第三章
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紙切れを青春学園というところに届けるために、私は氷帝を後にした。
やっぱ変に気遣われているよな。そう思わざるを得なかった。まつたちならまだしも、まさか跡部にも気遣われるとは。そんなに分かりやすいだろうか。
重いため息をつきながら、青春学園行と書かれたバスに乗り込む。都大会優勝を決めた青春学園。
流れる風景を眺めながら、今まで行ってきた地区大会と都大会を思い返す。時期もあるが、氷帝の試合はまつたちがいたこともあったことに加えて、マネージャーということで試合以外のことにも集中できた。しかし、氷帝以外の試合となると、試合をずっと見続けなければならなくなる。何となく、見に行く勇気がおきなかったため、氷帝以外の学校はそんなに知らない。
初夏の季節に近づくにつれて、あの時のことと重なりやすくなり、テニスの試合を見ることも辛くなってきてしまった。マネージャー業をしていればまぎれるかと思っても、なかなか厳しい。特に最近はまつやうめに心配そうな面持ちをさせてしまっている。我ながら困ったものだ、と再びため息をつく。
私はかつて、両親の都合で海外にいて、そこでテニスをしていた。
テニスが大好きで、将来はプロを目指そうかなんて思っていた時期もある。それくらい一直線で、周りを見ていなかった。
少し年の離れた兄おり、兄はテニスをしていなかったが、私の試合には必ず来て応援をしてくれていた。
そんなある日のこと。プロへの道を決めるような、私にとって大切な試合がある日だった。その時も兄が当然来てくれるものだと思っていた私は、兄が学校の都合でいけないと聞いてものすごく駄々をこねた。困ったように笑う兄は、用事が終わったらすぐ行くから。と私を慰めた。
そんな中始まった試合。私は順調にポイントを取っていき、あと少しで勝ちが決まるとなった。観客を見ても兄はいない。先ほどまでいた両親もいなくなっていた。誰も見ていないことに、落ち込む私は少し、むくれながら試合を続け、そして勝った。
試合後も家族は誰もいなかった。どこにいってしまったのか疑問に思う私に、試合終了と同時にコーチが必死の形相で私の元に来て、衝撃の事実を伝えた。
放心していた私はコーチに連れられ、気が付けば病院に来ていた。
私が着いたと同時に、兄は息を引き取った。
言葉もなくただ顔はほほ笑んでいた。
何が起きたのか分からず、私は泣きわめいていたという。
兄はテニス会場に向かうとき、いつもは電車をつかっていたが急いでいたためその日だけはタクシーを使った。それが途中で交通事故に巻き込まれたのだと後から聞いた。
私が兄に駄々をこねなければ、兄はいつもと違う方法では来なかった。事故に巻き込まれることもなかったんだ。兄が事故に巻き込まれ、生死をさまよっているとき、私は何も知らずテニスの試合をしていた。
それから私はテニスの試合が嫌いになった。
まもなく終点、青春学園前とアナウンスが入った。
私は立ち上がり、バスを降りた。