた。
うめは忍足が自分の部室に来たあの日をふと思い出し、少し顔が赤くなった。美術館を出た後に、大石たちに何かあったか聞かれ、忍足のことを話すと二人とも驚きながらも祝福してくれた。
「そうか、うめちゃんは忍足くんと」
「ちょっとショックだけど、うめちゃんが幸せなら何よりだにゃ」
「二人とも、ありがとう」
一方の博物館は、たけは不二と手をつなぎながら回っていた。その横には桃城、河村がいる。たけと不二がつきあっていることは、青学の皆は知っている。展示を見ながら、テニスの話もしていた。
「杏ちゃんや桜乃ちゃん、朋ちゃんたちと今度テニスしようってなったんだ」
「そうなんだね。僕も混ざろうかな」
「女の子同士の秘密の会合だからダメ~」
「ふふ。仕方ないね」
前の練習試合で竜崎と小坂田と、桃城の紹介で橘とたけは仲良くなっていた。またテニスをしようとしているたけに不二は安心したように微笑んでいる。
仏像の展示の付近に来た時、河村が先ほどのまつの言葉を思い出したのかたけに尋ねる。
「そういえば、まつちゃんってさっき前の学校とか言ってたけど、転校生なのかい?」
「ああ。1年のおわりくらいに氷帝に来たんだよ。どこから来たかは分かんねえけど、西の方とか言ってたかな」
西の方なら桃城も西だねと言った話になり、桃城が九州の小学校を出ていると知り驚くたけだった。
それから今週に千葉で行われる六角との合同合宿の話題になり、たけは日帰りで手伝いに行ける日に行くことになった。
それから全員がまた合流し、青学と今日のお礼を言い合い解散となった。たけはまた火曜日にと言葉を交わしていた。
「さて、気が付けばこんな時間だね」
「ごはん行こうか」
そんな話をしていたら、まつの携帯に跡部から連絡がはいる。3人ともここに来いと場所が示されていた。
「なんだこれ」
「なんで私たち3人一緒だって知ってんだ?」
「あ。なんか侑士くんから連絡きた。氷帝の皆で、一緒に焼肉に行くことになったって」
「なるほどそういうこと」
「跡部言葉足らずすぎだろ」
跡部の奢りかな、豪華すぎる店だったらちょっと嫌だねなんて言いながら、私たちは示されたお店に向かう。
着いたお店は庶民的な店で安心した。きっと宍戸あたりがチョイスしてくれたのだろうと3人とも思い、宍戸にお礼を述べる。
お店に入ると、すでに氷帝はいたようで、お店の人に席に案内された。
「お、皆揃ってる!」
「なんかこうやって皆が揃ってるの久しぶりだね」
夏休みに入り、3年生で毎回顔を出すのは宍戸くらいで他はポツポツ来る感じであったため、こうやって氷帝のレギュラー陣が揃うのは関東大会の決勝ぶりだった。
どうやら今日マネージャー3人で遊ぶ約束をしている会話を聞いていたらしく、前に奢ると言った約束を思い出し企画したらしい。
「そういえば、確かに滝と奢るとかそんな話してたかも」
「覚えてるなんて意外と律儀だね」
「覚えているに決まってるよ」
「お前たちには本当に感謝してんだぜ」
「宍戸さんの言う通りです」
「やっとお返しができて嬉C」
そんな会話をしながら肉を焼いていく。
やはりお店は宍戸や向日たちの選択らしく、跡部の舌にあうものがあるのかと全員が少し疑問に思っていたが、本人はそれなりに楽しんでいそうなので安心していた。
様々な話題で盛り上がりながら、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。まつたちはまさか氷帝のテニス部とこのような時間を過ごすことになるとは、つい数か月前までは考えられないことだったと思い返していた。
そろそろお開きとなる頃、まつの携帯に幸村から着信が入った。まつが幸村からだ、と言い電話に出る。その様子を跡部は見つめる。
退院した幸村の体調を気遣っていたり、部活での様子を聞いていたりしている。まつは何か言われたのか、はじめは困ったような表情をしていたがやりとりをしていく内に、笑っていた。そして、たけたちに今度の木曜日のローテーションどうだったかと聞き、自分の当番でないことを確認していた。
「うん。行けると思う。けど本当に大丈夫?」
そんなことを話している。いったいどんな会話をしているのか跡部は気になって仕方なかった。
「ありがとう。私も皆に会えるの楽しみにしている。よろしくね」
そう言い、何か言われたのか「はいはい」と呆れるような返事をして電話を切るまつ。たけたちがどうしたのか聞いており、跡部もその内容に耳を澄ます。
どうやらまつは今度の木曜日、立海のテニス部に行く約束をしたらしい。またまつから立海の話題が出ている。そう思った跡部は、先ほどのまつの電話でのやりとり、そしてなにより電話で見せた笑顔、楽しみにしているといった発言、すべてが面白くなかった。自分のこの感情が分からないまま、跡部が静かにそして冷たくまつに言い放つ。
「まつ。お前は、どこのマネージャーだ」
「跡部?」
「お前は、明日から来なくていい」
自分の口から出ているとは思えない内容に、跡部自身も驚くが止められなかった。まつは突然のことに驚いている。氷帝の皆も跡部の様子に戸惑いを隠せていない。たけやうめも何言っているのかといった意見を述べている。普段冷静な忍足も少し焦りを交えながら、跡部を止めようと声をかける。
跡部も冷静になったのか、自分の発言を振り返る。違う、来なくていいなんて思っていない、そうまつに弁明しようとしたが遅かった。黙っていたまつは跡部を見つめながら静かに口を開く。
「……分かった」
もう帰るね、と言ってまつは帰っていた。日吉がまつの名前を呼びながら追いかける。たけやうめも追いかける。
「俺、こういう雰囲気苦手です」
「俺も」
先ほどまでの楽しさが、一瞬で気まずい雰囲気なり鳳と向日がつぶやく。
「跡部、お前何であんなこと」
「……分からねえ」
まつを特に気にかけていた跡部が、あのような言動をするとは思わなかったのか、宍戸が跡部に抗議するように伝える。樺地も心配そうな面持ちで跡部を見つめている。
「跡部、嫉妬でまつに当たるんは間違うとる」
「嫉妬、だと……?」
「ここまでとは思わなかったよ、景吾君。いい加減気が付いた方がいい」
忍足や滝が跡部に声をかける。誰よりも観察力に長けた氷の帝王は、自分自身への感情に関しては不得手のようだった。