第六章
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今日は夏休み前の最終登校日。明日から夏休みだ。
楽しみなはずなのに、私の心は今日の空のようにどんよりとしていた。曇天の灰色を眺める。
雨が降りそうだ。
「おっすまつ!昨日、買い出しに行ってくれたんだってな。ありがとな」
「うん。たけはどうだった?青学と聖ルドルフ」
「なかなか楽しかったぜ。青学も手塚はいないけど、大石がうまくまとめている感じだな」
「そっか、明後日あたるのどこだっけ?」
「埼玉の緑山だってさ」
「応援行くの?」
うめがきき、「もち」と返事をするたけ。よかったら一緒に行こうと誘われた。今まで他校の情報を取っていなかったこともあり、せっかくだし取りに行くかなんて思った。来年の日吉たちの役にたつ情報を得られるかもしれない。
1学期の修了式、生徒代表で跡部が壇上に上がった。跡部を見るのは久しぶりだ。相変わらず派手だななんてたけが耳打ちをしてくる。元気そうでなによりです。そう3人とも同じ感想をもつ。
教室に戻り、諸々の事務連絡ののち、それぞれケガのないように過ごすようにと担任の話が締めくくられ、下校となった。
部室に向かい、準備をしていたが雨が降り出した。
「あちゃー。1学期最終日が雨かよー」
「今日は部活無理だね」
「屋内が使えないこともないけど、明日から夏休みだし今日そこまで無理してやる必要もないかな」
そうしていると、監督の榊も現れ、今日は部活がなしとなった。
「うめ、よかったらこのまま一緒に出掛けん?」
「そうだね。行こうかな。まつたちも行く?」
「ありがとう。けど、せっかくだし二人で行っておいで」
「私は周助に連絡とってみるよ」
そんな会話を聞きながら、私は戸締り役を引き受けた。また明日ねーといって、それぞれが帰っていくのを見送る。
明日から夏休みにはいり、3年は今以上に来なくなるだろう。少し残念な思いも抱えつつ、部室のチェックをする。
ふと、トロフィーが飾られている棚に目が行く。新たに飾れるようにと、今までのトロフィーを整理して空スペースを作った記憶が思い出された。今は、結局そこだけが空白になっている。
「来年の日吉が埋めてくれることを願ってこのままでいいよね」
そんな独り言をいい、部室の鍵を閉める。
雨が私に当たる。傘忘れたな、なんて今頃思う。家が近いからいいが。このまま着替えずに帰った方が、洗濯も楽かななんてのんきに考える。
することがないと、色々な考えが浮かんでは消えていく。ましてや、昨日あの人に会ってしまったのも大きい。ちょっとしたことで今は泣きそうだ。自分の心の弱さにあきれる。
私の父。父と言っても、直接会って認識したのは2年前の冬。それまでは母から存在を聞いていても、会ったことがなくどんな人か分からないままだった。
今更、一緒に暮らすなんて無理だ。どうして今更そんなことを言うんだろう。なんで今頃また現れるのか。
私はどんどんネガティブになる自分にいかんいかんと思い、雑念を振り払うように荷物を部室の前の屋根のあるところに置き、テニスコートの周囲を走った。
久しぶりだ。こんな風に走ったのは、あの合宿で海堂と一緒に走ったのが最後だったかもしれない。
海堂。青学。関東大会。
マネージャーとしてもっとできることがあったはず。他校の調査とか全くしていなかった。もっと、一人一人に支援ができたんじゃないか。もっと……。またこの後悔だ。
「あああ。だから!ネガティブすぎるって!!元気出せまつ―」
そう自分を鼓舞するものの、うまくいかない。
たけとうめの顔が浮かんだ。彼女たちは過去に折り合いをつけて前に進んでいる。今日だってそうだ。二人は着実に前へ前へと。
それなのに私は……
「私は、何をしているんだろう」
雨に濡れ、テニスコート横で立ち尽くす私は、我ながら惨めすぎる。
帰ろう。
そう思い、重たい足取りで荷物を取りに向かう。
「まつ?」
少し歩いたところで声をかけられる。
声のした方をみると、屋内のどこかでトレーニングでもしていたのか、スポーツウェアを着て傘を差している人物がいた。
「跡部……」