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なまえと幸村は、立海大附属に通う同級生だった。幸村は名門のテニス部、なまえは園芸部に所属していた。そんな二人付き合い始めたのは中学生最後の年。先に告白をしたのは、なまえだった。それに幸村は穏やかな顔で了承した。
正直撃沈で振られるだろうと踏んでいたなまえにとって、幸村からの返事が一度目は全く頭に入ってこなかった。「ごめんね、ありがとう!じゃあね!」と言って去ろうとしたことは、今でも彼から揶揄われている。「いいよ」と二度言われるまで理解が追い付かなかった。
直ぐに関係が終わってしまうのではないかとなまえは一抹の不安を抱えていたが、トントンと月日を積み重ねていった。お互いに幸せだった。
そして、お互いに夢を追いかけていた。幸村はプロのテニス選手。なまえは将来のなりたい職業に向かって。
高校の最高学年になり、受験や部活にお互いが忙しく、共に過ごす時間は多くはなかった。けれど、隙間をぬって彼らは会っていた。どんなに忙しい中でも、特に多忙な身である幸村はなんとか時間を作ろうとした。なまえはそんな幸村に嬉しくも思いつつ、心に靄を抱えていた。
ある日、なまえは幸村に、久しぶりに一緒に帰ろうと告げた。その表情にどこか幸村は不安を覚えた。
そして、その不安は的中した。
「精市、別れよう」
なまえは別れを切り出した。
「どうして?」
「愛していないから。一緒にいられない」
幸村は衝撃を受けた。何があったのか聞いても、なまえは俯いたまま答えなかった。
「さようなら」
その一言が、重くのしかかった。卒業の年に始まり、卒業の年に終わりを告げた。二人は別の大学に進学することになり、なまえは引っ越しをすることになった。
そして、別れてからいくつかの季節が流れた。
あの日から数年後、彼はテニス選手として世界をとろうとしていた。
世界をかけた大一番の試合。大歓声に包まれる中、幸村はある客席の人物と目が合った。それはかつて付き合っていたなまえ。見間違いかと思ったが、確かになまえだった。一瞬、外国のこの地が、かつての青春の日々のテニスコートに感じた。
幸村が驚く傍ら、目が合ったことになまえも驚いているようだった。
試合はかつてないほど好調だった。次々とゲームをとっていく幸村に、観客が息をのんでいた。
ーゲームセット!ウォンバイ幸村精市!日本!3セットトゥー……
試合終了のアナウンスが響く。
幸村が再び観客席を見ると、なまえが涙を流して笑っている。その笑顔にかつて無理くり封じ込めた思いが再び湧き上がるのを幸村は感じていた。
試合後、多くのインタビューを終えた後、焦燥感に駆られながら幸村はロッカールームで着替え、なまえを探した。
「おめでとう」
人もはけた会場で自身の背中に投げかけられた声。振り返ると、そこにはなまえが立っていた。
「ありがとう」
「久しぶり、だね」
「そうだね」
どこかぎこちなさも交えながら、二人は向かい合った。
「世界で闘うテニス選手になる、その夢を叶えたね」
「ああ。けど、また新しい夢ができたよ」
「流石、精市だね」
しばらく沈黙が続いた。
「ごめんね」
「何が?」
「あの時、精市に理由を結局言えなくて」
なまえは気まずそうに指を組みながら伏し目がちに告げる。
「私は精市の夢を邪魔したくなかった」
なまえはそれから、愛していないと告げたこと、それはあのままでは愛せないということだったと告げた。どういう意味かと幸村はあの時のように再び尋ねた。なまえは、愛は相手の幸せを願うものだと聞いたことを告げてきた。
「精市の幸せは何よりもテニスだと思った。そして、そのテニスで世界に羽ばたくのが夢。私が一緒にいると、その精市の夢が遠ざかってしまう気がしたんだ」
「どうして?」
「私達は違う世界に住んでるんだって実感した。精市にはテニスに集中して欲しかった」
それに、自身への気遣いが幸村の負担になっているのではないかと不安に駆られていた。幸村の夢を邪魔するくらいなら、そう思ったのだ。
「なにそれ」
「え?」
呆れたような声音で告げられた言葉になまえは驚く。だが、自身が我儘を言っているというのも承知だった。怒っているかと思い、なまえは幸村の顔を見たが、その顔が微かに泣きそうな表情になっていることにさらに驚いた。
「それでも一緒にいられる人がいると、俺は思う。お互いが夢を追いかけても、愛し合える人が」
「そういう人がいるの?」
「ああ。俺はいると確信しているよ」
「ふふ、もういるみたいな言い方だね」
「当たり前じゃないか」
まっすぐと真剣な表情で言う幸村に、新たな出会いがあったのだろうかと考えを巡らせるなまえ。彼が本当に愛し合える人。どんな人だろうかと考えているうちに、何かを決心したような表情の幸村が再び口を開いた。
「君だよ」
幸村の言葉に、なまえは驚いて目を見開いた。初めてのあの時のように、また頭が追い付いていないだろうと踏んだ幸村は、再びなまえに告げる。
「そばにいて欲しい、なまえ。一緒に、お互いに、夢を追いかけて、今度こそしっかり愛し合いたい」
微かに幸村の頬も赤くなっていた。
そして、どちらともなく笑い合った。
数年後、テニス界の貴公子幸村選手の結婚報道は世を賑わせた。
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