第三章
Name Change
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「くそー。また皆に迷惑をかけている」
大丈夫だと思っていたんだけどな。午後になり始まった、練習試合。
まつとうめに気遣われ私はこの控えのところで洗濯をしている。全て干し終わり、やることが一区切りつくと、考え込んでしまう。
このままではいけないと思っている。母や父も、私を気遣ってか、テニスの話題はしないし、墓参りの時もひたすらあなたは悪くないと言う。けど、奥にしまってはいるがテニス用品は捨てずにまだ持っているあたり、自分も中途半端だな、なんて思う。
私は、どうしたいんだろうか。
そう思っていると、声をかけられる。そこには、青学の小さい少年が立っていた。たしか……
「越前リョーマ。ねえ、たけさんってテニスできるんでしょう。皆今試合しちゃってるし、俺とテニスしない?」
「……」
テニスなんかしないよ、と返そうかと思った。けどこのままじゃいけない、その思いの方が上回った。
「いいよ。セットマッチで。やろうか、越前」
そんなやりとりがあって少しした頃。
試合はそれぞれ区切りがついた。結果は、氷帝と青学で五分五分な感じだった。私はスコアを整理し、うめはタオルやドリンクを配っていたりしている。
「あれ越前どこいった?」
「あいつさっきまで出番なくてすねたか」
そんな青学のやり取りを聞いていると、控えに追加のタオルを取りに行ったうめが「たけがいない」と伝えてくる。
たけはどこに行ったのだろうか。そう思っていると、跡部が、「誰か屋内テニスコートの鍵知らないか」という。どうやら、試合後の自主練習でそれぞれがコートを使えるように屋内テニスコートも解放しようとしたらしい。控えに置いておいた鍵がなくなっているという。
私も、うめも鍵に覚えがなかった。誰か使っているのだろうか。
「まつどうしたの?」
「いや、午前の練習の時に越前くんにたけはテニスができるのかって聞かれたんだよね」
そして、今その越前くんとたけがいない。屋内テニスコートの鍵がない。
「ねえ、それってもしかしたら」
うめも同じことを思ったのだろう。私とうめは顔を見合わせ、ちょっと屋内テニスコートに行ってくると跡部に伝えその場を去った。
屋内テニスコートには、予想通りたけと越前くんがいた。
二人は、試合をしていた。
「たけ……」
「たけ何しているの。とめなきゃ」
「待ってうめ!」
「まつ?」
試合をやめさせようと走り出そうとしたうめと止める。
これは逆にチャンスかもしれない。たけが、過去と向き合うことの。きっとたけもそれを思って承諾したのだろう。今までどんなに頼まれてもセットマッチの試合はしてこなかった。
何が正しいかなんて分からないけれど、私は、少しの可能性を信じてみたかった。今はただ、二人の試合を見守ろう。うめも意図が分かったのか、静かに二人を応援していた。
試合は越前くんが少し優位に進んでいた。私たちの様子に何事かと思ったのか、跡部や不二たちもやってきていた。
「ねえ。以前オヤジから少し聞いたことがあるんだ。海外で女子にも小学生でテニスがうまい人がいるって」
「……」
「確かたけって名前だったと思うんだけど。たけさん、海外にいた?」
「試合中なのに余裕だね、越前」
ラリーをしながらそんなやりとりをしている。たけが否定しない様子から、越前くんは言葉を続ける。
「けど、何年前にプロへの道の試合に勝利してからパタリと試合に出なくなって、テニス界から姿を消したって。久しぶりに試合をしたんだろうけど、たけさんの動きは上級者のそれだよ」
言葉を無視するように、たけは強くリターンをする。それを越前くんはスライディングのような体制のまま返す。すごい軌道を描き、越前くんにポイントが入る。
「ねえ。なんでテニスやめたの?」
「私は……」
ポイントを取られたたけは少し息を切らしながら越前くんをみている。少し震えている様子を見て、これ以上はまずいと思い私とうめは、「たけ」と名前を呼びコートに向かう。
それと同時に、たけが涙を流し、うずくまるようにして頭を抱えた。その様子に皆が驚く。
「たけ。たけ。大丈夫だよ」
「たけ」
私とうめはたけの肩を抱くようにして声をかける。
他の人もコートへとやってくる。突然のことに越前くんも驚いている。
たけのもとに、不二もやってくる。
「おい。まつ。たけに何があったんだ」
跡部が心配そうな面持ちのもと尋ねてくる。それに、どうしようかと悩み、たけをみる。たけが小さくつぶやく。
「いいよ……話して」
「……たけ。いいんだね。分かった。けど、たけは今は休んで。私から話すよ。それでもいい?」
うん、と頷くたけ。うめにたけを部屋に連れていくように伝え、二人はコートを出ていった。
「まつさん。俺……」
「越前くん。いいんだよ。寧ろ、ごめんね。ありがとう」
申し訳なさそうに近づいてきた越前くんに、声をかけ私は立ち上がり全員に向き直る。
私は静かにたけの過去を話した。