テニスの王子様SS
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昼休み。私はコート上の詐欺師こと、仁王雅治に呼び出された。ひょんなことから屋上で出会い、それから何かと出会うことも多く、それなりに彼とは仲良くなった。
いつからかは覚えていないし分からない。自分でも正確には言えないくらい気が付けば、彼に惹かれていた。だが、モテる彼。屋上で出会ったのも、彼が他の女子から告白されているタイミングだったことを思い出す。
「何?まさか遂に、私に愛の告白をする気とか?」
「違うぜよ」
「そ、即答」
そんな冗談に微かな希望を託すも、即答。まあ自分が雅治の恋愛対象外ということはとうに分かっている。見た目も中身も平凡。部活も特に全国区でもないし、あのテニス部のレギュラーである彼とは釣り合わない。付き合うなんて夢物語のような希望だ。
だが、こうして話ができるだけでもありがたいものだ。完全に雅治にとっての揶揄い要因となってそうだが。
今日もきっと何か騙す魂胆だろう。さあ用事は何なのだ。乙女のささやかな希望を奪いおって。ぐぬぬ、許さんぞバカ治。
「騒がしいのう。雅治じゃき。面倒だから単刀直入に言うぜよ。今日、あいちょるか?」
「えっ、今日?別にこれと言う用事は無いけど……。というより、仁王雅治さん。貴方、いま心読みました?」
「プリッ」
「うん。もう良いや」
何なんでしょう彼は。本当に訳の分かりません。食えない人物。まあそんなとこも好きなんだけど、なんて思いながらため息を溢す。
微かに笑い声がして、何かと見ると雅治が面白おかしいものを見るように笑っていた。なに笑っているんですか!笑った顔もイケメンだなちくしょう!
「じゃあ、放課後」
「えっ?ちょっと」
待ってと言い終わる前に雅治は踵を返していった。何の魂胆だ。全く読めない。
「ああ、この事は皆に秘密じゃけえ。ではの」
そう爽やかにウインクをしていく姿にを見送り、何だったんだと茫然としていたらチャイムが鳴った。ああ授業遅刻する!私はダッシュで教室に戻った。
時間がたつのは早く、あっという間に放課後となった。
終礼も終わり、今日は部活がないためこのまま帰宅だ。昼休みのとき、放課後にと雅治に言われていたことを思い出す。だが、雅治らしき人物はいない。
はあ。またどうせ騙されたんだろうな。今日という日を思い返し、家に帰ってはやくケーキでも食べようと決意した。
「帰るか!」
少しばかり期待していたが、仕方ない。
友人に帰ろうと言われ、今行くと鞄を持ち教室を去ろうとした。
「待ちんしゃい」
「どぼふっ」
教室の扉を開けたとたん、誰かにぶつかった。いるとは思わなかったため、思いっきりぶつかった。おかげで変な声出してしまった。
「相変わらず騒がしいのう。ほら、いくぜよ」
「雅治さんよ。人がいないと思って、いたらそれはびっくりす……わわ!」
私が言い終わる前に、雅治は私の手首を掴み歩きだした。微妙に痛いけど、雅治と手を繋いでいる。それだけで顔に熱がいくあたり、自分の分かりやすさに呆れる。こんなんだから騙されやすいんだよなまえ、とセルフツッコミを入れながらも、雅治とともに歩く。
「雅治!何処に行くの?」
私は雅治に手を捕まれ、何処かに向かっていた。
「静かにしんしゃい。あと少しじゃき」
「?って、此方、めっちゃ山道っぽいじゃない。というより、周りもう暗いよ」
この季節は陽が落ちるのも日にひに早まっている。部活がない日であっても、授業時間が多い今日はもうすぐ日が暮れる。山道のようなところは木々があるため、なおさらあたりが暗くなるのも早そうだ。
私の言うことを無視し、迷わず先へ進んで行く雅治。いつも以上に口数の少ないその様子にどうしたのだろうかと疑問がわく。
「もうすぐぜよ」
振り向いた雅治に笑顔を向けられた。相変わらずお綺麗な顔をしてらっしゃる。辺りは暗いが、私の目にはしっかりとその優しさに包まれた笑顔が映った。脳裏に焼き付けておこうそうしようと誓った矢先、視界が開けた。
公園。人気もなくひっそりとしているが、整備はされているのか、いささか古さは感じるが綺麗で落ち着いた雰囲気だった。高台にあり、海と町がよく見える。
「ほれ、此処に来んしゃい」
雅治は公園の椅子に腰掛け、隣を示す。
「うわーいい眺め。町が小さく見える。あ。あれ立海だ!」
「そうじゃろ」
その景観に見とれる。暗くなり、明かりに照らされている幻想的な町の風景と、どこまでも広がる海に穏やかな気分になる。見えるものを指さし、雅治の方を見ると満足そうに答えてきた。
「そろそろじゃな。なまえ。空、見てみんしゃい」
「?うわあ!」
雅治に言われるまま、私は空を見た。其処には空一面に宝石をちりばめたような景色が広がっていた。
綺麗と思わず呟くと、星が流れた。それに驚いていると、違うところで更にまた星が流れた。今の時期は流星群がきている。ここでもこんなに綺麗に見えるとは。
「良い眺めじゃろ?」
私が驚いていると、雅治は穏やかな声で私に語り掛けてきた。前に流星群とか見たいけど、都会じゃあまり見えるところとかなさそうだよねという話をしたことを思い出した。まさか、それを覚えていてくれたんだろうか。それで、わざわざこんな穴場のような場所に連れてきたくれたのだろうか。私の思い違いでもいい。けど、今日こうやって雅治と流星群を見れることは嬉しい。
流れ星に、いつか叶えばいいなと思い、微かに隣に座る人物への想いをひそかに込めた。
「すごくいい眺め。ありがとう!」
「お礼を言われる様な事はしとらんよ」
今ここで二人きりで星空を見上げている。胸に嬉しさが込みあげる。その嬉しさを隠すことなく顔に浮かべ、雅治の方を見ると、彼もまた穏やかな表情をしていた。そして、私を見つめて言葉を静かに紡いできた。
「誕生日、おめでとう」
「え。なんで知ってるの?」
「なまえについて、知らん事は無いぜよ」
「なっ……」
そんな勘違いさせるようなことを言うんじゃないと言おうと思った。けれど、私が言うよりも早く、雅治は私の腕を優しく引っ張る。
一瞬何が起きたのか分からなかった。けれど、背中に回された腕、視界の端でちらつく白髪。
雅治に抱きしめられていると理解するのに時間がかかった。
いったい何の冗談だと突然のことに驚き、思わず名前を呼ぶ。自分の声は上擦っており、緊張していることがバレバレだ。
「好いとうよ、なまえ」
雅治の言葉は、私の耳に優しく響いた。その言葉が頭の中で反響する。
え。先ほどから情報過多すぎる。これは、また揶揄っているのか。驚きの余り信じられないという気持ちで、思わず雅治の顔を見る。だが、その顔はいつもの人を騙すときの冗談を言っているときの顔ではなかった。今までずっと見て来たから分かる、真剣な時の表情。
これは、雅治の言った言葉通りに素直に捉えていいものなのでしょうか。
私も、好きです。疑念も持ちつつも勇気を持ち、そう告げるも自分でも分かるくらいその声はか細かった。聞こえるか聞こえないか分からないくらいだ。
「何じゃ?ハッキリ言いんしゃい」
「う。嬉しいですっ!私も!好き!!」
ええい。こうなれば大胆に、と思い今までの思いも込めて大きな声で告げる。私も雅治を抱き締め返した。
「大胆じゃのう」
「雅治には負ける」
「プリッ」
相変わらずはぐらかし方に思わず非難するような眼差しを送るも、雅治はどこか安心したような表情をしている。それから力を抜くように息を吐き、私をまた見つめてきた。
「まあまあ。そう睨みなさんな。やっぱり分かっていても、緊張はするもんじゃな」
「え。私の想い、分かってたの?」
「さっきも言ったじゃろ。知らんことは無いぜよ」
そう面白そうに揶揄うような感じで雅治は笑った。自分の顔に熱が集まる。そんなに分かりやすいんでしょうか。考え込む私に笑いながら、雅治は恥ずかし気もなく、再び好きだと告げてきた。
二人で肩を並べ、空を見上げる。
「そういえば、流れ星に何か願うの?」
「そう言うお前さんは?」
雅治は意地悪く笑いながら問いかけてきた。
「私?私は、もう叶っちゃった」
「そうか。奇遇じゃな、俺もぜよ」
お互い顔を見合わせ、どちらともなく笑いかけた。それから、雅治は私の肩をそっと抱いてきた。
「雅治。私、今凄く幸せ。ありがとう」
「礼を言うのは此方じゃき」
「雅治から、お礼を言われるとか。明日は雨降るかも」
「酷いのう」
そんな幸せな時間に包まれる私たちの上に、また星がはしった。今日は忘れられない誕生日になりそうだ。
「フフ。仁王、昨日はどうだったんだろうね?」
「あの公園見つけるの大変だったッスよね」
「全く、部活の休みの日に我々が共に探す事になるとは」
「でも、坂登りも筋トレになっただろう?」
「そうだな」
「みょうじさんも仁王君も、今日はとても幸せそうでしたね」
誕生日の次の日、そんな会話を雅治の部活仲間がしているのを微かに耳にした。雅治の方を見ると目を逸らされた。おい。
それにしても、彼らが言っていたことからも、自分は本当に考えていることが顔に出やすいらしい。なんてこったい、もう少し何とかならないのかね表情筋よと呟きながら頬を触っていると、雅治が横で呆れたように笑っていた。
けど事実幸せなんだから仕方ないよね!
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