テニスの王子様SS
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「健ちゃん。これ、どう思う?!」
そう言い私は、友人でありクラスメイトの健ちゃんこと小石川の顔に紙を押し付ける。
「何すんねん!って、なんやこのポエム」
「そう!このポエム!どう思う?!」
どう思うって言われてもと呟き、戸惑いながらも内容を吟味している健ちゃん。
「なんやえらく切なくなるなぁ、失恋でもした傷心中の誰かが書いたかのような……」
「せやろ!!」
そう思うよね!私の感性は間違ってなかった!あの人の恋人とかなまえも変人なんやろうな、とか言われた記憶から不安に思ってたけど、やはり私は普通だった。
「にしても。これ、誰が書いたん?」
そう。それが問題だった。失恋をうたったかのような切ない感じ、深い愛情を感じるこのポエム。普通に赤の他人が書いたなら、ああ切ないなぁけどいいなぁくらいで済む。しかし、これを書いたのは紛れもなく私の恋人。
「蔵」
「ええ?!白石?!んなアホな!」
このポエムは私の恋人、白石蔵ノ介が書いていたものだった。
「なまえと白石、いつ別れたん?」
「別れとらんわ!!」
「え。じゃあこれ何や」
蔵とは恋人になってそれなりの月日は経っている。私たちは熱々って感じではないけれど、そばにいて当たり前な感じになってたし、普通にお互いがお互いを大切にしていると思っていた。
最近、蔵が落ち込んでいるように見えたから話を聞こうと思いクラスに行ったら蔵は不在だった。机の上にあった紙をたまたま見てしまい、こんなものを見つけてしまった。裏切られた気分だった。蔵は恋人である私以外に誰か好きな人がいて、その人に失恋して傷心中だったのだ。
「けど、白石になまえ以外そないな人おったかな。何か思い当たることあるん?」
「それが全く。いつの間にって感じなんよ……」
「よく思い出し。意外とそういうのはかなり前からあったりするんよ。変わったな、とか違和感を覚えたことないんか?」
健ちゃんのアドバイスから、最近だけでなく前の方の記憶もさかのぼっていく。
そう言えば、夏くらいから、蔵がやけに楽しそうにしていた。何かあったのか聞くと新しい友達ができたとかそんなことを言っていた気がする。
夏の終わりころから少し考え事をしている様子が増えていた。話をして何か手助けできることはあるか聞くと、一緒に本屋とか図書館とか行こうと言われ行ったことはある。
「うーん。夏に出会ったんやろうか。それで、夏の終わりころに本に異様に興味を持ったと」
「うん。思いあたるん、これくらいや」
もともと本は読む人であるが、何か調べ物でもしたかったのか、かなり真剣に本屋や図書館にいた気がする。あの時は自分が興味ある本のコーナーに行って、後で合流した感じだったから蔵が何の分野の本を見ていたか分からない。見とけばよかった。
「あ。おったおった。なまえ」
健ちゃんと二人で悶々と考えていると、渦中の人物が現れた。私と健ちゃんは普通に現れ、私にいつも通りに声をかけていきている蔵に驚く。
「何や二人してそないな顔して。まあええか。なまえさっきクラスきたんやって?どないしたん?」
「どうしたもこうしたもあらへん!蔵!これ何やねん?!」
健ちゃんが持っていた紙を取り、蔵に見せる。
蔵はその紙をみて驚いている。そうだよね、浮気がばれたんだもんね。驚くよね。どこかで疑問の顔を浮かべることを期待していた。何やこれ、と健ちゃんみたいに初めて見る反応をしてほしかった。
けど、その驚愕の表情は彼がこれを知っていることを意味している。泣きたくなる。
「なまえが持っとったんか。どこかに落としたんかなとか思っとったわ」
悪びれもせずあっけらかんという蔵。あまつさえ、お礼を言って受け取っている。そんな蔵に、私はフリーズし、健ちゃんは白石の名前を呼び全力でツッコミを入れている。
「それ思いっきり傷心中のやつやん!なんや白石、失恋でもしたんか?!」
「失恋なぁ。まあそうかもしれへんな」
冗談風に健ちゃんが笑いながら蔵に尋ねるも、挙句「大切なヤツやった……」なんて言って、儚げに微笑む蔵。何その表情。めちゃめちゃ大切そう。未練たらたらじゃん。
恋人である私の前で、浮気を、その失恋を普通に認める蔵に唖然とする。
「蔵。その、……いつ、お別れしたの?」
「ん?この前の日曜日にな。もともと冬は越えらへんと言われとったから、頑張った方なんやけどな。最後の最後でやっぱり、アカンかったわ」
そう悲し気に言う蔵。その言動に、私と健ちゃんが顔を見合わせる。きっと健ちゃんも同じ疑問を抱いている。聞いていいか悩んだが、よもやだ。
「え。まさかの亡くなったの?」
「ああ」
まじか。まさかの死別。そんなことある?
あ。体が弱くて入院とかしていたから、今まで蔵の隣にいるのを見なかったのかな。そうか、死別だったのか。なんか一瞬でも恨んでしまってちょっと申し訳なく思った。
健ちゃんがしょげる蔵を慰めるように、尋ねる。
「もう弔いは済んだんか?」
「ああ。その日にすぐにな。あいつはクヌギが好きやったからな。最後まで抱えて、クヌギの木がぎょうさんあるところを探してそこに埋めたわ」
え。またも私と健ちゃんは顔を合わせる。今時、土葬?!どういうこと。しかも抱えてって、下手したら死体遺棄現場だぞ。それ。
なんか浮気とかそんな気持ちより今は冷や冷やな感じだ。大丈夫かこいつ。
「へ。へえ。土葬なんやね。珍しい」
「?普通土葬やろ?」
「いやいやいや」
え。まさかの白石家は土葬文化なのか。それとも、彼女さんの家の方?
「ま、まあ元気だしや白石。お前の彼女のなまえも心配しとるし。俺らもついとる」
「ああ。ありがとうな二人とも」
そう微笑まれて、彼女であることを否定しなかった蔵に、今回はまあいいかと思ってしまうあたり相当ほだされているな私。
逆にその彼女さんに興味がわいた。どんな方だったのだろう。
「その、出会いはどんなやったん?」
「出会い?……ああ。カブリエルのことか」
カ、カブリエル?!なんだその名前。まさかの外国人。しかも微妙に天使みたいな名前だ。あ、外国の方だから土葬文化?!私と健ちゃんは再び顔を見合わせる。
「せやな。指先を掴まれて完全に落ちたわ」
はあ?!指先?!どういうこと?!それで落ちるん?!ちょろすぎるだろ!
へえなんて曖昧な相槌を健ちゃんと言っていると、蔵はそのカブリエルさんとの思い出を語り始めた。
「プロテイン入りのゼリーをたくさん用意したんやけど、結局バナナばっかり好んどったわ」
健ちゃんと本日何度目かといったくらい顔を見合わせる。カブリエルさんいったい何者。全く得体が知れない。蔵にご飯貢がれているの?病人だからゼリーとかフルーツなの?
挙句なんか身体の特徴を語り始めた。なめらかなそのとか言うあたりから健ちゃんが私の耳をふさいだ。ちょっとなんですか?!なに言ってるんですか?!
健ちゃんの腕を離そうとするも無駄に馬鹿力でなかなか離れない。やっと耳が少し聞こえるようになったと思ったら、健ちゃんの大声が耳に響いた。
「あかんあかんあかん。なまえは聞いたらあかん!白石!おまえ、中学生やろ!!」
そんな風に顔を赤くしながら叫ぶ健ちゃんに対し、蔵は至極冷静に何を言っているのかと言った顔をしている。
「言葉じゃ伝わらんか。あ。せや、写真があるんや」
そう言って携帯を取り出し、写真を探している。私と健ちゃんはもう何度今日見るんだというくらい、顔を突き合わせる。
相手は多分グラマラスな感じだが病弱である外国の人。何が来ても心を強く持てなまえよ。大丈夫、蔵は私を恋人と認めている。自信を持てなまえよ!
ほら、と蔵が写真をこちらに見せた。そんな笑顔で、写真を突き出されても、今の私には黄門様の印籠のようにしか見えない。
勇気をもって健ちゃんとともに写真を見る。
そこに写っていたのは……
「カ、カブトムシ?!!」
私と健ちゃんの二人の叫びが響く。蔵は自慢げにまたそのカブトムシであるカブリエルさんについて熱く語り始めている。
私の恋敵は、カブトムシでした。
この話はしばらくの間、四天宝寺でネタにされまくった。
そのネタも少しずつ落ち着いてきて春めいてきた季節。変わらず恋人である蔵と、二人で並んで歩いている。
「ほんに、あん時は何事やと思ったんやから。勘弁してよ蔵」
「堪忍な。なまえ、前に虫は苦手言っとったから、無理させんようにと思って。一応、伝えたんやけどな」
「あの友達ってカブリエルちゃんのことやったんか……。カブトムシなら私やって大丈夫やったのに」
分かりにくすぎるだろと思いながらため息を溢す。カブトムシが大丈夫の発言に、蔵の顔が輝く。あ、なんかこれ変なこと考えてそう。
「さよか!ほな、今から幼虫でも見つけに行こか!!」
「は?!」
そう言い蔵は私の腕を掴んで走りはじめた。
厳しい寒さが終わりを迎え、桜が咲いているこの季節。そんなピンクの空の下、私たちは二人で走る。
走っているのは、カブトムシに向かってだが。
もうすぐ高校生となるのに、無邪気に春色の笑顔を浮かべている蔵に、楽しそうだからまあいいか、と思えてしまう。
ああそれから。
白石がカブリエルちゃんを思って書いていたポエム。それは色々と手を加えられてはいたが最終的に『追憶』というタイトルで学校新聞に載った。それで、私と別れたと勘違いされまくり大変だったこともここに伝えておきます。
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