第五章
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関東大会波乱の初戦が終わり、次の日から普通にまた学校に来ている。といっても、週末から夏休みだし、今週はテスト返却や成績返却といった短縮授業ばかりだ。
もうすぐ始まる夏休みに学校全体が何となく浮かれていた。
今日は昨日の帰りの準備の際に、榊が部活なしと言ったためテニス部の賑やかな練習の音もしなかった。
氷帝テニス部は全国行きの切符を逃したが、多くの人が選手にねぎらいの言葉をかけていた。
滝も登校してきて第一に私たちマネージャーにねぎらいをくれた。真面目な奴だよな。
「よっしゃー赤点ナシ!!」
「よかったねたけ」
「やっぱり赤点心配してたんだ」
「たけ大きな声で恥ずかしくないのかい」
帰ってきたテストにガッツポーズをつくる私にまつ、うめ、滝が声をかける。うめと滝はもっと優しくしてくれ。
「まつだけだよー私を労わってくれるのは。好き」
「きもいのでやっぱり褒めるのやめまーす」
「ちょっ、酷い!」
そう言うまつの返却されたテストをちらりと見ると、どれも間違いなくトップ成績の点数だった。ちくしょー。とりあえず私は英語だけは飛びぬけて成績がいいので、答案一番上を英語にして仕舞っておいた。
大掃除をして今日は下校となった。放課後も部活がないことに加え、短縮時程のためいつもより早い下校に、久しぶりにのんびりした放課後を送っている。
まつとうめは天文部と美術部に顔を出すと言って部活に行った。天文部今日は珍しく部活するんだな。
昨日榊にテニス部は部活なしと言われた時、日吉あたりは放課後からは部活をしたそうだった。まあ、そうだよな。けど休むのも大事だぜ日吉よ。そういうと彼は少し不満そうな面持ちも残しながらも了承していた。
「にしても暇だな。どうすっかなぁ」
そう呟き適当に帰るかと思っていると、クラスメイトの友人に暇なら一緒に遊びに行こうと誘われたため、お出かけすることにした。
「どこ行く?」なんて皆で話していると一人が「そうだね、ボウリングなんてどう?」と提案する。
「いいねー張り切っちゃうよー!」
「たけはほんとに運動は何でもいけて凄いね」
「は、を強調するな!」
そう言い、私たちはボウリング場に向かった。
端のレーンをうきうきで皆でやってそろそろ帰ろうかと話していると、「なんかすごい集団がいるよ」と友人の一人が声をあげる。
「なんか騒いでいるね」
「同じ中学生かな?」
何を騒いでやがると皆が見ている方をみると、そこにはなんと青学のレギュラーたちがいた。
驚く私に、不二が気が付き、その隣にいた桃城が「あー!たけせんぱーい!」と元気に手を振っている。友人たちが「何なに?知り合い?」「何あの子、先輩呼びって事は後輩?あんなに尻尾振ってかわいいね」「まさかたけの彼氏?!」と口々に感想を言う。
彼氏発言を否定していると、不二が良ければこっち来ない?と手招きをする。
ちょっと向こう行ってくるわと声をかけ、先に帰ってていいことも伝え青学の方に向かう。「あれは彼氏だ」「かっこいいね」「お幸せに!」なんて言ってくるので「違えって!」と全力で否定しておいた。
「昨日ぶりだねたけ」
「おう。昨日はありがとな皆」
「まつはいないのか?」
「うめちゃんもいないにゃ」
手塚や菊丸がまつとうめのことを聞いてきたので二人は部活に出ていることを伝えた。
「テニス部、休みなしでやってるのかい?」
「いやいや。今日はテニス部は全面的に休み。まつは廃部寸前の天文部、うめはコンクールがもうすぐあるとかで美術部にでているよ」
「あの二人、他に部活入ってたんだね」
そんなことを話ながら、なぜここにいるのかといった話になった。どうやら彼らは、関東大会初戦後のリフレッシュも兼ねてボウリングをしにやってきたらしい。
そしてペアでポイントを競い合っているらしい。さらに罰ゲームとして、乾が怪しげな「青酢」というスペシャルドリンクを準備していた。見るからにヤバそうな色と匂いだ。ガーターは小瓶一杯、最下位のペアはジョッキで飲まなければいけないらしい。これ純粋に楽しめないじゃん!
大石と顧問の竜崎先生のペアがストライクを次々と出しており、断トツだった。
どうやら先ほどの賑やかな声は、海堂がその青酢を飲み、倒れたのが理由だったようだ。いや倒れるってどんだけだよ。
そして、行ってくると言って軽やかにボールを放った不二は、ボウリングは不慣れなようで、ガーターを出してしまう。
「不二、それのむの?」
恐る恐る聞く私に、「うん」とさわやかに頷く不二。青学の皆から、不二は乾汁が効かないからいいよなーなんて呟く声が聞こえる。不二、これ飲めるとか味覚大丈夫か。爽やかな笑顔で不二は青酢を口に含んだ。
「って、えぇえ不二!大丈夫?!」
「不二がやられた、だと」
「青酢やべぇ」
しかし、そんな声に反して不二は倒れた。私はとっさに不二を支える。青学は不二が倒れるレベルの青酢に恐怖の表情を浮かべた。もはや兵器だろこれ。
そんな中、菊丸が見事な集中力を発揮し連続ストライクをとっていくが、菊丸が投げるときに大石ペアがギャグをかますことで、気を散らしてガーターへと誘う。何ともせこい。
そんな中、青酢開発者の乾は端の一本のみを当て8ポイントというある意味奇跡のポイントをだしていた。わざとガーターを出して小瓶で済ませてリタイアしてやろうとする乾に、倒れていた海堂が乾の足を掴む。しかしそれに躓く乾が竜崎先生にぶつかり竜崎先生がガーターを出すという何とも言えない悲しきドミノ倒しがおきる。
青酢に散っていった皆がゾンビの如く起き上がりとんでもない事態になって、ボウリング大会は終了した。
最後に店の前で、青学はちょっとしたミーティングを行っていた。私は不二が折角だし一緒に帰ろうと言ってくれたためそれが終わるのを待っていた。
そんな中、顧問の竜崎先生の「きっと部長の穴を埋められるハズだ」という発言が聞こえてくる。え、と皆が驚いた顔をしている。
手塚はなんと、明日から肩の治療のため、九州へ行くことになったらしい。
「うちとの試合のせいで……」
「謝る必要はない。あれは真剣勝負だった」
「そうだよたけ」
私が申し訳なさそうにしていると、青学の皆がそんなことないと否定する。竜崎先生にも諭される。
「そういえば、明日もたけは午後空いているの?」
「うん」
「実は明日、不動峰って学校と合同練習するんだ。よかったらたけ来ない?」
「いいですね!たけ先輩、この前みたいにちょっとでもいいのでマネージャーしてくれたら俺ちょー嬉しいッス」
「どうします竜崎先生?」
「ウチはいつでも歓迎だよ。竹川さん次第だ」
そう言われ、じゃあちょっとだけなら、と返事をする。不動峰も少しは知っているし。
「氷帝に勝ったんだから、青学には優勝してもらわなきゃいけないからな!」
「こりゃ大変」
そう言う私に皆が笑顔になる。そのまま今日は解散となり、最後に手塚に頑張れ待ってるからと伝える。
送るよと言われ、不二と二人きりの帰り道。
今日のボウリングのことなど他愛もない会話を紡いでいく。桃城に尻尾が見えるとか、友人たちに手招きをする不二をあれは彼氏とか言われたことも話題にのぼった。
「たけ。僕としては、その氷帝の子たちに彼氏って紹介してくれてもよかったんだよ」
「ちょっと!何言ってんのそういうの恥ずいから!」
冗談でもやめてほしい。心臓に悪いから。
「言っておくけど、これは冗談でもないからね」
「え?」
不二の方を見ると、真剣な眼差しでこちらを見ている。あの河村のラケットを握り試合に向かうときの目だ。
どきりと心臓が脈打つ。互いに顔が赤いのはきっと夕日のせい。驚く私に、不二が静かに手を取る。
「ふふ、考えておいてね」
そう言い、手をつないだまま帰路につく。
つないだ手はとても温かかった。