第六章
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次の停車駅のアナウンスを聞きながら、窓を流れている見知らぬ土地を眺める。私は鞄とケーキの入った箱を抱えながら、先ほどまで格闘してた文明の利器に再び視線をうつす。
風邪をひいた次の日に、見舞いと称した跡部から押し付けられた携帯。マネージャーとして、今回みたいなことがないように持っておけと言われた。有無を言わせない態度は相変わらずだった。とりあえずテニス部マネージャーでいる期間は使わせてもらおうと受け取ったはいいものの、使い方が今一つ慣れない。
昨日は跡部から休むよう命令されていたため、体調は回復していたが家で大人しくしていた。部活帰りに家に寄ってきたたけとうめ。関東大会2日目の様子を聞きながら、情報交換をしていた。部活指定日でないフリーの日でも、日曜日を除いてテニスコートは開放しているため、無理のない範囲で誰かしらマネージャーはいるようにしようとローテーションを決めていた。今日はたけが顔を出しているだろう。二人に携帯を貰ったことを伝え早速連絡先を交換し、何となく使い方を教えてもらい電話やメールはそれなりに分かった。試しにメールを送ってみたら全て件名に要件を書いていたようで、たけに爆笑されたのは記憶に新しい。
私は昨日の夜、たけたちが帰った後の静まり返った部屋で風邪をひいていた時のことを思い返していた。一人で病と闘うというのは想像以上に心細かった。
そんなことを思っていると幸村のことを思い出した。彼は今、入院して病と闘っている。彼も心細くなったりするのだろうか。合同練習の時に見舞いはいつでも歓迎だと言っていた。社交辞令だと思ったが……行っても迷惑ではないだろうか。
色々と考えたが、行っても邪魔そうだったら帰ればいいか、など開き直り、私は今日、幸村の入院している病院に向かっている。
思えば今日は朝から散々だった。普段はほぼ見ないのに、たまたま見ていたテレビでの朝の占いでは私の星座は最下位だった。信じる信じないにせよ、最下位というだけで何となくブルーだった。まあ今以上に酷いのはないということでいいか、なんて無理くりポジティブシンキングした。
お見舞いに行くならば何かしら手土産を持っていこうと思い、前に駅前にできたという不二とたけが出会ったあの洋菓子店に寄ることにした。その途中で、考え事をしていたせいか不良に絡まれた。完璧な因縁だった。最悪だと思っていたら、これまた不良以上にガラの悪そうな学生に助けられた。白い制服なんて珍しいものだなんて思った。そのまま去ろうとした人に、お礼をしようと思い声をかけたが、最初は無視された。「あ、その……ケーキとかどうです!モンブランが美味しいお店があるんです」なんて言ったら、その人は一緒に来てくれた。モンブランをお礼にお渡ししておいた。こんなんでいいのだろうか。厳つい人とモンブランなんて不思議な組み合わせだ。名前を聞く前に去って行ってしまったが、いい人だった。
そうしてやっと電車に乗るか、と思い駅に入ったら丁度信号トラブルとかでなかなか電車が来なかった。ケーキが腐ったらやだななんて思いながら、やっと電車に乗れた。
そんなことを思い返していると、目的の駅のアナウンスが入る。鞄に携帯をしまい、降りる準備をする。
幸村から聞いていた病院を見つけ、病院入り口に向かう。この感じ、懐かしいななんて思うと胸が微かに痛んだ。
すると、見覚えのある集団がいた。やっぱりあの見た目はびっくりサーカス団のようで目立つな。そう思っていると、彼らの引率の保護者にしか見えない人物が私に気が付いた。どうしようかと思っていたら、その彼の様子に気が付いた別の人物も私に気が付き名前を言う。
「仁王先輩。いくら俺を元気づけようとしても、まつ先輩がここにいるなんて
「アホじゃのう赤也。見てみんしゃい」
「そんな訳……って、えー!まつ先輩!ほ、本物ッスか?!」
「たわけ!病院では静かにせんか!」
「そういう弦一郎が一番騒がしいぞ」
病院の入り口付近にいたのはびっくりサーカス団こと立海テニス部の皆さんだった。全員がこちらに顔を向けると怖いのですが。無視するわけにもいかず、私は遠慮がちに彼らに近づき「こんにちは」と挨拶をする。
真田、柳、切原は関東大会で会ったが、それ以外の皆はあの合同練習にあったのが最後である。それでも気さくに話しかけてくれた。お菓子の匂いがするといって手に持っているケーキの箱に丸井が素早く反応する。お前の嗅覚どうなっている。ちょうど立海の皆もいずれ来るだろうと思い焼き菓子を幸村に渡そうと買っていたので、それを鞄から取り出し丸井に渡した。その場で開けて食べ始める。お前というやつは。ああ、やはり真田に怒られている。
彼らも先ほどまで幸村のお見舞いに来ていたらしい。関東大会を順調に勝ち進んでいることを伝えたという。だが、どこか皆浮かない顔をしている。
「まつさんも幸村君のお見舞いですか?」
「ええ、そのつもりで来たけれど」
柳生の質問にそう答えると、ジャッカルが「幸村としてもまつには会いたがっていたが、今日はやめた方が……」と呟き顔を曇らせている。
「幸村に何かあったの?もし、容態がよくないなら」
「いや。問題ない」
帰ろうかと続けようとした私の言葉を遮るように、柳が言う。そんな柳に真田が何か言おうとしていたが、何かを察したのか黙りこんでしまった。
「まつ。精市のこと、よろしく頼む」
そんなことを言いながら、幸村の病室番号を伝えられる。戸惑う私の背中を皆が押す。口々に頼んだといったような言葉を発するが、私に何を頼んでいるんだ。
とりあえず行ってくると言い、立海の皆に「またね」と手を振り病室に向かった。