第六章
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
部活に戻り、たけたちにまつの様子を聞かれる。
「枕を投げてくるくらい元気だったぜ」
「跡部……お前、まさかまつを襲ったのか」
「まつ、なんてことなの」
「そんな訳ないだろ馬鹿か」
しかもその襲うとかいう単語だけに反応した部員たちがあらぬ誤解を抱き、日吉からゴミを見るような目線をもらった。勘弁してくれ。
ちゃんと誤解はとき、午後の練習も終える。
「夏休み初日なのに、普通にハードでしたね」
「こういう日こそ普段より力入れてやるんだよ」
そんな鳳と宍戸の会話を聞きながら、今日は終わりだと声をかける。
「跡部さん、まつさんは」
「心配するな。このあとまた様子を見に行く」
「俺も行きます」
「心配なのは分かるが、大人数で行っても迷惑だ。まつには俺と樺地が行くと伝えた」
「……わかりました」
渋々了承する日吉。襲わないでくださいねなんて言われた。俺様を何だと思ってやがる。そんな日吉にたけとうめ、忍足が声をかけていた。
部活の戸締りも終え、まつの家に向かう。
朝はインターフォンを押しても反応がなく、扉を叩いても反応がなかったため鍵を開けて入った。何か起きたのか心配しながら入り部屋のドアをあけたら思いっきり枕が飛んできた。何事かと思ったが、顔を赤くして少し気だるげな様子からすぐ体調が悪いと気が付いた。昨日の雨であれほど濡れ鼠になっていたんだ。風邪をひいたのだろう。
そんなことを思い返していると、まつの家の前についた。インターフォンを押すかどうするか悩んだ。寝ている可能性もある。とりあえず1回は押すかと思い、押したが反応はない。鍵を開けて入る。静かだった。
俺は枕が飛んでくる可能性も少し考慮しながら静かにドアを開ける。部屋も静かだった。布団に山があり、そちらに向かう。
まつは寝ていた。
顔は穏やかだったが、首筋に手をあてるとまだ少し熱がありそうだった。樺地がでこに貼っていたものを替える。
こいつの寝顔をみるのは2回目だ。ふと、あの時のノートは今どうなっているのだろうかと思った。座ったまま軽くあたりを見回す。
朝の時はさして気にしなかったが、ここはまつの家。他人の家に行くことなど滅多になかった俺にとって、この空間は不思議な感じだった。狭いな。物も必要最低限な感じだ。寮生活と言っていたが、一人暮らしか。転校生と聞いたが、どこから来たのか隠されており分からなかった。普段が飄々としている分、まつは謎が多かった。
机に目をやると見覚えのあるノートがあった。そちらに行くと、ここで勉強もしているのだろう、教科書やたくさんのノートなど整理整頓されて置かれていた。それらを見るだけで普段から勉強をしていることが分かる。まつたちをマネージャーにして少しした頃、クラスメイトがまつを「あいつ特待生だし天才だよ」「なんでもできそうだし羨ましいよな」なんて言っていたのを思い出した。きっと表には出さないが、努力をしているのだろう。天才がこんな泥臭く勉強するか。こいつは典型的な秀才タイプだなと思った。
俺は以前より少し草臥れたノートを手に取り、再びページをめくる。新たに他校の欄ができていた。まだあまり埋めていなさそうだが。
あの時は文句を言っていたが、俺が書き込んだものは消さずにそのままにされていた。宍戸の欄に書いた「努力の天才」という文字から矢印が伸びている。それは俺の名前に向かっていた。元からナルシストだがそれに見合う努力と観察力とメモには書かれていたが。
「相変わらず面白いことしやがる」
そう言っていると、樺地がまつの名前を呟いた。起きたか。
「樺地?」
「俺様もいるぜ」
「何してんの」
「また来るって言っただろ」
「ほんとに来るとは」と呟くまつは起き上がろうとした。それを止め、まだ寝ているように伝える。どうやらまつは、昨日俺が貸したタオルを返そうとしたらしい。「他のも干してあるから」といって立ち上がり取りに行った。
少しして戻ってきたまつの手には綺麗にたたまれたタオルがあった。
「乾燥機ないから柔らかさが減っちゃった。ごめん」
「気にするな。わざわざ洗わせて悪かった」
まつはまた布団に入ろうとするが、途中で何か思ったのかまたどこかへ行こうとした。
「どこに行く?」
「お客さんが来ているのに何も出さないのはまずいかな、って思って」
「そんなの気にする必要はない。もう帰るさ」
そろそろ行くかと思ったら、インターフォンがなった。なんだと思い出ると、たけたちがいた。
「なんでお前らがいる」
「まつー!襲われていないか大丈夫か!」
「病気のときはゼリーやろ。お届けに来たで」
「玄関前で何を騒いでいるの……って、なんかいっぱいいる」
「まつー死んじゃったかと思ったよ!」
「勝手に死なすな」
「まつさんは寝ていてください。これ置いたら帰りますから」
そう口々にいう連中から差し入れを受け取り、まつは困ったように笑いながらお礼を言っている。
「そうだ。たけ、せっかく明日誘ってくれたのにごめんね。行けそうにないわ」
「体調優先!気にすんな」
「ありがとう」
跡部も樺地も今日はありがとうねと言って笑いかけられる。その笑顔を見て胸があつくなる。「まつは火曜日まで休め」と伝え、俺たちはまつの家を後にした。