第三章
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携帯に登録した電話番号を押し、コール音が響く。コール音が続くにつれて、心臓も激しく脈打つ。何から話そうか。最初はやっぱり挨拶かな。そんなことを思っているうちに、コール音がとまり「もしもし」とスピーカー越しに声が聞こえる。その声を聴いただけで、こんなにも胸がいっぱいになる。この感情は何なんだろう。
雑談のような会話をした後、私は深呼吸した。
「……不二。パパとママと話したよ」
ーうん。
この前の合宿の時、まつとうめと入れ替わるように不二が部屋に入って来た時。私は今までの思いを口にした。あの越前との試合。久しぶりにテニスの試合をして楽しかった。楽しいと思ってしまった。私にテニスをする資格なんてないのに。どうしたらいいか分からず思わず涙があふれてしまった。
不二は黙って話を聞いてくれていた。そして、「たけは、お兄さんもテニスも大好きなんだね。なのに、大好きなテニスを好きになっちゃいけないって思ってるんだね。辛かったね」と言った。
ずっと、なんで最期にそばにいられなかったんだろう、なんで母や父は私を試合に参加させたままにしていたんだろう、と思っていた。
今まで家ではテニスや当日の事故の話題は避けていた。一度、ご両親に聞いてみたらどうだろうかと不二は言った。
私は合宿が終わり帰った時の夜、両親に尋ねた。今まで自分から触れなかった話題を口にしたことに驚いていたが、静かに話してくれた。
兄は私のテニスをしている姿が好きだとは確かによく言ってくれていた。母や父が到着したとき、想像以上に重体だった兄の様子を見て、私を会場からすぐ連れてこようとしたらしい。けれど、それを止めたのは兄だった。私にテニスをさせてあげてほしいと、私のテニスが好きだから自分のためにも試合を続けるよう伝えたという。そして、私の勝ちを聞きほほ笑みながら「残念だな見られないなんて。けど、たけはやっぱりすごいなぁ」そう言いながら目を閉じたという。そして、意識はなくとも私が来るまで命をつないでいた。
ぽつりぽつりと話す。電話だから顔は見えないけれど、真剣に耳を傾けいてくれているのが分かる。
「やっぱり私はテニスが好き。好きでいていいんだ。それを気が付かせてくれた。ありがとう、不二」
ーいいんだよ。けど、よかった。きっとお兄さんもそう思ってると思うな。
私はうん、と言いながら笑みが零れる。
ーねえたけ。今度の関東大会、僕の試合も見に来てほしいな。
「え?」
ー嫌かい?
「いや。ありがとう。うん、行く」
ーふふありがとう。待ってるから。今度、テニスも一緒にやろうね。
「お、おう」
なんかどんどん約束が追加されていく。けど、嬉しい。
氷帝と当たったときは、どっちも応援してね。と言ってきた。決勝や準決勝あたりで当たるだろうか。
今まで気を揉んでいた関東大会が楽しみになってきた。
挨拶をし、電話を切る。携帯画面で今まで電話していた竹川たけの名前をみてほほ笑む。
はじめは「兄ちゃん」と突然呼ばれ何事かと思った。変わった子だ、その時はそう思っただけだった。それ以降会うこともないだろうと思っていたが、後日、突然青学に現れた。氷帝のマネージャーだとは思わなかった。書類を届けてっきり氷帝に戻ると思っていたが、家にそのまま帰ると言っていた。桃城が折角だしマネージャーしていけばいいと言い、戸惑う彼女に竜崎先生がどうするか聞きじゃあ少しだけとなり、短い時間ではあったがマネージャーをしていった。
氷帝のマネージャーというからどのような人かと思い、それぞれはじめは気まずそうにしていたが、彼女の性格もあり自然と仲間に溶け込んでいった。
はじめは変わった子だと思っていたが、接していくうちに真面目なところ、口調は荒いけれど思いやりのあるその姿に少しずつ惹かれていった。彼女も僕とはよく話してくれた。今まで、女の子とこうやって話をすることはあまりなかった。
彼女が僕に対してよく話しかけてくれるのも、僕を通じてお兄さんを見ているんじゃないかなんて思ってしまった時があった。けれど徐々に彼女は僕自身を見てくれていた。
涙を流しながら今までの思いを話す彼女を支えたい、そう強く思った。そして、僕は自分の思いに気が付いた。
無理やりに近い形で約束をしてしまったが、どうだろうか。迷惑がられていないだろうか。けど……
「僕は本気だからねたけ」