第二章
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まつたちがうめの手紙に気が付いたのと同じ時刻、裏庭には複数の女子に囲まれるうめがいた。
「テニス部に近づいて何のつもりな訳?」
「マネージャーになったとか意味わからないんだけど。なんであんたが」
「今頃になってまたテニス部にお熱にでもなったの?」
「どうせあの方が目当てなんでしょう」
怒りを多方向から向けらるうめ。「違う」と声を上げても、「お黙り」と言われ、真ん中にいる女子に突き飛ばされ倒れこむ。転ぶときに足をひねってしまった。
「あらあら可哀そうね」
「痛っ」
口では可哀そうにと言いながら、倒れこんでいたうめの手を思いっきり踏みつける。うめは痛みでこみあげてくる涙に視界がにじんだ。
「何泣いてんのよ」
「必死睨んだって怖くないって。ほんとにうざ」
口々に言いながら笑ってくる人物たちを睨むうめ。先ほど突き飛ばした女子が再びうめの前に立ち、目線を合わせるようにしゃがみ込む。髪を掴みどうしてやろうかといった表情でうめを見たとき、裏庭に声が響く。
「うめ!!」
「お前ら、何してんだ!!」
「まつ……、たけ……」
駆け込んできたまつたちは、うめの髪を掴んでいた女子の手を掴み引き離す。
「ちっ。まあいいわ。松山さんも、竹川さんも邪魔なのには変わりありませんもの」
「お前ら。1年の時のことを忘れたのか」
「もう私たちに関わるなって言ったよね」
うめをかばうように立ちながらたけとまつが言葉を放つ。それに、一瞬怯む様子があったが、すぐに3人を睨み強く返事をする。
「……ええ。けれど、テニス部に関わっているあなたたちが悪いのよ。あなたたちもテニス部には関わる気はないって言ってたじゃない」
「私たちから関わったんじゃない」
「関わっていることには変わりないわ」
ああ言えばこう言う。堂々巡りになることを察した3人は呆れる。
「そうだとしても、うめだけを呼び出す必要なんてない。なぜ私たちでなくうめだけなの。それに、前にも言ったと思うけれど、陰湿なのは許さないって言ったよね。あれ以降、悪口を言っているくらいならアホだなと思いながら無視していたけれど」
「今回、うめに手を出しやがって」
許せないと怒るまつとたけ。一番気の弱いうめを選び、彼女だけをターゲットにした今回のことについに堪忍袋の緒が切れた。
一触即発の雰囲気が漂う。
「とにかく、マネージャーはやめていただけるかしら?」
「そうよ。ここでまた誓ってもらうわテニス部には関わらないと」
「あのさぁ。むしろ無理やりマネージャーにさせられて、私たちもやめたいくらいなんだが」
たけが呆れて言うと、それが更に彼女たちの怒りに触れたらしく、真ん中にいる女子が拳を振り上げる。まつたちがそれに構えたところで再び裏庭に声が響く。
「そこまでだ」
「あ、跡部様……!」
「テニス部の皆様も、なぜここに……」
裏庭に現れたのは、氷帝テニス部のレギュラーたちだった。まつたちを取り囲んでいた女子たちがうろたえる。
お前たち何をしていると、跡部が声をかけると、女子たちは「テニス部のためを思って私たちはしている」「あなたたちは騙されている」と口々に声をあげる。
「なんでうめちゃん倒れこんでるんだC」
「うめさん、痛そうです」
「クソクソ、なんでこんなことになってんだよ」
そう言いながら、うめのもとに来た芥川と鳳と向日。鳳はうめの腕と足のケガをみて顔をしかめる。
「この俺様がこの3人を無理やりマネージャーにさせた。それに何か文句があるのか」
「そんな……」
跡部の気迫に、絶句する女子たち。
「応援しようとしてくれてるのは有難いんやけど、俺たちが大切にしているものをつぶすような真似は応援とは言わへんよ」
「その程度も分からないなんて激ダサだな」
「ということだ、二度とこいつらには手を出すな。文句があるなら、俺様に言え。二度目はねぇ」
「本当に、跡部様たちが……。わかりましたわ」
そう言い、去っていく女子たちにうめは胸をなでおろした。せめてもの嫌がらせか、彼女たちは終ぞ謝罪の言葉は口にしなかったが。
突然現れたテニス部、そしてどのような形であれこの場を収めた彼らにまつたちは驚きを隠せなかった。
「まつ。たけ。うめちゃん。ごめんね。今まで、その、気付かなくて。今日、昼休みのときに言ったろ。俺たちは守ってくれないって、気が付かないなんてダサいよな」
いや、気付こうとすらしていなかったかもしれないと滝は思う。跡部たちに客観視した方がいいとは言ったが、自分もその中に含まれていたと今更ながら思う。レギュラー陣がそれぞれ申し訳なさそうな面持ちをしている。
まつはそんな滝たちを黙って見つめていた。
「とにかく、ケガしとるやんうめ。保健室に連れて行くわ」
「おい侑士なにして……!」
そんな中、忍足はうめに近づき、抱え上げた。俗にいうお姫様抱っこをされたうめは、突然のことに「きゃっ」悲鳴をあげる。
「てめぇこの変態眼鏡!うめを離しやがれ!!」
「そうですよ忍足さん!」
「ずるいCー俺だってうめちゃんを保健室に連れていく」
はははと笑いながら、うめを抱え走っていく忍足にたけと向日と鳳と芥川が追いかける。「お前らな」とそれに呆れるように宍戸が続く。
騒がしかった裏庭に静寂が訪れる。
忍足たちが去っていた方を見ているまつに跡部が声をかける。
「お前はいかないのか」
「大人数で行っても迷惑だからね。忍足はキモいけど、まあ仕方ない。そういう跡部はいいの?」
「すまなかった」
「……なに急に?」
「さっき萩之介が言ったことだ。今まで気が付けず、お前たちに迷惑をかけた」
「まあ確かに勝手にマネージャーにしてこの様だものね」
揶揄うようにそう言うと跡部は苦笑する。まつは、てっきり何か言い返されると思った分、拍子抜けした。
「俺はお前たちにマネージャーでいてほしい」
「言われなくてもやめないよ。約束したし。それに今やめたら何かあいつらの言いなりになった気がして嫌だし」
まつがそう言うと、心底安心したような顔をする跡部。近くにいた日吉や滝、表情では分かり難いが樺地も安堵している。
「これからは、俺たちが守る」
まっすぐに見つめられながら真剣に言われ、まつは驚く。思わず目をそらし、「そりゃどうも」と呟く。そして、何かを思い出したように「あ」といい、その様子に皆が何事かと思う。
まつは跡部に近づき、跡部の顔を見つめ……
思いっきり頬をつねった。
「って何しやがる!」
「気が付かなかった仕返し。テニス部部長なんだから、これくらいのは受けて当然よね」
そう笑いながら言うまつ。今までどこか他人行儀であったまつに、跡部たちは初めて本当の笑顔を向けられた。
そのまま踵を返し、小さく「ありがと」と口にする。
「じゃ、滝も日吉も樺地も。また部活の時にねー」
そう言い去っていくまつ。日吉もまつを追いかけるように去っていった。
まつが日吉と話しながら去っていく姿を、立ち尽くしたまま跡部は見ていた。その眼差しに滝は驚く。
その眼差しを、滝は知っている。おそらくテニス部全員が見たことがあるだろう。跡部が本気であるときの、そして夢中になっているときのそれだった。
跡部にこのような表情をさせるまつに滝は内心やるねーと感心した。
「参考までに。まつに彼氏はいないよ」
「あーん?」
「モテるけどね。なんせ本人があんな感じだろ。そういうの興味ないですって」
「……お前は何を言っているんだ?」
「……」
え、まさかの無自覚?
本気で疑問に思っている様子だ。
そんなことを思いながら滝はため息をつく。
「なんでもないよ。忘れて」
俺はそこまでお人好じゃない。
この俺様何様な彼は、意外とこういうのには鈍感なのかと新たな面をみた滝であった。
後日開催された校内球技大会での3年B組の暴走っぷりは、また別の話。
黒い笑みを浮かべながら見学をしているうめと、般若の表情で相手クラスに立ち向かうまつとたけがみられたそうだ。その表情の先はテニス部の裏庭にいた女子たちだったとかなんとか。
試合は白熱し、3年B組は見事優勝を果たしたらしい。