第七章
Name Change
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跡部の用意したバスに乗り、私たちは幸村の入院している病院に向かう。バスの中で、携帯を開き連絡先の一番上にある人物に、改めてお礼のメールを送る。携帯を受け取ったとき、最初から入れられていた連絡先。自分から連絡することもないだろうと思っていたが、一応部長だし何かあった時用にと、消さずに残しておいてよかった。てっきり業務連絡用のものかと思っていたが、プライベート携帯の連絡先と聞き驚いたのは最近のことだった。
送信し終わり、息をつきながら外の風景を眺める。ふと窓の反射越しに仁王と目が合う。何事かと思い、そちらを見ると「ぷり」と言い目を逸らされた。なんだこいつ。
「仁王君は、まつさんが今日の試合、自分の変装に気が付いていたんじゃないかと聞きたがっているんですよ」
「え、まさかの通訳?!今のあれだけでなんで分かるの?!」
柳生が横から通訳をしてきた。なんだこいつら。まあ確かに変だな、とは思っていたがなんて返しておく。それからも、何か考えると幸村の手術に関してネガティブになりそうで皆と会話をしていた。話題の中には、今日の試合の話題も多く上がった。そんな中でどこか上の空、落ち込んでいる様子の切原に声をかける。
「切原。全国決勝に私を連れて行ってくれるんでしょう?」
「あ、当たり前ッスよ!」
「じゃあ、明日から更に頑張らないとね」
「もちろんです!あ、まつ先輩が出張マネージャーとかしてくれてもいいんですよ!」
「一応、私は氷帝のマネージャーだからね。それに他校が来たら偵察って疑われるでしょう」
そう言いつつも、たけは青学のお手伝いによく行っていることを思い出した。
「何言ってるんですかー。今更ですって」
「そうだぜい」
「そう易々とデータはとられない。そもそもまつはデータを取るのが下手そうだ。最も、俺たちはデータを取られたところでさして問題は無いがな」
「ちょっと!柳なんかそれ私をバカにしてるでしょ」
「……まつはいつでも来るがいい。幸村も喜ぶ」
「一番嬉しいのなんやかんや真田副部長なんじゃ」
「赤也!!」
「ってジャッカル先輩が言ってました!」
「俺かよ!」
負けた真田と柳もはじめは少し固い表情をしていたが、徐々に気持ちの整理がついたのか次の全国大会に気持ちを切り替えてきていた。
関東大会は終わった。今は、幸村の戦いを見届けなくては。
病院に着いた時も、まだ幸村の手術は行われいていた。手術の待合室で幸村の家族と会った。そこで、今の状況をきく。
日曜日に無理やり押し込んだ予定だったのだろう、手術は今は幸村のみで、待合室に他の人たちはいなかった。私はただひたすらに祈った。
「まつさん。そう力まなくて大丈夫ですよ」
「ほんと、普段元気な赤也やまつが静かだと調子狂うぜ」
「柳生、丸井。ごめん」
「謝る必要はない。気持ちは分かる」
気が付けば握りこぶしをつくり、手術室の入り口を睨みつけるように見つめていたようだ。安心させるように柳が私の肩に軽く手を置く。
病棟の看護師さんが待合室に入ってきて、もうすぐ手術が終わることを伝えてきた。幸村の家族は待合室を出て手術室の出入り口に向かった。私たちも、少し離れたところからその様子を見る。
医師が出てくる。家族と少し会話をし、再び手術室の中に入っていく。心臓がうるさい。どうだったのだろうか。
幸村の家族がこちらにやって来る。皆が固唾をのんで見守る中、幸村の妹が大泣きしていた。まさかという思いが全員によぎる。
しかし、告げられたのは私たちが願ってやまない内容だった。
手術は無事に終わった。幸村は、再び立海の部長として戻って来る。
切原や丸井は病院だというのに全力で喜んでいた。それに「静かにせんか」と言う真田の声も大きい。それを指摘する柳。あ、こんなやり取り前も見た気がする。
皆の顔が一瞬で明るくなった。幸村の妹も、再び兄がテニスをすることができることに感極まっていたようだ。
「幸村、勝ったんだね」
そう呟くと、手術室の扉が開き、医師と看護師がベッドを押しながら出てきた。幸村の家族が声をかけている。家族の人たちも涙をためながら、笑顔を溢している。少しして、家族が私たちの方を手招きした。私たちも早歩きで幸村の元に向かう。
幸村は麻酔から覚めたばかりだからか、少しぼんやりしている様子だったが、言葉ははっきり聞こえた。どうやら関東で負けたことは知っていたようだ。皆がすまないと口にする。
「全国は俺もいる。皆、また一緒にやっていこう。優勝を、今度こそ」
「常勝のお前がいれば心強い」
「部長ー!本当に、本当によかったです。俺、今度こそ勝ちますから」
各々が幸村に労いの言葉をかける。幸村もそれに微笑みでかえす。「まつはいるかい」と声をかけられ、真田が私をもっとこっちに来るように誘う。
「まつ、ありがとう」
「おかえり。幸村」
そう言い布団から手を出し持ち上げる幸村。その手を掴む。その手はまだ冷たかった。一瞬、その冷たさが怖かったが、握っているうちに暖かくなってきていた。昔の母との思い出とも重なり、涙が零れそうになる。
看護師さんがそろそろ病棟に戻りますね、と声をかけベッドを押していく。幸村の家族はそのまま幸村と共に病棟に向かったが、私たちは今日はこれで引き上げることにした。
真田に明日来れそうかどうか聞かれた。無理はしなくていいとのことだったが、立海が迷惑でないなら明日氷帝の部活が終わった後に向かうと告げた。
病院の入り口で皆と会話を交わし、解散となった。駅まで送ると言われたが、関東大会決勝の激戦を終えた皆にはゆっくりして欲しいと断った。
駅までの道すがら、気を遣ってくれた跡部に再度連絡を入れようと思った。立海の皆もお礼を言っていたし、幸村の手術が成功したことも伝えなくては。
メールにするか電話にするか悩んだが、なんと打つべきか悩み結局電話をかけた。コール音が響く。何かかんやで跡部との電話は初めてだ。出るだろうかと考えていたら、すぐにコール音が止まり跡部の声がする。
「跡部?」
ー俺様に電話なんて珍しいじゃねえか。
電話越しでもいつもと変わらない。私は、幸村の手術が無事に終わったこと、また彼がテニスをできることを伝えた。
ー神の子の帰還か。まあ、あいつならそうだと思ったぜ。で、まつはこれから帰るんだよな?
「うん。とりあえず今日はありがとう。また明日ね」
そう言い私は電話を切ろうとした。
「また明日。と言いたいところだが、俺様のヘリで送ってやる」
「は?」
電話越しで聞いていた声が後ろからする。振り向くと跡部が後ろに立っていた。その手にはまだ携帯がある。絶句する私に「アホ面だな」と笑いかける跡部。どうしてと呟くと、マネージャーのお迎えだなどと意味の分からないことを言っていた。
しかもさっきなんて言った?ヘリ?ヘリって……ヘリコバクターピロリ?んな訳ない。
「ヘリコプターで来たの?」
「当然だ。あっちに用意してある。来い」
有無を言わせず私は跡部に引かれ、ATOBEと記されたヘリコプターで帰宅した。なんてやつだ。いや、そもそもなんでここにいるんだ。
いろいろと突っ込みどころが多いが、ぶっ飛びすぎていて氷帝にヘリポートなんてあったんだなんて至極どうでもいい感想しか言えなかった。
とりあえず送ってくれたことのお礼を言い、今度こそまた明日といって別れた。