過去拍手文(二十四節気)
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キット、サクラサクよ。
そんな文言が書かれたパッケージをぼんやりと眺める。これを渡してきた彼の顔が浮かぶ。
ほんとにデリカシーの欠片もなかったな。まあもともとか。彼なりの気遣いではあることは知っているし、今度会った時にとりあえずお礼を言っておこう。
「なまえ、もうすぐ着くわよ。どうする?一緒に行く?」
「いい。一人で行く」
「そう。待ってるから」
車をとめた両親が私に問いかけてくる。何か言いたそうな視線を振り切り、大丈夫と安心させるように笑い車を降りる。
持っていたお菓子をポケットにしまい、かわりに番号と名前と自分の写真が載った紙切れを握りしめる。
大丈夫。きっと。
人だかりを見つけ、あそこかと自然と足を進める。
これが最後のチャンスだ。
逃げ出したくなる足を心で叱りつけ一歩ずつ進む。もう4回目であるのに一向に慣れない。まあ慣れたくもないか。
今日は2月4日。本来なら1日には終わっていて欲しかった。
第一志望はダメだった。塾では一番上のコースだったし、模試の成績から考えてもいけるだろうと自分も含め、周囲は思っていた。けれど、落ちた。
第一志望は一発勝負だった。ならば第二志望だと違う学校を受けたが、1日の敗退をずっと引きずっていた。3つ目の受験に至ってはどう受けたかすら思い出せないくらいだ。
そもそもだ。私が落ちた日に幼馴染の彼が笑顔で受かったと報告してきたのもそれなりにショックだった。
私の幼馴染。正直言って頭はあまりよくなかった赤也。だが、入りたいと強く思う学校を見つけたらしく、それから必死に大好きなテニスと同じくらい勉強に力を入れていた。
勉強を教えてくれと懇願され、一緒の塾に通いに共に受験勉強をしていたものだ。
私が落ちたことを伝えるとバツが悪そうにしていた。その表情が更に私に惨めさを感じさせた。
「ならよ。俺と一緒の立海行こうぜ。ほら立海って受験日複数あるしさ」
そう告げた赤也。その時は自身がいっぱいいっぱいだったため、うるさいと冷たく接してしまった。それでも彼は、私にお菓子を渡し励ましてきた。きっとカットされるから縁起よくないんじゃないなんて一瞬思ったが、赤也の好意を無駄にしたくなかったのでありがたく受け取った。
3校目の不合格が告げられた夜。家族に相談した。立海大附属を受験しようと思うと。幸いにもネット出願が可能であったため、そのまますぐ申し込みをして、今日を迎えた。
掲示板の前に立つ。周囲には受かった落ちた、様々な反応をしている人。
私はごくりと唾を飲み込み、深呼吸をして掲示板に視線を送る。自分の番号の近くが視界に入った。ここらへんだ。
番号は……
「ある」
あった。思わず口に出してしまった。初めての合格。
本当に合っているか、何度も受験票と貼りだされている番号を見比べる。間違いない。私の番号だ。
胸がくすぐられるような感じがする。口元が思わず緩む。
早く伝えに行かなくては。
そう思い、人だかりを抜け、両親の元へ向かおうとした。
ふと、なまえと大きく私を呼ぶ声がした。この声は、と思い私は足をとめた。
「赤也」
「おう!お。その感じは、」
「うん。まだしばらくは同級生になるみたいだよ」
「っしゃー!!」
自分が受かった時以上に喜んでいる赤也。やったなと笑顔で背中を叩いている。地味に痛い。力加減を知らんのかこいつは。
「なまえが落ちるとは思ってなかったから。あの時は、悪かった」
「私も落ちるとは思ってなかったよ。けど、まあ、それってある意味驕ってたのかな」
喜びを分かち合うなか、赤也が再びバツの悪そうな顔をして謝ってくる。ずっと気にしていたのだろう。
「私こそ、あの時冷たく当たってごめん」
「あの時はマジでびびったぜ。いつも明るい奴が落ち込むと、こう何というか……ああー!けどよ!おかげで中学もまた一緒だな!」
「また赤也と一緒かあ」
「なんだよー俺はめちゃくちゃ嬉しいぜ。勉強教えてくれよな!」
「嫌よ」
「なんでだよー!」
「ふふ。冗談だよ。けど今回頑張ったんだしもう赤也は教えなくても大丈夫でしょ」
「いやいやいや。俺立海に入ったらテニス一直線の予定だから」
「勉強疎かにしていると退学になるよ」
マジかよとか言いながら猶更よろしくだな、と言ってくる赤也
立海はその名の通り大学附属。どこまでエスカレーターで行くかは分からないが、もうしばらくこの幼馴染とは同窓になりそうだ。これからの学生生活に思いをはせながら、受験票をポケットにしまう。
その時、ポケットに入っていたお菓子が指先に当たった。
きっと、桜咲くよ。
立春の今日に、私は新しいスタートを切れそうだ。
二十四節気 「立春」
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