第四章
Name Change
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忍足くんとジャッカルくんの試合が終わり、真田くんに殴られたジャッカルくんを連れてまつが隅の方に行く。私はその様子を見守っていた。
「あの物言い、まつって跡部とよう似とるわ」
「それまつに言ったら多分殺されると思うよ」
しかし、忍足くんが呟いた内容は、実は私も何となく前から思っていたものだった。口が裂けてもまつには言えないけれど。あの怖そうな真田くんに物申したまつ。不器用ながらも相手を気遣う相変わらずな姿に笑みが零れる。
「うん。うめは笑っとる姿がかわええよ」
「急に、どうしたの」
突然の私の話題にびっくりして忍足くんの方をみる。
「初めて見たときも思ったんや。この子の笑っとる顔、めっちゃ綺麗やんって」
「初めてって……あの滝くんをみんなが呼びに来た時?」
「なに言うてるん。そのずっと前に会うとるやん。あの1年のクラス発表の日だって」
忍足くんにまた驚かされる。私は思わず「え」っと口にしてしまう。だって、彼は前にテニス部で自己紹介した時、はじめましてと言っていた。
そんな。忍足くんが覚えているはずがない。だって、あの時、あの一瞬で覚えていたなんてありえない。
「前に、はじめましてって言ったの怒っとるん?……ほんまアホやわ俺。まさかあの子がうめとは思わんかった。あの後思い出して、前に保健室連れってた時に言おうと思ったんやけど、外野が多かったやろ。タイミングが掴めないまま、こないな時にごめんな」
固まっていた私に忍足くんが続ける。嘘でしょう。この前の保健室ってあの、裏庭での時だよね。あの時も、忍足くんはケガをした私を気遣って優しく色々と話をしてくれていた。
ほんとうに忍足くんは優しい人だ。まつやたけは変態眼鏡と言ったりしているが、まあそこはちょっと否定できない面もあるけれど、彼の優しさは1年の時からずっと、変わらないんだね。
とうに捨てたと思っていた気持ちが、また静かに私の胸に灯される。やめてほしい。
けど、まつに以前言われた言葉も思い出す。「人を好きになることは悪いことじゃない」。そして素直になれとも言われた。でも、臆病な私はやっぱりまだその一歩は踏み出せそうにないよ、まつ。
気持ちを振り切るように仕事してくるといって、忍足くんのそばを離れる。
今、コートでは跡部くんと切原くんが試合をしている。切原くんは立海の唯一の2年生レギュラー。対峙する氷帝の部長である跡部くんは、そのプライドにかけて真剣な面持ちで試合をしていた。
跡部くんが有利な状況で、切原くんが悔し気に顔をゆがめる。それに更に挑発をかける跡部くんに、高笑いして答える。そして「アンタ、潰すよ」という彼の目は真っ赤に染まっていた。
「あーあ。跡部、赤也を刺激しちゃダメじゃん」
「丸井君、あれどうなってるんだC」
「赤也が充血モードになったな。跡部といえど厳しいだろうぜ」
隣で見ていた芥川くんと丸井くんがそのような会話をしている。そこから切原くんは、攻撃的というより暴力に近い形のプレイスタイルになった。跡部くんはいなしているが、先ほどより押され気味だ。
それでもなお攻めあぐねる切原くんが、「そのすかした顔を潰してやる」といい思いっきり潰すようにしてボールを掴む。放たれたサーブボールには複雑で激しい回転が加えられているようだ。跳ね返ったボールは凄いスピードで跡部くんの顔にめがけて飛ぶ。
まさかの動きに、とっさにラケットで返すことは間に合わず、顔をそらしてギリギリでボールから逃れた。舌打ちをしながら跡部くんは何とか打ち返そうとボールを見る。
そしてその顔に驚愕の表情が浮かび叫ぶ。
「まつ!危ねえ!!」
跡部くんが逃れたボールの先にはジャッカルくんに挨拶し歩き始めようとしていたまつがいた。丁度ボールに気が付かないような向きだ。私も「まつ……!」ととっさに叫ぶ。
皆が当たってしまうと思ったその時、颯爽と現れた人物がまつの手を引きボールの軌道上からずらす。そして、そのまま飛んできたボールを掴んだ。
神業のようなその動きに私は呆気にとられた。
片手にボールを持ち、もう片方の腕でまつの肩を抱き抱えるようにして背後に立っている人は、立海の制服を着ていた。誰だろうか。
彼に支えられているまつは、何が起きたのか分からないような顔をしている。見ていた私も何が起きたのか分からないくらいだ。驚いているまつがその人物を見て「幸村」と呟いた。もしかしてまつの言っていた立海のマネージャーさん?
そう思っていると、コートにいた切原くんが「幸村部長……」と呟いていた。その目の充血は引いている。
「あの人が、立海の部長さんなの……?」
呆気に取られていると、他の立海のレギュラーたちが「どうしてここに」などと言いながらまつたちの元に行く。