第二章
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
まつと別れた後、たけと私は例のケーキ屋へと向かっていた。
「今度まつも交えて3人でどっか行きたいね」
「だなー。とりあえず都大会も終わって、次の関東大会まで少し時間もあるしな」
「そうだね。都大会も終わったもんね。宍戸くん、あれから見ないけど、大丈夫かな」
「あー……。それなら、まつが今頃根性叩き直してるだろ」
「えっ?!」
都大会で負けたレギュラー落ちした宍戸くんのことは、皆が気にしてそうだったけど、今まであまり話題に触れないようにしていた。何となく話題にしてしまったが、急にたけがまつの名前を出し私はびっくりした。
「ほら、帰りの時、部室に宍戸の荷物あっただろ。それをまつずっと気にしてそうだったからな。財布はまあ、ほんとに持ってなかったと思うけど。なによりまつなら、いつまでもウジウジしているあの激ダサ男に喝を入れられると思ったしな」
そう言うたけに驚く。部室の荷物まで見ていなかった。それに、まつやたけがまさかそんなことを思っていたなんて。
1年の時から3人とも知り合いだけど、3人の中でまつとたけが先に知り合っている。まつが転校してきて一番最初に友人になったのがたけだと聞いている。この二人には、今回のように言葉にしなくても通じてそうなときが時々ある。
いつか私もその中に入れたらと思う。私ももっと周りをみなきゃと、気を引き締めた。
そうこうしているうちに、たけがあそこだと指をさした。
駅前にできたケーキ屋はこじんまりとしているが、シンプルながらも暖かい雰囲気があった。ちょうどいい時間に来たのか、少し人はいるが何とか限定品も買えそうだ。
いらっしゃいませ、という声のもと私たちはショーケースにあるケーキに夢中になる。
あれもおいしそう、これもおいしそうと話をしていると新しく入店してくる客がちらほらといた。
「よし、決めたぞうめ」
そう言い、たけはケーキの名前をあげる。ご両親の分も含めて4つ名前を挙げていた。
目移りしてしまうが私も購入するケーキを決めた。
私たちが注文していたら、隣で注文していた人とケーキが被った。
そのケーキはラスト1個。思わず、あ、と声を出してしまう。
「あれー不二。ラスト一個であっちの人と被っちゃったにゃ」
「なんだ、ダブっちまったか」
あちゃーとかいいながら、たけと共には同じケーキを注文した人物に目を向ける。
そこには3人の男子組がいた。不二と呼ばれた人はほほ笑んでいる、もう一人の声をかけた人は頬に絆創膏をつけており、その二人を見守るように茶髪の気の弱そうな人が困ったように笑っていた。
「裕太が新しくできたケーキ屋があるとか言って、食べたそうにしていたから来てみただけなんだ。裕太はケーキならなんでも喜ぶだろうから、僕はあっちにするよ」
「いいのかい不二」
「うん。これ、こっちに変更できますか」
そう言い、不二と呼ばれた人は別のケーキを注文していた。間に入るすきもなく、注文を終えてしまった彼らに、私は急いでお礼を言った。
「ありがとうございます。よかったね、たけ。たけ?」
気にする必要はないよと返してくれる彼らに改めてお礼を言う。となりに立ち、先ほどから動かないたけに私は疑問を浮かべ顔を見る。そこには、信じられない、といった表情をしたたけがいた。
「たけどうしたの?」
「兄ちゃん」
「……え?!」
「兄ちゃん!!」
そう言い、不二と呼ばれた人の手を掴む。突然のことに、向こうの3人組も驚いている。
「えぇえ。不二、裕太君以外に兄妹いたの?」
「いや。僕と姉さんと裕太だけだよ」
困惑する彼らに、私はまずいと思い、たけを掴む。
「ご、ごめんなさい。人違いしちゃったみたいです。ほらたけ。しっかりして!」
私が揺するとたけは、はっとし「……わ、悪い」と謝罪を口にした。それから急いで会計を済ませ、改めて謝罪を口にして私たちは店を後にした。
たけは帰り道も、終始無言だった。
あんなたけは見たことがなかった。
突然の行動に私は戸惑ったが、今の季節を思い出し、たけが敏感になっていることに納得した。
ケーキを4つ買ったのも、きっと……。
たけのお兄さんは、数年前のこの初夏の季節に、既にこの世を去っている。
「びっくりしたー。なんだったんだ」
「今の氷帝の制服だったね」
「……」
そんなやりとりが先ほどの3人組の中で行わていた。私たちはこの人たちと関わるのはこれで終わりだと思っていた。けど、まさかこれが始まりにすぎなかったとは思いもしなかった。