テニスの王子様SS
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
はじめて目にしたとき、素直にこれは現実だろうかと思った。それほど目と心を奪われた。今も瞼の裏に焼き付いて離れないあの情景。
そう、あれは忘れもしない。跡部の招待をうけ立海の皆で氷帝の文化祭に赴いたあの日。
氷帝に行くならば日本舞踊を是非見てくると良いと姉に言われていた。6月の芸術鑑賞会で日本舞踊に興味を持っていた俺に向けての助言でもあっただろうが、なんでも姉の友人が所属しており、高等部からある氷帝の日本舞踊部はその界隈では有名で特になまえちゃんはねと、本を読む俺の横で猫と戯れながら誇らしげに話しているのを聞き流すといったやりとりを前日にしていた。
そんなことを思い返しながら、相変わらず派手だと感想を溢している皆と共に氷帝をまわっていたものだ。氷帝の食堂や出店に一直線だったものもいるがそれぞれが楽しんでいた。自由にまわり落ち着いた頃、精市と弦一郎と共に交流棟で日本舞踊部の演舞が行われていると知り、観に行くことにした。
そして、会場に入り目に飛び込んできたのは、純白の着物を纏い純白の布とともに舞う一人の女性の姿だった。
流れている和の音楽も相まって幻想的な雰囲気に思わず息をのんだ。その人物の舞が終わるまで、時が止まったかのように三人でその場に立ち尽くしていた。
舞が終わり次の舞踊に差し掛かろうとしたタイミングで、ちょうど後ろの方の席に座っていた背が高い人物が立ち上がった。その隣座っていた人物も、もう時間ですかといって名残惜しそうに立ち上がった。
ちょうど席が3つ空いたのもあり、俺たちはそこに座ることにした。
「なまえ先輩、相変わらず綺麗でしたね」
すれ違い様に赤いメッシュの入った髪の人物が、背の高い人物に語り掛けていた。背の高い人物は無言で表情は髪が邪魔して見えなかったが、どこか満足気な雰囲気を漂わせていた。なまえという名前に、俺は微かに反応した。先ほど舞っていたあの女性が、姉の言っていたなまえなのだろう。成程。その界隈で有名だというのに納得したものだった。
それから団体での舞踊でも、俺はそのなまえと言う女性に目を奪われた。まるでそこだけが照明に当たっているのではないかというくらい、思わず目がいってしまう不思議な感覚だった。どの動きも洗練されており、素直に美しいという感想を抱かずにはいられなかった。
この前の氷帝文化祭のことを思い返しながら、時計を眺める。約束の時刻までまだ少しある。
そもそもあの時のことを思い出してしまうのは、この姉から預かった扇子のせいだ。和の文化の扇子。そして白色ときている。それをみると、どうしてもあの時の日本舞踊が思い起こされてしまう。
昨日の夜、急用が入った姉からこれを友人に渡してほしいと押し付けられた。なるべく今日には返したいとのことであった。俺の返事も聞かず、約束の場所と時間を伝えられ、よろしくと全力でお願いされた。断るにも今日は特に予定もなかったこともあり、今度何かお礼をすると言われ、まあ仕方ないと手を打った。
姉から預かった相手に渡してほしいお礼のお菓子と共に扇子を持ち、俺は待っていた。
そもそも誰に渡すのかすら不明だが、この場所は人も少ない。場所と時間をきめているのだ。問題ないだろう。そう思っていると、ふと声をかけられた。
振り向くと同時に思いもしない人物がそこにはいて、俺の心臓が激しく脈打った。
そこにいたのは、先ほどまで思い浮かべていた人物だった。名前を名乗り、扇子を受け取りに来たことを告げられる。まさか約束の人物がなまえさんとは思わず、僥倖に俺は心の中で姉に感謝した。
「もしかして、蓮二君?」
落ち着いた私服を纏ったなまえさん。お姉ちゃんに少し雰囲気が似ているねと柔らかく微笑むその姿に、俺は冷静を装うのでいっぱいっぱいだった。
「名前、知っているんですか」
「君のお姉ちゃんからよく聞いているよ。テニスが上手で頭脳明晰!それにしても、柳さん一家は皆背が高いの?」
お姉ちゃんも大きいしなんて首を傾げながら呟くなまえさん。日本舞踊の時とはまた違った雰囲気に、表情がコロコロと変わるその様子に胸をくすぐられるような感覚がする。
「ごめんね。しばらく使わないからって言って貸したのに、急遽必要になっちゃって。しかも弟の蓮二君にわざわざ届けさせる感じになっちゃって」
「いえ。気になさらないでください。姉も助かったと言っていました」
これ姉からですといって、お菓子を渡す。なまえさんはわざわざいいってと言って受け取るのを強く拒否したが、気にする必要はないことを伝える俺が折れないことを悟ったのか、じゃあと遠慮がちに受け取った。
「ありがとう。……あ、そうだ。折角だし、はい」
どうぞと言って、姉からの品であったお菓子の一つを俺に差し出すなまえさん。戸惑う俺は手を優しく掴まれ、気が付けばその中にはお菓子があった。これ、お姉ちゃんには内緒ねと言ってウインクをしながら人差し指を出している。そんなお茶目な動作に思わず口元がゆるんだ。今更返すのも変であること、何よりなまえさんから貰ったものとなると一つのお菓子でも大切なものに思えて仕方なかった。
俺が礼を告げると、なまえさんが今日は部活ないのか聞いてきた。どうやら俺が立海のテニス部であることは知っているようだ。今日はオフであることを告げると、少しばかり安心した表情を浮かべてる。それから逆に少ない休みの中で来てくれたことにお礼を言われた。
それからすぐ別れるのも名残惜しく、つい色々と話をしてしまった。それなりに話をした後、なまえさんはお礼と共にそろそろ行かなくてはと呟いた。蓮二君面白くてつい話し込んじゃったと言われ、こそばゆかった。
「よろしければ今度、試合を見に来てください」
「ふふ。ありがとう。蓮二君の試合、話には聞いているけど実際に見たことないから楽しみにしているよ。……あ。氷帝と当たった時は、こっそり応援するね。月光に怒られちゃうもの」
先ほどと同じように内緒といった動作をしながら笑顔で告げてくる。ツキミツとは誰だろうか。会話の内容からして氷帝テニス部の人物だろうか。確か氷帝を全国に導いた高等部の部長が越智月光という名前だった気がすると心のどこかで思い出した。
なまえさんの口から他の男の名前が出るだけで、心に何かもやがかかる。
なまえさんが試合を見に来てくれる。負けられない理由が、また一つ増えた。
後日、猫と戯れる姉から、全然聞いていたような不愛想な冷血漢じゃなかったとかなまえちゃんが言ってたけど、珍しいじゃないどうしたのよとか何とか言われた。俺のことを不愛想な冷血漢と紹介していたことに対して呆れた。
この際だ、ついでに姉になまえさんの情報を聞こうと思い、様々な質問をした。その返答をノートにまとめていく。好奇心旺盛なのは相変わらずみたいねーなんて笑いながら言われた。なまえさんのことをもっと知りたくて、つい色々と質問してしまった。
それに、なまえさんを前にするとついどこか浮足立ってしまい、他の女性と話す時のような雰囲気と変わっていることに関しては自分でも否めなかった。
俺は自分のノートに新たにできたみょうじなまえの欄を眺め、その文字を指先で撫でた。
10/23ページ