第六章
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今日は夏休み初日。昨日の雨が嘘のように空は雲一つなく晴れわたっていた。
氷帝男子テニス部のテニスコートでは、テニスボールを打ち返す音が心地よく響いていた。
「なあ、まつがこの時間まで来ていないなんて珍しくないか?」
「何か連絡きたか?」
「ううん。私もたけも、何も聞いていないけど」
「今まで連絡なしで休みなんてなかったがな……」
「忘れてるとか?」
「いや、昨日帰るときにまた明日って言って別れたよな?」
「うん」
部活の開始時刻を過ぎても姿が見えないまつのことを皆が心配していた。いつもは早く来ているまつ。何かあったんだろうか。まつは携帯を持っていないから連絡の取りようもないし。
そんな風に困っていると、久々に部活に跡部くんが姿を現した。しれっと樺地くんが跡部くんの後ろにいる。
「なんだ、そこで固まって何サボってやがる」
「跡部!お前今までどこほっつき歩いてたんだよ!」
「あーん?別にほっつき歩いてたわけじゃねえよ」
そう言い、日吉くんに「どうだ少しは成長したか」なんて声をかけている。皆それぞれ跡部くんに声をかけており、嬉しそうなのが分かる。
そんな跡部くんが「まつはどこだ」という。まだ来ていないことを伝え、何か聞いていないか私たちも尋ねる。けれど、跡部くんも何も聞いていないらしい。連絡をとってみろと言われるも、まつが携帯を持っていないことを伝える。跡部くんは今時持っていない奴いるのかなんて驚いているけど、いると思うよと皆がツッコんでいた。
「どうした跡部」
「監督」
そうしていると、榊先生が現れた。夏休みの部活初日だから様子を見に来たのだろうか。跡部くんがまつが来ていないことを伝え、何か聞いているか尋ねる。榊先生も聞いていないらしい。
「松山くんは氷帝の寮だったな。様子を見に行ってくるか」
そう呟く榊先生にみんなが反応する。確かに前にまつのお父さんらしき人が来た時、寮がどうとか言っていたことを思い出した。
氷帝に寮なんてあったのか、と皆が驚く。なんでも大学が管轄している寮らしく、寮と言ってもマンションの部屋を借り上げているようだ。氷帝生は自宅から通う人が殆どのためその存在を知っている人はほぼいないらしいことを簡単に説明してもらった。そういうことだったのか。
「なら私が行きます。松山の部屋は知っていますので」
「わかった。部長のお前ならいいだろう。行ってよし」
そう言い跡部くんに、マスターキーのようなカギを渡す。なんですぐ出てくるの気持ち悪。けど、なんで跡部くんがまつの部屋を知っているんだろう?
「跡部、私たちも」
「馬鹿野郎マネージャーの仕事をしていろ。お前らも練習だ。行くぞ樺地」
「ウス」
そう言い、跡部くんは行ってしまった。樺地くんは連れて行くんだ。
氷帝テニス部でそんな会話が行われている頃。
私、松山まつは人生で初めて風邪というものをひいている。
昨日の夜、跡部と別れ真っ先にお風呂に入ったが冷えた体はなかなか温まらなった。明日の部活に間に合うように、洗濯をかけて炊飯器のタイマーをセットし、机上を整理した後に布団に入った。
そして朝起きたら、全身に鉛がついているようなダルさだった。何事かと思った。起き上がる気力も起きない。
これが世間一般に言う風邪か。こんなにつらいものだとは思わなかった。とりあえず熱を測ろうなんて思ってもダルくて動けない。あと部活に連絡を入れなくては。
そうは言っても、体が全ての行動を拒否して布団とこんにちはしている。これはそうだ、ピンチだ。こういう時は、身を隠すべきに限る。野生生物だってピンチの時は身を隠すものだ。そう思い私は布団を頭までかぶり、身を縮こまらせた。
それから少しして、インターフォンが鳴った。もう一度インターフォンが鳴る。新聞勧誘か、お断りします。そう無視していると、扉の方から軽くノック音がする。そこまでするのか今時は。勘弁してくれ。それでも無視を決め込んでいると、なんと鍵が開く音がした。
「ちょ、ちょっと!ホラーですやん!」
そう言い私は、生存本能なんのその。また別のピンチにあれほど怠かった体が、布団を跳ね除け起き上がる。
不法侵入者に警戒し、とりあえず傍にあった枕を構える。
足音からして二人。枕は一つしかない。窓から逃げるにしてもこの階からは無理だ。枕を1人目に投げてそれでよろけさせて後ろの2人目もその1人目が倒れることで動きを封じてその後……
そんなことをぼんやりする頭を何とかフル回転させて考えているうちに、廊下から部屋につながるドアの前に人影が現れる。ガチャリと開いた瞬間に「喰らえ!!」と言って思いっきり枕を投げつける。侵入者は油断していたのか、顔に枕がヒットした。よし逃げるぞと意気込んだが、あれ、あの服?
「何してやがるまつ」
「あ、跡部ぇえ?!」