第五章
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関東大会が終わったと同時に全国大会も終わった。まあ世間的には関東大会すら終わってないけど、氷帝の関東大会と全国大会は終わった。
昨日は朝も放課後もテニス部はなく天文部の方に顔を出していた。天文部といっても、夏休み中に部内で学校の敷地を借りて天体観測をするという予定を詰める話し合いだけだった。
今日も学校は午前のみだ。たけは青学と不動峰との練習試合のお手伝いをしてくるとかで帰っていった。うめはコンクールのために美術部へ。
私はどうしようか。図書館でも行って夏休み中に借りる本でも見てこようか。なんてことはない昨年と同じ夏休みだ。だけど、どこか虚しさがあった。
まさか、これ燃え尽き症候群ってやつ?
そんなことを考えていると、副編集長から声をかけられた。
「せっかく新聞でテニス部の特集組んでくれたのにね」
「気にする必要はないわ。まあ、まだちょっと負けは受け入れられないけれど。けど、あんな試合を見たら誰も何も言えないわ」
「ありがとう」
そう言う副編集長。彼女も関東大会に応援に来ていたのだろう。
「改めてありがとうね松山さん。来年の部長、日吉くんじゃないかってみんなが思ってる。日吉くんが来年の氷帝を引っ張て行くの楽しみね」
「そうだね」
じゃあといって去っていく副編集長。あんな親衛隊ばかりだといいんだけどね。副編集長と入れ替わる形で忍足が教室に来た。
うめの居場所を聞いてきた。はじめはどうしようか悩んだ。最近のうめの様子、そして忍足も変態臭いが悪い奴じゃないことは何となく分かってきたので、場所を教えた。
たけも不二との関係に変化がありそうだ。そして、うめもきっと……。二人の幸せを祈った。
あ、ロッカーに私物置きっぱなしだ、と思い私は氷帝のテニス部の部室に向かった。
部室に入り、マネージャーのロッカーを開け荷物を整理する。
今日は一応、テニス部の放課後練習はあるけれど必須ではない様子だ。3年のテニス部員は引退モードで殆ど来ていないだろう。エスカレーター式で高校でも同じくテニス部はあるが、3年は籍をおいておくだけで全国大会が終われば練習も殆ど2年が中心となっていく。
荷物を出していると、扉を開けて誰かが入ってきた。
「まつさん」
「お、日吉じゃん。相変わらず頑張っているね」
「何しているんですか?」
入って来たのは日吉だった。休憩がてら部室に来たのだろう。練習をしていたようで、汗をかいていた。
荷物をいじっている様子の私をまっすぐに咎めるような眼差しで見つめてくる。
あ、何か怪しいことしていると思われている?まさか、窃盗犯とか思われている?!いや確かにもうマネージャーじゃない私がなんでいるんだって話だよね!昨日のうちに引き上げとけって話だよね!そんな風にヤバいと思って私は弁明する。
「ロッカーに荷物置きっぱなしだったから。ごめんすぐに帰るから安心して」
「そんなことを言っているんじゃない!」
私の弁明に食い気味で声をかける日吉。はじめて日吉が強く言う姿にびっくりする。何事と思い、言葉が継げず見ていると日吉が近づいてくる。
「なんで荷物片づけているんですか?なんで帰るんですか?」
「え、マネージャーは全国大会までだし」
そう言い荷物の整理を続ける私の手を掴み、日吉は「まだ全国大会は終わっていませんよ」と言う。まあ世間的には終わってないけど……。
「俺はもっと強くなります。辞めるなんて許しません」
副編集長が来年の部長は日吉だろうと言っていた。確かにそう思わざるを得ない。このちょっと強引なところ、跡部と似ているし。思わず笑ってしまった。
「何笑ってるんですか。俺、本気ですよ」
「わかったわかった。日吉は部長にぴったりだな、って思っただけだよ」
掴んでいた手に力を籠められる。私はその日吉の手を静かに離し、笑いかける。日吉は力んでいたことに気が付いたのか「すみません」と口にする。
「けど、雰囲気的に全国までって言っても、もう引退って感じだったのにいたら変じゃない?」
「なら、俺専属のマネージャーになればいいんです」
「ちょっと日吉、なんか今日強引!」
そんなやりとりのもと、私は今日はテニス部のマネージャーをしていくことにした。今日は学校があるから、3年がそれなりにいるみたいだ。けれど、3年レギュラーでいたのは宍戸だけだった。
私がコートに現れたら、皆が「待ってました」「ありがとうございます」と言ってくれた。
「まつ!来てくれたんだな。ありがとな!」
「宍戸も来てたんだね。さっき日吉に全国大会はまだ終わってないのに、なに辞めようとしてるんですかって怒られた」
「はは。けど、お前が来てくれてほんとに嬉しそうだぞ」
「うめたちも連れてくるかな」とか言っていると、鳳が「是非」と大きく返事をしていた。ほんとにうめのこと好きだな鳳。
そして部活を終えて日誌を部室で書いている。着替えを終えた日吉と宍戸、樺地、鳳が入ってきた。
「あれ、そういえば樺地。跡部と一緒じゃないの?」
「跡部は部活に来てねえよ」
「ずっとトレーニングルームにこもってるらしいですよ」
そっかと返事をし、跡部はきっと自分なりの感情の整理を行っているのだろう。何か意図がありそうだ、そんなことを思いながら、日誌の続きを書く。
「で、皆なにしているの?」
いつまでも帰ろうとしない4人に声をかける。
「まつを待ってる」
「一緒に帰りましょう」
「まつさん、送ります」
「いや、いいよ!私の家すぐそこだし!」
そう言っても全く帰ろうとせず会話をはじめて居座る気満々な4人に、ため息を溢しながら日誌を書き終える。
書き終えた日誌をしまい、5人で部室をでる。
部室をでて校門をでる。少し歩いてあそこ家だからって伝えると「ほんとにすぐそこでしたね」と日吉が呟く。
「明日の放課後練習からたけたちも連れてこられたら連れてくるね」
そう言い4人に挨拶をする。4人とも嬉しそうな様子だ。
「おう、またな」
宍戸の挨拶を皮切りに、またねとそれぞれ伝える。またこうやって皆で挨拶できることがちょっと嬉しかった。
樺地はほぼ話していないが、騒がしい4人を見送り家の扉を開ける。
ただいまと言っても、どこからも返事のない家。先ほどまでの騒がしさと全く逆の静けさに、耳鳴りがしそうだった。