第二章
Name Change
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懐かしくて不思議な夢だった。
笑いの絶えない彼らと、友人だった人の笑顔。お笑いが大好きで、普段から笑っている彼らは、試合の時は真剣で……。彼らの試合を応援している私に、誰かが後ろから名前を呼びかけた。
振り返るとそこにはたけとうめと氷帝のテニス部がいた。なんで彼らが。……ああ、そうか。私はまたマネージャーをしているんだ。氷帝のテニス部で。
氷帝テニス部。そのことに意識がいった私は、眠りの世界から少しずつ覚醒していく。
「やば、がっつり寝ちゃった。今、何時……!」
がばっと立ち上がり、時計を見るとあれから15分もたっていないくらいだった。まだ余裕な時間だ。
胸をなでおろした私は椅子に再び座ろうとして、ふと視線に気が付く。その視線が来る方に目をやると、そこには、予想外人物が椅子に座わって私を見つめていた。
「ちょっと、なんでいんのよ跡部!しかもそれ!私のノート!」
跡部がいたことに驚いたが、何より私が焦ったのは跡部の手にあるノートだった。あれは私のノート。しかも何か書き込んでいた様だ。やめろ。というより見られた。最悪だ。
返せと跡部の方に行きノートに手を伸ばすが、ノートは私の手から逃げる。
「ちょっと……」
「はじめから見ようと思って見たわけじゃねえ。アホ面さげて寝ているお前の隣に開きっぱなしでおいてあって、視界に入っただけだ」
アホ面って何よとと言い、今度こそノートを奪い返す。パラパラとめくると、何やら跡部により書き込みがされている。オールラウンダーなど書かれているが、これはテニススタイルだろうか。ルールなどはそれなりに知識があるが、テニスのプレイスタイルなどはあまり詳しくない。何となく英語の意味を考えればイメージはつくが、今度たけにでも聞いてみるか。
「まさか、部員全員の名前のみでなく、性格や特徴をまとめているとはな」
「覚えるのが苦手だから、こうやってノートにまとめてるのよ」
そう、このノートにはテニス部員の名前や特徴や気になったことなどを自分なりにまとめている。
ただでさえ人数の多いテニス部員だ。レギュラー陣は何かと派手だし顔を合わす機会も多いため、それなりに分かるようにはなったが、1年生などはまだ顔と名前が一致しないことも多い。せめて少しの情報でも、と思いまとめている。
跡部が書き込んだプレイスタイルや一言メモのようなものは、誰一人かけることなく書かれていた。あの時間でこれを書いたということは、頭にすべて入っていることを意味していた。
「跡部って、やっぱり部長なんだね」
「何今更なことを言ってやがる」
素直に感心した私は思わず口に出してしまった。今まで彼らはただの派手好きで俺様な傍若無人で、嫌な奴だと思っていた。特に跡部はそのトップで、関わりたくないと思う苦手な人物だった。
しかし彼らと関わるようになり、もちろん理解不能なぶっ飛んだことをしていることもあるのは事実だったが、それだけではないことに気が付いた。
才能もあるだろうが、それに驕らず絶えず努力をしている姿勢はマネージャーになって初めて気が付いた。いや、今まで興味ないと関わりたくないと突っぱねて見ていなかった。
そんな風に思いながら再びノートを見る。一瞬感動をしていたが、レギュラー陣のあるページ、特に跡部のページをみて固まる。
「いや、アンタの好きな食べ物や誕生日とか座右の銘とか、そんなのいらないんだけど!」
「あーん?俺様の情報だぞ、ありがたく思え」
やはり前言撤回。こいつは俺様何様で苦手だ。
「苦手なものでも書いとけボケ」
「んなもんねぇよ」
と自信満々に返される。そうだろうか、この前コート付近で大きいクモが出たときものすごい勢いで身を引いていたのを見ている。そういうと、少し間をおき否定する跡部に、今度お届けしてあげよう。そう誓った。
そんなことを考えている私をじっとみながら、跡部が何か決意したように口を開く。
「……今まで悪かったな」
「え。急に何」
この前の裏庭といい跡部は突然謝ってくる。
「正直に言う。俺は今日、部室に入る前、お前たちが裏切ったんじゃないかと一瞬でも思った」
跡部の言葉に、全く意味が分からず「はあ?」と返す私に、跡部は今までマネージャーがいなかった理由を静かに話し始めた。
今まで一度も氷帝テニス部にマネージャーがいなかったわけではない。人数も多く規模も大きいテニス部は準備や管理も大変であり、選手だけで回すには難しく、テニスに専念できない選手がでてしまうことにずっと気をもんでいた。
テニス部マネージャーの希望者は多く、何人かいたこともあったそうだが誰一人として長続きしなかった。マネージャーになる皆が、それぞれテニス部に対して下心を持っていたのだ。マネージャーをしていても、レギュラー陣とそれ以外への態度が全く異なっていたり、レギュラー陣以外のマネージャーはしたくないとはっきりと口にしたり、ひどいときはただレギュラーの応援をしているだけで何一つマネージャー業をしなかったりする人もいた。
さらに跡部たちが希望してくるマネージャーを一切取らなくなったのは、マネージャーにより部室にカメラが仕掛けられていたり、レギュラーの私物が盗まれる事件があったからだという。
私はその想像以上に酷い内容に驚愕した。テニス部の私物とるくらいならそこらへんの雑草引っこ抜いている方がましだとか言ったら、跡部が呆れたように笑った。
この話をきいて納得した。跡部が謝ったこと、裏切ったと思ったということに。
「成る程ね。どおりで、私たちが部室にいるときはテニス部員が必ずいたわけね。そんなことしなくても真面目に仕事するわ、とか思ってはいたけど、あれは仕事をしているかチェックしていたんじゃなくてホントに監視してたのね」
「やはり薄々気が付いていたか。そうだ。勝手にマネージャーにしておきながら、やはりどこか俺たちは信じていなかったみたいだ。この前、守るとか言っときながら一瞬でもお前たちを疑った自分に、お前たちを信じていなかった自分に気が付いて嫌気がさしたぜ」
そう言い、悪いと再び謝る跡部に意外と真面目な奴だな、と思う。しかもそんな出来事があったら、マネージャー不信になるのも仕方ないことだ。信じていなかったみたいだ、という発言からも恐らく彼らも無意識に近い形で疑いを持っていたのだろう。
にしてもモテるのも考え物だ。
「別にいいわよ。こっちは何でだろうとは思っていたけど、気が付いてなかったし。にしてもわざわざ言う必要なんてないのに」
「俺様が嫌だっただけだ。けじめみたいなもんだ。これからはお前たちを信じる」
そう言い跡部はまっすぐに私を見つめる。その真剣な眼差しに、一瞬たじろぐ。この前といい、跡部のこの目は苦手だ。
外から賑やかな声が聞こえてくる、何人かの部員がやって来たのだろう。気が付けばいつも私が来るような時刻となっていた。
そろそろ準備するか、と言い跡部は床に落ちていた自身の上着を拾い扉へと向かう。どこに上着落としているのよアンタと思いながら、その背中に声をかける。
「私たちも跡部たちを誤解していたとこもあった。これらから、改めてよろしくね」
そう言うと少しこちらに振り向いた跡部がおうと返事をして出ていった。
この日からテニス部との距離が少し縮まった。たけとうめにもテニス部のマネージャーのことを話した。カメラとかやべぇー、私物とるなんて……とか思い思いのことを口にしていた。
さあ、もうすぐ都大会。気合入れて頑張ろう!