テニスの王子様
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バレンタインなんてクソくらえ。
どこぞのモテない男子生徒のような言葉だと我ながら思う。あ、けどこの例えは間違っているか。今の時代、男女なんてあまり関係ないし。友チョコ義理チョコ色々あるもんね。けど、まあ確信をもてるのは、
「バレンタインなんてお菓子メーカーの策略よね」
「何を先ほどからぼやいているんですか、貴女は」
ため息と共に呟く私にツッコミを入れる幼馴染であるはじめ。その綺麗な顔に反して意外と毒舌だったりする。
そもそも日本がバレンタインとかおかしいと零す私に、「ウァレンティヌスは……」なんてローマ帝国に遡るバレンタインの話を嬉々として話す彼に、なんでこんな人物が幼馴染で、私の心に居座り続ける人物なんだと我ながら呆れてくる。
「今年のバレンタイン、休もうかな」
「どうしてです」
「自分の胸によーく手を当てて考えてみてよ。幼馴染ってだけでよろしくと橋渡し役に任命されるんですよ」
困りものだっぺと思わず方言がでてしまうくらいむくれる私に、困ったように笑われる。彼としても困りものなのだろう。
幼馴染と周囲に隠していた1年目。共に北の地からやって来た同級生。中学生になり異性も気になり始め、小学生の頃には自覚していなかった恋に気が付いた私。はじめにチョコを渡そうかどうしようかとひそかに悩んでいた私にとって、探りをいれるつもりで何気なくつぶやいた言葉。「バレンタインでたくさんの女の子から貰うんだろうね」と彼に言う私に、迷惑やいらないなど聞いてて悲しくなるような冷たい言葉が返ってきた。はじめはバレンタインが嫌いらしい。やはり贈るのはやめようと思い渡さなかった。案の定、バレンタインの日の帰り道は不機嫌だった。どれだけ貰ったんだと内心思っていた。しかし後日、はじめがたくさんの人に渡されたチョコを一切受け取らなかったと、悔しそうにしている赤澤君から聞いた。普通にバレンタインが嫌いなだけかと驚いたものだ。
そして2年目のバレンタイン。昨年と同様、バレンタインが近くなった頃の帰り道に「今年も渡そうって子がたくさんいるだろうね」といった会話をしているとふとはじめが「貴女はどうなんですか?」と聞いてきた。「貰うのは普通に嬉しい」と伝えると呆れたような顔をされた。解せぬ。
そしてこの年は、私がはじめの幼馴染とばれた年でもあった。一人の女の子が私に「あの。観月さんに渡してください!」と顔を赤らめて必死に渡してきた。無碍にするわけにもいかず、それを受け取りはじめに渡しに行った。
何と言って渡せば受け取ってもらえるだろうかと悩んだ。だが、プレゼントを抱えて歩いている私に、はじめの方から声をかけてきた。まあいいかと思い、そのまま彼に差し出すと、彼は驚いたように「そうですか」といって受け取った。なんだ今年は普通に受け取るのか。いやそもそも知っている子だったのだろうか、なんて思いながら存外すんなり受け取った彼にお礼を述べた。彼が嬉しそうにしているので、何が入っていたか聞くと「貴女が選んだんじゃないんですか」と驚いた顔をされた。それは預かったものだと伝えると、また呆れたような顔をされた。
それからというもの、ここぞとばかりに私にバレンタインや誕生日の贈り物を彼に渡してとお願いされるようになったのだ。解せぬ。
もともと小学生のころから何となく皆からの注目を浴びていた彼が、中学生になり部活でも活躍しているのだ。顔、性格、学力、どれをとっても平均よりずいぶん上に位置する彼がモテモテなのは当然だ。
「なまえ。僕へのものは断ってくださいね」
「そんなことはできないよ。だって、想って選んだり作ったりしているんだよ」
自分でも何しているんだとは思っている。けれど、誰かを想うという気持ち、ましてや彼を想う者同士。何となく自分を見ているようで無碍になんてできない。
彼への贈り物を受け取る度に、彼の人気っぷりを痛感する。そして、渡してくる女の子のレベルの高さに、自分にはじめは釣り合わないと言われているような気がする。
「はあ。こんなんなら幼馴染なんてなるんじゃなかった」
「今、なんて言いました」
辟易して思わずつぶやいた私の発言に彼の雰囲気が変わったのを感じた。
しまった。逆に自分が彼にそんなことを言われたらどう思う。思わす彼の方を見ると、まっすぐに据わった目でこちらを見ていた。これは彼が本気の時の目だ。その雰囲気に、死刑宣告をうけたウァレンティヌスのように固唾をのむしかなった。
「そうですか。幼馴染は、嫌、ですか」
「も、もっけだ。これは言葉のあやというか。ほだなこと、」
「いいですよ。僕もずっと、幼馴染幼馴染って言われるの不快だったんですよね」
「へ?」
急にはじめが微笑む。幼馴染、嫌だったのか。突然の衝撃的事実とともに、先ほどとは打って変わった彼の雰囲気に、戸惑うしかなかった。
「という訳ですので。幼馴染ではなく、これからは恋人と周りの人たちには伝えてくださいね」
「は?」
ええと声を上げる私に、笑顔を浮かべる彼。彼の言葉を咀嚼するも理解が追い付かない。ちょっと待ってください。
「バレンタイン、期待していますよ」
それでは、と優雅に席を立ち去っていく後ろ姿はどこか嬉しそうだ。
バレンタインなんてくそくらえ!
必死に今から何を渡すか考える私の叫びはチョコのように溶けて消えていった。
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