テニスの王子様
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偶然の出会いって本当にあるんだな。
届いたメッセージを眺めながら、今やり取りをしている彼に思いを馳せる。
彼と私は同じ学校。運動部が強いこの学校は、特にテニス部が有名だ。彼はそんな有名なテニス部の参謀で、私はそこらへんにいるただの本好きな女子生徒。彼にとって、というより多くの生徒からしたら私は、目立たない存在に過ぎないだろう。
そんな全く接点もなさそうな私たち。この前、些細なきっかけで話しをして、こうして連絡を取り合っているのが今でも信じられないくらいだ。
あれは、図書館で本を借りようとしたときのこと。
借りたい本が閉架書庫にしかないと分かり、私は閉架書庫に訪れていた。書庫をいじっていたら、向こうから人がやって来た。
すらりとした長身。凛とした佇まい。同い年であることが信じられないくらい老成している柳蓮二君。
突然現れた存在に、どこかソワソワしながら書庫から目当ての本をなんとか見つけ出す。柳君はすぐにどこか違うところに行くかと思ったが、私の予想に反してここに居座っていた。どこか居心地悪さを覚えながら、本に手を伸ばす。
高いところに置かれているため、少し背伸びをしなければ取れない。かといって台座を持ってくるほどでもない。
あと少しで手が届く。そう思いながら指先に本が触れるその寸前。
「それを借りるのか?」
「え?あ、私?……はい」
「そうか。かぶってしまったな」
そう言いながら柳君は私が手を伸ばしていた本を、長い指でするりと書庫から引き抜く。その洗練された所作も相まって、えっと驚いていると、どうぞとばかりに私に本を差し出してきた。
「あ、ありがとう」
私が手に取った本は、彼も借りようとしていた本だったらしい。閉架図書にある本を、同時に借りたいと思うことがおきるなんて予想外だった。突然の彼との会話にどぎまぎした。彼は私に笑顔で声をかけてきた。
「みょうじもこのジャンルが好きなのか?」
「え、ええ。そう、ですね。それなりに」
「それなりに好きな人物が、わざわざこの閉架書庫までは来ないだろう」
なんで私の名前を知っているのか疑問に一瞬思ったが、彼はデータマンと言われているほどの人物だ。全生徒の名前が入っていてもおかしくはない。柔らかく微笑む柳君に、彼と一対一で喋っているんだということに不思議な感覚になる。「この本は特によかったな」とその本の近くにあった本を示す。それは私も以前読んだものだった。
「そうですね。私も同意見です。これとかも私は好きでしたけど」
ついつい本についてであったため、意見をしてしまった。柳君は、ふっと笑いながら「やはりみょうじは詳しいな」と面白そうな表情をした。なんだか今まで雲の上の存在だったけれど、こうして話をしてみると意外なほどに普通に話している。気が付けば、私たちは本の話で盛り上がっていた。
柳君は優しくて面白くてやっぱり素敵だった。
「差し支えなければ、また一緒に本の話でもしないか?」
そろそろ行かなくてはとなり、またねと挨拶をしようとした時、彼がそう言った。私は嬉しくて飛び上がりそうだった。
「ええ、ぜひ」
「俺の連絡先だ」
柳君は達筆に書かれた紙を私に差し出した。突然のことで驚いたが、お礼を言い私も渡さなくてはと、持っていた簡単なメモ帳に急いで自分の番号を書いて渡した。
「綺麗な字だな」
「えっ。柳君の方が綺麗だよ」
「そうか?」
「けど、ありがとう。普通に嬉しい。連絡先も」
「ああ。連絡する」
「うん。じゃあ、待ってるね」
またと挨拶をして私たちは笑顔で別れた。
本当に連絡なんかくれるんだろうかと思ったが、その日の夜に本当に連絡が来た。現に今もやりとりをしているのだ。
あの時、偶然同じ本を借りようと思ったことがきっかけでできた縁。人の縁とは不思議なものとはよくいったものだ。
なんて返事をしようか、そんなことを思いながら私はこの前の本を返却しに図書館へと向かった。
一方、なまえが図書館に向かった頃、男子テニス部では。
「で、どうなの?」
「何がだ?」
「みょうじさんと、自然に連絡先交換できたの?」
「ああ」
「流石参謀じゃの」
「まさか、さっき携帯をいじってたのは」
「そのまさか、だな」
「ええ?!柳先輩!いつの間にそんな人がいたんですか!俺にも教えてくださいよー」
騒がしく盛り上がる切原に対し、柔らかく微笑む柳。今までの思いや行いを掻い摘んで語る柳。その話の内容を実際に間近で見ていた者たちは、改めてその周到さに脱帽するしかなった。
なまえが偶然と思っていた出会いは、達人柳による必然の出会いであったと知るのはもう少し先のこと。
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