テニスの王子様
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今日は氷帝全体がお祝いの雰囲気で溢れている。何を隠そう本日10月4日は、この氷帝学園の王様である跡部様の誕生日。他校からもお祝いが届いていて、彼の顔の広さや人気っぷりを再認識する。多くの人たちが顔をほころばせ、お祝いの言葉を口にしている。
かく言う私みょうじなまえも、その一角を形成している。私は彼がこの氷帝に現れた日から、彼の大ファンでいる。彼が言う雌猫というやつだ。
今日は水曜日。テニス部はオフの日。本来オフの日はテニス部の部室に人の出入りはほとんどないが、今日はテニス部も彼を全力でお祝いするようで、皆がどこか忙しそうに動き回っている。
跡部様はもうすぐ開催される運動会や、来月の文化祭で生徒会の仕事も忙しそうな日々を送っている。それに、自身のファッションブランドを立ち上げたというニュースも飛び込んできた。本当に雲の上の様なお方だ。
そんなことを思いながら、自身の手の中にあるものを眺める。跡部様にと思い、勇気を出して購入したプレゼント。雲の上のような方に対して、このような品でいいのだろうか。
渡そうか、やはりやめておこうか。けれど、3年目の今日、これが最後のチャンスの可能性もある。どうしようか。葛藤する心を落ち着かせようと自然と力が入ってしまう。
カサリとラッピングされた袋が音を立てた。そのタイミングで、目の前の扉がガタンと開いて人が飛び出してきた。
突然のことに思わず声を上げてしまった。勢いよく出てきた人物も、外に人がいるとは思わなかったようで驚いている。見事な瞬発力で私を上手く避けたため、お互いぶつからずに済んだ。
「っと、あぶねー。悪ぃ、大丈夫か?」
「宍戸君。こっちこそ変なところに立っててごめんね。大丈夫だよ、ありがとう」
勢いよく出てきたのはテニス部レギュラーの宍戸君だった。宍戸君が飛び出してきた扉の開いた隙間から、奥の景色が見えた。華やかにいけられた花といった豪華なものが目に留まる。ああ、やっぱり場違いかもしれない。やはりやめておこうか、そう思っていると、宍戸君が頭を微かに掻きながら私の手の中のものを示した。
「もしかして、それ、跡部にか?」
「うん。……あ、けどやっぱり」
いいかななんて思っている、と告げようとした。だが、告げるよりも先に眩い笑顔が向けられた。
「そうか!けど、跡部の奴、今ちょうど席外しているんだよなー。そのうち戻って来るだろうし、俺が渡しておくぜ!」
宍戸さん早くという声が、少し離れているが私の背中側から聞こえた。宍戸君は私の手にあるプレゼントをスッと受けとった。
「ありがとな!」
その言葉と共に勢いよく去っていった。足早いな、流石スーパーライジング。って、感心している場合じゃないよね。けど、まあ、いいか。突然の出来事ではあったが、結果的には跡部様にプレゼントできたのだから良しとしよう。
そう思い、静かに踵を返した。
それから少ししてのこと。
これまたとんでもない勢いで爆走している宍戸君を見かけた。そして、私の気のせいでしょうか。心なしか、彼がこちらに向かって爆走している気がする。明らかに目が合っている。
私の後ろを振り向くも誰もいない。どういうこと?
困惑する私の元へスライディングをするようにやって来た宍戸君。ピタリと私の前にとまり、勢いよく顔を上げた。
「よかった!やっと見つけたぜ!」
「やっと?見つけた?何が?」
「ほらよ!」
「え?」
ひょいと渡されたのは、私が先ほど彼に預けた、といより彼が持っていった跡部様へのプレゼントだった。
え。これは、どういうことだろうか?
宍戸君は、私のプレゼントを跡部様に渡すと言って持っていった。そして、その宍戸君が私にそのプレゼントをそのまま返してきた。
考えなくても簡単だ。跡部様はこれを受け取らなかった。
受け取りたくなかった?やはり、豪華ではないから?……確かに、ただの見知らぬ雌猫からのプレゼントなど貰っても、嬉しくない、よね。
そう思うとジワリと視界が滲んだ。やはり雲の上の人にこんな私がプレゼントなんておこがましい。カサリと再びプレゼントの袋が鳴った。その軽い音に、更に胸が重くなった。
「ごめん」
「って、あー!勘違いすんな!!」
俯く私に宍戸君の焦ったような声が聞こえる。
「そう、だよね。勘違いして、宍戸君にも迷惑を、」
「だあああ!だから!違えって!」
「?」
「それがよ、俺が状況を説明して跡部に渡そうとしたら、誰からだって聞かれてよ。名前聞き忘れたことを思い出して、分からないって俺が言ったら、跡部の奴、それじゃあお礼が出来ないと怒ってな。もう俺様はいつでもいるから直接渡しに来い!だってよ」
……え。それってつまり。
「えええ?!直接?!跡部様とご対面ってこと?!」
「別に普通だろ?プレゼントはその方がいいよな!俺も急いでて余計なことしちまった。悪い。けど、一人ひとりにしっかりお礼をしたいって跡部らしいよな」
「え、ええ」
いやいや。宍戸君は悪くない。むしろ跡部様に怒られてしまってごめんよ。そう思いながらフリーズする私に、宍戸君がじゃあと跡部様の居場所を告げて、去っていく。
え。ちょっと待って、とやっと出た制止の言葉もむなしく、宍戸君の背中は遥か彼方だ。
跡部様とご対面で誕生日おめでとうと伝えて、プレゼントを渡すんですか?
そもそも、一人ひとりにきちんとお礼をしたいって。もう本当に、
「跡部様。ほんとうに跡部様すぎます」
生まれてきてくれてありがとう。尊い。手で顔を覆い、心を落ち着かせた。
よし!
決意を固め、プレゼントを抱えた。
大丈夫。私が告げる言葉、それはもちろん――。
Happy Birthday !! 2023/10/4
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