テニスの王子様SS
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不思議な一日だ。こんなことがあるんだろうか。
きっかけというか、はじまりはそう、クラスメイトだ。放課後になり部室に向かおうとした私に声がかかった。そこからこの謎の現象がはじまったんだ。
「やさ、なまえ―。テニス部これから行くばぁ?平古場から借りてたんだけど、これ返して欲しいさー」
そういって有無を言わさず渡された単語帳。いや自分で返せ!と思ったけど、気づいたときには手にあったしまあいいかと部室に向かった。それからすぐ階段で凛君を見かけたので、これ幸いとばかりに声をかけた。
「あい。にふぇーでーびる。あ、ちょうどよかった。なまえ。これ、部室向かうついでに外のとこに置いておいて欲しいさー」
「え、ちょっとジョーロ?!なんで?!」
「ゴーヤーに水あげる気が進まないさー」
「それはおかしいでしょう!」
まあもう水あげたんだけどなんて言う凛君。じゃあなんでその時置いておかないんだ!なんてツッコミもむなしく私の手にはジョーロがあった。
「あい。なまえ。何だジョーロなんて持って。俺、ちょうど外行くし置いておくさ」
「え、知弥君いいの?ありがとう」
「いーよいーよお。あっ、やっべ。このうちわ、どーするばー?」」
「何そのうちわ?」
「いやー新垣が暑い暑いってうるさいからさー、うちわ貸そかなって思ったわけさー。なまえ。部室行くんだったら、ついでに持ってってくれん?」
「はいはい。了解。こちらこそジョーロありがとう」
そういい私はうちわを受け取ったのだ。なんだか今日は頼まれ事の多い日だとこのときうっすら思っていはいたんだ。
それから新垣君に途中で出会ってうちわを渡したら、一瞬何のことかという顔をされて戸惑った。
「なんか、知弥君から、新垣君にって」
「不知火先輩から……?あ!ああ!はいはい!にふぇーでーびる、なまえ先輩!」
何か思い当たる節があったのか、ひらめいたとばかりに反応をした新垣君。うけとってもらい任務完了とばかりにその場を離れ部室に行こうとした私を、新垣君が呼び止めた。それから焦ったようにポケットをごそごぞしている。
「どうしたの?」
「あ、あのーなまえ先輩!なんか俺、急に腹ぬ具合わるなってきたさー」
「え、大丈夫?!」
「だっ……大丈夫です先輩!でも今、トイレ行かんと大変なんす!これ、田仁志先輩にお願いしてもらえんですか?急ぎって言われてるやつなんです!」
すみません!と全力で頭を下げられ、手には気が付けばビー玉があった。
「え、ビー玉を?慧君が?急いで持って来いって?」
なんだそれ??どういうことかと聞く前に新垣君はいなくなっていた。そもそも慧君どこにいるんだ。
「まあ部室向かえばいいか」
そう独り言ちりながら部室へと足を進めたのが、ちょっと前。
本来ならとうの昔に部室についていておかしくないのに何でこんなに時間がかかっているんだ、なんて思いながら足を進めていたらこれまたばったりと慧君に会ってビー玉を渡した。
「あい。あー!にふぇーでーびる。なまえ。悪いこのおにぎり、知念に届けといてくれたら助かるさー」
「はいはい、出ましたこのパターン。って、これ今持っていたやつじゃない。食べかけじゃないの?!」
「ちょっと減ってるけれど口はつけてないさー!」
「食べてるんかい!」
まあいいか、もうこなればやけだ。
おいしそうなおにぎりを片手に、知念君を探す。もうすぐ部室だといったところで知念君を見つけた。
「あー探してたさー。それ、慧君からやど?」
「あたりー。はい、どうぞおにぎり」
「……これ、なまえが食ったか?」
「な訳ないでしょ!慧君よ。けど口はつけてないってさ」
そういって受け取った知念君。さあ、知念君は何を誰に届けてをお願いするんだい。そう身構えるかたちでじっと見つめたら、知念君は少しばかり気まずそうに告げてきた。
「これ。監督に届けて欲しいさー」
「……なんでメンコ」
そんなこんなで知念君がなぜか晴美監督から預かっていたというメンコを私は職員室まで届けに行った。
部室が遠ざかったのなんてもう気にしないさ。
途中で部室に向かうのか、ばったり会った新垣君にもうお腹は大丈夫か聞いたらめっちゃ元気です!なんて言われてびっくりしたが。
「あ?知念から?あーそういえばそうだったかもな。おいなまえ。お前マネージャーなんだ。部室の時計の電池が切れてたとか言ってやがったから、これ持って時計にはめときやがれ」
「は、はあ。分かりました」
「ああそれと、今時計は甲斐のやつが持っているからな。電池いれて時計戻すまで部室入んなよ」
「そんな横暴な……!」
「ああ?」
「はい今すぐ行ってまいります!」
これでやっと部室に向かえるかななんて思っていたのに、今度は電池を受け取ってしまった。私は、脱兎のごとく職員室を出て、部室の時計を持っている甲斐君を探しまわった。
「いやそもそも、なんで部室になくて甲斐君が持っているんだ。第一そのときにすぐ電池はめちゃえばよかったんじゃない?」
再び独り言ちりながら時計を持っているという甲斐君を何とか見つけ、電池をはめた。
「おー動いた動いた。ありがとな」
「よしこれでやっっと部室に行ける」
「お疲れやっしー」
じゃあ一緒に行くか―なんて思っていたら急に慧君が現れ、甲斐君をちょっとかりるとかなんとか言って去って行ってしまった。
「え、ちょっと二人ともー!部活はー?」
「なまえはそのまま部室に向かうさー!その時計届けて欲しいさー!」
でました欲しいさー。本日何度目。
なんて思いながら、いつにもましてなんだかよく分からない行動をしている皆に疑問をうかべつつ、部室に届けるかなんて思っていたら再び凛君に会った。
何で浮き輪なんて抱えているんだいなんて突っ込む気力ももうなかった。
「あい。まだここにおったどー?」
「色々お届けものをやっていましてね。けど、それはこっちのセリフよ凛君」
「それ部室の時計やっし?よかったーないとなんやかんやで困るんさー」
「あ、ちょっと凛君!」
「なまえやと届かんだろ。代わりにこれ、頼むさー」
ひょいっと私から時計を取った凛君は代わりにとばかりにずいっと手に持っていたものを渡してきた。浮き輪。時計より大きいけれど重さは全然違う。
「これ、どうするの?」
「あー永四郎にでも渡しときゃいいんじゃねー?」
「え、適当すぎるでしょう」
「まあまあ。頼むやっさー」
そんなやりとりをしたのがついさっき。
何かぐるぐるしてる。それにしても部室に一向にたどり着かないんですけど。
ナニコレ?もう今日はなんかそういう日ってことなのか?
そんなことを思い返しながら、ふと視線を上げると、浜辺にいる人物に目が留まった。
海から反射する光に照らされたその人物を見て、思わず手に持っていた浮き輪を強く握ってしまう。いたいた。よかった見つけた。大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせながら、また何か頼まれごとをされるんじゃないかと少しばかり身構えて近づく。
「永四郎ー?」
部室の近く、浜辺で声をかける。毎度思うけど比嘉の部室は海が近くていいよね。
穏やかな海の波音を背景に、永四郎がこちらに振り向く。なまえと私の名前を呼びながら手にしている浮き輪を目に留める。たったそれだけのことでもなんだか嬉しくなってしまう。我ながら単純だ。
「ああ、平古場クンからですね。話は聞いていますよ」
「うん。何かもー今日は四方八方に動いた感じ。部室までの道のりが遠すぎた」
ぶつくさ言いながらやっと部室だーと体を伸ばす私に、ねぎらいの言葉をかけながら永四郎が浮き輪を受け取る。そのまま、部室の壁に立てかけた。え、使わないんかい。
「ここまでたどり着くまで結構かかりましたね」
「いやだからほんとに。部室に向かうたびにいろんな人に頼み事されて」
「まあ、上出来じゃないですか」
「はじめてのおつかいに対する感想かいって感じね」
眼鏡を直しながらどこか満足げに不敵に笑う永四郎。その表情にドキリとしながら、何か言いたげな面持ちに疑問を浮かべる。
「どうしたの?」
「……鈍いですね。今まで出てきたもの、貴女が受け渡しした物。順番に書いてみたらどうですか」
落ちていた流木を手に取り、私にポイっと渡してくる。慌ててキャッチした私は、何のことだと思いながらもそれを使い、今日の受け取った物を書いていく。
縦に書いたらどうですかなんて言ってくるのでおとなしく従う。
えーっと確か。最初はクラスメイトからの頼み事だったな。
単語帳、ジョーロ、うちわ、ビー玉、おにぎり、メンコ、電池、時計……。最後は浮き輪。
もらった順番に縦に書き連ねていく。並べてみるが……
「何か気が付きませんか?」
「??」
何だろうか。頭を抱える私に、永四郎が肩をすくめ私の手からそっと流木をとった。
そのまま、頭文字に丸をつけ、静かに文字列に沿えるようにして流木を浜辺に置く。
これでどうだというようにこちらを見てきた。
まさか頭文字を縦に読めってこと?
私は覗き込むようにして頭文字を上から読んでいく。
『単 ジョ う ビ お メ 電 時 浮』
「誕生日おめでとう、ってこと?」
出来上がった言葉を口にすると、永四郎が満足げにうなずいた。なるほど!けどこれは何だ?どういうことだろうか?
「誕生日?誰の?」
いまいちピンとこない私は頭を抱える。
私と永四郎、テニス部の皆の中で今日が誕生日の人を考えるも、特にピンとくる人物がいない。私の知らないひとだろうか?なんて云々考えてると、永四郎の咳払いが聞こえた。
そちらに意識を向けると腕を組み仁王立ちしている永四郎と目が合う。
「え、眉間の皺すご」
「何をふざけたことを言っているんですか」
それはもう殺し屋の二つ名にふさわしい形相だ。思わず、げなんて声が上がってしまう。そうあたふたしているうちに、永四郎の機嫌がさらに降下していく。
「ひいい。ご、ごめんって!」
「私がどれだけ大事にしているか……」
「いやいや!私何かした?!え、そんな大切な人のなの?!ごめん!だ、誰の誕生日?!」
「なまえ。貴女ですよ。貴女の!誕生日!」
永四郎にしては珍しく声を荒げるように告げてくる。
え。
えええ。
「わ、私?!」
思わず引くように驚く私に、僅かに鼻をならしながら永四郎の眉間に再び皺が刻まれた。ご、ごめんって!
いや待って。待ってほしい。だって私だなんて思わない。
だって今日は……
「今日誕生日じゃないよ?ま、まさか皆して勘ち「そんな訳ないでしょう」そ、そうですか」
私の言葉に食い気味に告げてきた永四郎は腕を組み、私の誕生日を正確に告げてくる。
「おお、ちゃんとあってる。覚えていてくれたんだね」
「当たり前じゃないですか。ちゃんとわかっていますよ」
そうだったのか、と同時にでもなんで今日?と疑問を浮かべる私に永四郎が本日何度目かのため息をこぼした。
「まったく。その日は部活がないでしょう。私だけ祝えば十分だと言ったのに、あの人たちは自分たちも祝いたいと頑なでしてね。それに無駄に鋭い貴女は感づいてしまうのではないかとわざとサプライズ感を出そうとしたんですよ」
まあこの様子を考えたら杞憂でしたがねと告げる永四郎。
そうだったのか、と納得する。どうやら部室に近づけなかったのもパーティーの準備をしていたかららしい。そこはネタバレ大丈夫なんだ、と思ったが口にはしなかった。それに先ほど永四郎が最後にぼそりと告げた一言が若干失礼なのはこの際目をつむろう。
「なんか皆らしいというか、なんというか。嬉しいよ、ありがとう」
「そう素直に言われると、まあやってよかったということにしましょう」
私が笑うと永四郎も珍しく口角が上がっている。その何気ないいつもと違う仕草や表情に思わずこちらの頬も緩むというものだ。
「ありがとう永四郎。大好き!」
胸にこみあげる思いを素直にこぼすと、永四郎が驚いたような表情をした。あらら、これはまた珍しい表情だこと。
そんなのんきな感想をもった私を、ふわりと温かい風が包み込んだ。
「まったく。貴女という人は……」
一瞬何が起きたのかと戸惑う私に、背中と腰にまわされた腕に力がこもり、更に距離が近くなる。永四郎に抱きしめられていると気が付くのにそう時間はかからなかった。
はぁとため息をこぼす様に永四郎がつぶやいた。
「まあ、それはお互い様ですかね。少し早いですが今日は比嘉の皆でお祝いします。なまえ。誕生日、おめでとう」
頭の上から声が降ってきた。永四郎からの温もりとおめでとうと飾り気なく言われた言葉に、思わずフフと笑みがこぼれる。滅多にないことに、だらしなく笑ってしまうのは許してほしい。だってちょっと早いけれど一年に一度の私の記念日だもの。
「かなさんどー」
優しい声で零された言葉が私の耳をくすぐった。
私もありったけの笑顔でこたえよう。
「かなさしくみそーりよう」
私の誕生日当日は、永四郎と私の二人きりで過ごした。どこか永四郎が上機嫌であったのはここだけの話。
もしかして、二人の時間のために前もってみんなでお祝いする日を設けてくれたのかな、なんて思ってしまうのはちょっと自惚れすぎだろうか。でも、まあ楽しかったし良いよね!
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