第六章
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あの日、まつが帰るのと入れ替わるように家族が見舞いにきた。そこで俺は家族にすべてを相談した。それから、医師との面談を次の日に実施することとなった。医師としても話したいことがどうやらあったらしい。
医師との面談は、外来の後だから夕方になるとのことだった。テニスなんてもう無理だろう、そう言われるのではないかとあの時聞こえた会話がずっと頭の中で繰り返される。
部活を終えた真田が見舞いにきた。今日は真田だけらしい。昨日の俺のあの様子から、気を使ったのだろう。皆も行きたがったが、俺だけだと言う真田はまだどこか気まずそうな感じだ。入ってきた真田にいつもの感じで挨拶をすると、どこか安心したような様子だった。そして、お礼を言った。
「なぜ俺に礼など?もう十分言われている。何度も言うが、気にする必要はない」
「苦労をかけている。それも事実だ。あと、今回のお礼はまつのこと」
「まつだと?」
「昨日、俺のところに向かわせてくれたろ」
「あいつは誰に言われた訳でもなく、勝手に来た」
「ふふ、けど彼女を追い返さずに病室に行けと言ってくれた。ありがとう」
「……まつとは話せたか?」
そう言う真田に、昨日のことを伝える。あいつらしいな、という真田はどこか嬉しそうだった。
そして、俺が一昨日に聞いた医師と看護師の会話も伝えた。真田も絶句ししている。けど、まつや皆のおかげで俺はまた立ち上がろうと思えたこと、医師としっかり話をしようと思い、これから家族と共に面談をする予定であることも伝えた。だが、思い浮かぶのはこの前の言葉。正直に怖いことも伝えた。いっそのこと逃げ出してしまいたかった。
黙って聞いていた真田が徐に立ち上がった。そして……俺の頬を叩いた。
突然のことに困惑する俺に真田が静かに語る。
「以前の合同練習の時、まつに言われた。殴られる方も殴る方も痛いと。その通りだな」
「真田?」
「俺は今のこの痛みを忘れん。逃げるな幸村。必ず道はある。共に歩もう。俺たちは仲間だ」
静かに語る友に思わず目頭が熱くなる。そうだ、まだ諦めてはいけない。そう思っていると、看護師さんから家族が来たことと、面談が始まることを伝えられた。俺は返事をし、真田に行ってくると伝える。
帰宅する真田と共に病室を出たら、そこには立海の皆がいた。真田も驚いている様子から、彼も知らなかったのだろう。皆と呟くと病院だからか、小声で皆が俺に応援を送ってくる。
「ありがとう」
この場にはいないが、俺に勇気をくれたまつにも届け。
そして、俺は僅かな希望を掴んだ。
今のままではテニスは二度と無理であろうという、この前の会話の内容を話された。その時はやはり希望などないのだと絶望した。しかし、医師はそれから話を続け、説明されたのは、手術のことだった。ただ、その手術は結果が0か100かというものだった。確率は五分五分。成功すれば何不自由なくテニスが再びできる。失敗すれば、下手したら一生寝たきり。予約状況等を踏まえて、最短でも行える日が27日らしい。関東大会決勝の日だった。もし、手術をしなければテニスはできないがそれなりに生活はし続けることができる。
医師は急ぐ必要はない。ゆっくり考えてみてほしいと言い、面談は終了した。
それから家族と少し話をし、明日以降にまたゆっくり決めていこうとなった。妹は俺がまたテニスできるかもしれないことを喜んでいた。
家族と別れ、病室に戻る。病棟に戻ると、看護師さんからこの前の子が来てるわよ、と伝えられた。一瞬誰だろうかと思った。
「あの子、中学生なのにしっかりしてるわよね。入院中の食事制限とか気にして、お見舞いの食べ物を渡していいか聞いてきたりとか、この前初めて来たのにお見舞に慣れてる感じがしちゃう。流石、幸村君のガールフレンドだわ」
看護師さんの話から、まつだと思った。俺は少し早歩きで病室に向かう。病室のドアのところでまつが待っていた。まつはやあと挨拶をしてくる。部活を終えてから来てくれたらしい。俺は今日も来てくれたことが嬉しかった。
病室に入り、お互いに座ったところで今日のことを伝えた。まつは嬉しそうな顔をしていた。だが、どこか心配そうな面持ちでいる。
「悩んでると思っている?」
「まあ。確率は五分五分で0か100なんでしょう。しないって選択肢もあるみたいだし」
「まつ、前に言ったよね。俺からテニスを取ったら何も残らないんだ」
そう言う俺に、何となく俺の選択を想像したのか。そうだよね分かったと笑うまつ。医師はゆっくり考えればいいと言った。確かに確率は高いとは言えない。けれど、手術をしなければ俺はテニスを二度とできない。
もう、迷いはない。
「明日、家族や、真田たちに伝える」
「うん」
「明日も来てくれるよね」
「えっ」
「来てくれるよね」
「ヨロコンデ」
笑顔で俺が言うと、まつも笑顔で返してくる。笑顔が引きつっていたので頬をつついておいた。
ふと時刻がそれなりに遅くなっていることに気が付く。
「気が付けば、こんな時間だね。家の人が心配するんじゃないかい?」
「確かにもうこんな時間。じゃあこの辺で」
そう答えるまつの顔に一瞬、影が差したように見えた。笑顔でじゃあねと立ち上がるまつ。そんなまつの手を掴み、改めてお礼を言う。
「ありがとうまつ。本当に、助けられたよ。俺に何かできることがあれば言って欲しい」
まつは少し戸惑うような様子でいる。
「ありがとう幸村。そうだね、今はしっかり手術に勝つことかな」
笑顔でまつは俺の手に手を重ね答える。そして、今度こそまたねと言って帰っていった。
本当に、君は面白い子だ。跡部が夢中になるのも納得かな。
次の日、家族が来た時に俺は自分の意思を伝えた。そして、手術を27日に行うことになった。
部活終わりに来た真田たちにも伝えた。同じ日に場所は違えど闘う俺たち。改めて常勝を誓った。
俺を心配させないように、俺がいなくても勝てるといった赤也。それに少し揶揄いをいれたりした。いつもの立海の雰囲気だった。
赤也とジャッカルが途中で用事があるとかで少し外すこととなった。それから近況報告を真田や蓮二から受けていると、仁王がまつの名前を呟いた。急に名前がでたのでびっくりしたが彼女はどこにもいない。
「仁王君、前回は本当でしたが、今回はどこにもいませんよ。揶揄うのはよしなさい」
「いや、なにやら外でまつの声がする」
そう蓮二が言うと同時に病室のドアがノックされる。柳生が開けると、そこにはまつがいた。まつはびっくりしてドアを閉める。
「待ちんしゃい」
「なぜ閉める」
そう言い真田が閉じたドアを開ける。
「いやその中に氷帝の私がいたら明らかに変でしょう。場違い感すごいでしょう。それに、開けたら皆がこっち見てるって軽くホラーだからね!」
などと言うまつに、何を今更と言った雰囲気で仁王が引っ張って中に入れる。仁王になぜ来たのが分かったか聞くと、どうやら窓から見えたらしい。流石の観察眼だね仁王。
大人しく病室に入り、会話に加わったまつ。手術を行うことも改めて伝えた。丸井がまつの持ってきた手土産に興味をもつ。どうやら今日は立海の皆が来るだろうと思い、和菓子も持ってきたらしい。
それからも真田、蓮二、仁王、柳生、丸井、まつと話をしていると、赤也たちがなかなか戻ってこないという話になった。帰りがてら拾いにいくかと皆が行こうとしたタイミングで丁度、蓮二の携帯に突然連絡が入った。個室なので電話できると伝えると、蓮二が電話をとる。
「弦一郎、トラブル発生だ」
どうやら、赤也たちになにかあったらしい。