テニスの王子様SS
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王者と呼ばれる立海大附属男子テニス部には一人の女子マネージャーがいる。
王者の名にふさわしい練習内容であることに伴い、マネージャーの仕事も他校と比較しても繁忙だ。多くの女子生徒がそのマネージャーの座を希望し入部しても、その仕事内容から挫折していくことが多い。そんな中、一人の女子生徒が残り、マネージャーとして活躍している。彼女の名前はみょうじなまえ。
今日も今日とて、眩いレギュラー陣の練習の横で淡々と仕事をしている。
一見真面目に仕事をしているように映る彼女の姿。実際は、彼女はあ、そういえば今日ドラマの再放送だったな。早く見たいな。などと考えているとは、テニス部以外は思いもしないだろう。
部活終了までの時間を計算し、思わずため息を溢すなまえ。
「何ため息してんだよい、なまえ。幸せが逃げるぜ」
「なまえには、逃げる幸せすらないぜよ」
「その頭のチョロ毛引きちぎったろーか?」
「プリ」
「よーし引っこ抜いてやるわ。後ろを向けーい!」
「貴様らー!なに油を売っている!たるんどる!」
集まっていた三人にむかって真田が遠くから叫んでいる。その様子に、いけねいけね、なんて言いながら仁王と丸井はその場を離れていった。そんな二人と違い、なまえは遠くにいる真田に大きな声で言い放つ。
「じいー!相変わらずやかましい!」
「じ、じいだと?!なまえー!貴様!今日という今日は許さんぞ!」
「事実でしょーが!」
お互いに遠くから話をしているため、どちらも大声だ。大声で真田に何かを言っているなまえに対し、柳が静かにと言いながらなまえの頭を持っているノートで軽く叩いてきた。
相変わらず優しさの欠片もない立海テニス部員に、なまえは再びため息を溢す。
そう。なまえは友人に一緒になってほしいと泣きつかれ、成り行きで立海テニス部のマネージャーになった者だった。しかし、共に入った友人は、早々にそのキツさに音を上げ去っていった。一方の彼女は、いい意味で鈍かった。普通の人がキツいと思うものも、それなりにやりこなせる鈍感さがあった。どこか他人とずれているのもあり、超人集団の立海テニス部にも上手く馴染めていたのだ。そんなこんなで、なまえもじゃあ辞めるかとテニス部に告げたとき、なぜか辞めさせてもらえなかったのだ。
なんでこんな長くマネージャーをしているんだとなまえは思い返す。私はマネージャーだぞ!女だぞ!テニス部の華だぞ!もっと優しくしなさい!たるんどる!と内心テニス部にツッコミを入れる。
だが、決してそのことは口には出さない。口に出せたらどんなに楽かと、遠くを見つめながら考える。
「まあ、もしそんな事言ったら、魔王様が降臨して……」
「ふふ。誰が華だい?あ、君は華でも毒の華とかかな?ふふふ」
「そうそう、こんな感じ。けど、毒の華って四天宝寺の白石君でしょ……って、出たああっ!」
「うるさいぞなまえ!!」
たるんどると再び真田が遠くから叫んでる。そんな真田の声など全く耳に入らないなまえは南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と一心不乱に唱えている。
「なまえ。誰が魔王なのかな?え?」
幸村の後ろには黒いものが渦まいてる。これはヤバいとなまえの第六感が叫んでいる。
「逃げるが勝ちだわ!」
野生の勘が逃げろと叫び、なまえは走り去ろうと試みる。が、何かに思いっきり掴まれ、逃げることはかなわなかった。もちろん掴んでいるのは、背後にいる彼。
「ぎゃああ!は、離せえええ!」
「全く色気の欠片もない悲鳴だね」
振り向けば、さわやかな笑顔でなまえの頭を掴む幸村の顔があった。その力の強さに、頭が凹むんですけどと心で叫ぶなまえ。
「これは、少しお仕置きしなくちゃね」
「いやあああ!ちょ、赤也!そんな、コートから哀れみの目で見ないで!助け……ってお前、ラリー始めんな!!薄情者おお!」
「ふふふ」
なまえの断末魔が響く。
「またか、なまえ」
「哀れナリ」
「全く凝りませんね幸村君もなまえさんも」
これが、立海マネージャーであるなまえの日常。誰か助けてくれ!となまえの悲痛な叫びが今日も木霊していた。
そんな日々を重ねながらも、マネージャー業はこなしていくなまえであったが、とある休日の朝のこと。
「ん?あれ?何か、体だるい」
朝起きてから何となく体が重かった。熱を測ったが、平熱だった。まあ大丈夫だろうと、部活に向かう。
休日も部活があるテニス部。今日はなるべく早く帰った方がよさそうだとなまえは思いながら、いつも通り準備を進める。
「なまえさん、おはようございます」
「……ん?ああ、柳生。おはよう」
「?どうかしましたか?」
「いや、大丈夫」
どこかぼんやりしているなまえに柳生が少しばかり心配の眼差しを向ける。
「みんなー、ドリンクー」
「なまえ!もっと、ハキハキせんか!!」
「あー、はいはい」
じいに返事するのもだるいとなまえは思う。いつもなら何かしら口答えをするなまえがしてこないのに、真田も不審な目を向ける。
それからも仕事をするもだるいの極みだとなまえは思いながらしていた。寒気もしてきて、パワーアンクルが全身についている感じだ。もう倒れちゃおっかな。誰か支えてくれるだろうか。そんなことされたらちょっと照れるな。そんなそばから、本当に倒れそうだ。そうなまえが思った刹那。
なまえは躓いて倒れた。
どさり、といった鈍い音が響く。なまえの視界には地面がある。あ、やっぱり誰も支えてくれないんだ。薄情だな、おい。と口に出したいが言葉を紡ぐのもなまえはだるかった。
「ん?なまえ、何こんなトコで寝てんだよい」
寝てないですと、丸井に返事をしようにも、なまえは朦朧とする意識下では厳しかった。
「おーい、なまえー?」
頭をつんつんする丸井。まるで道端に転がってる、犬のあれをいじる小学生かとツッコミをし、元気になったら覚えとけと心で毒づく。
そんなことを思っているなまえの意識は少しずつ遠のいていった。目覚めても此処だったら萎えるなと思ったのを最後に、眠りの世界へと落ちていった。
「なまえ?って、お前、体あっつ!おいなまえっ!」
「丸井、そんな騒いでどうし……なまえ?!」
「幸村君、なまえなんか体あついんだけど!」
「分かった。俺が保健室に運ぶよ。丸井は練習に戻って」
「お、おう」
そう言い、幸村は素早くなまえを抱え保健室へと連れていった。
「なまえ先輩、どうしたんスか?」
「めっちゃ、体あつかったぜ」
「まじかよ?あいつでも風邪とかひくのか」
「朝から少し様子が変でした」
「たしかにな。無理をさせたか……」
「大丈夫ッスかね」
「幸村が居るから大丈夫じゃろ」
「そうだな」
いつもは扱いが雑だが、なんやかんやで本当はなまえの事は大切に思っている立海であった。
「ん。あれ?」
なまえは目が覚めたら、白い天井があった。どうやら保健室にいるようだ。目が覚めても倒れたところでなくよかったと、安心したように息を吐いた。
「全く、自分の身体は大切にしなよ」
「ん?あ、幸村」
安心していた自分の横で、突然投げかけられた言葉。その声の方になまえが顔を向けると、腕を組んで椅子に座っている幸村がいた。
「大丈夫かい?」
「まだ、だるいかな。あと、寒い様な暑い様な……」
「無理も無いよ。38℃くらい熱があるんだから」
そんなにと驚くなまえ。それから、再びやって来た急な悪寒に体を震わせる。
「安静に。熱が上がったのかな?」
そう言いながら幸村はなまえの額に手を置く。
「幸村の手、冷たくて気持ちいい」
「俺、先生を呼んでくるよ。目が覚めたって言わなくちゃ。熱も上がったみたいだし」
どうやら家の人に連絡を入れる関係で、先生は一旦席を外しているらしい。幸村は立ち上がり、行こうとした。
「待って」
その言葉と共に、なまえは幸村の服の裾を掴んでいた。
「幸村、もうちょっとそばに居てほしい」
幸村は目を見開いた。普段のなまえなら、こんな事絶対に言わないのに。熱で頭が逝ったのかな、と戸惑いの中で失礼なことを思う幸村。
「分かった。もう少し居るよ」
「ありがとう。ねえ、もう少しワガママ言って良い?」
「良いよ。なんだい?」
「手、置いといて。額に。幸村の手、冷たくて気持ちいい」
そう言うなまえの顔は赤く、瞳は軽く潤んでいた。熱によるものであると分かっていも、幸村はどこか落ち着かなかった。幸村は黙って、手を置いた。
「ありがとう」
そう言い、なまえは目を瞑った。
静寂が訪れた。手から伝わる熱に、なまえの熱が相当高そうなことが分かる。
「ねえ、幸村。そう言えば、私をここに連れてきてくれたのって、幸村?」
「寝てなかったんだね。ああ、俺だよ」
「そっか。何か、今日はお礼言いまくりだね。でも本当に、ありがとう」
再びお礼を告げたなまえは瞳を閉じたままだ。
それから、再び静寂が訪れた。今度は規則正しい寝息が聞こえる。なまえは眠ったようだ。
幸村は、眠っているなまえの髪を撫でるように触った。
「すまないね、なまえ。もっと早く、君が体調悪い事に気が付くべきだった。あんなにお礼を言われる様な筋合いは無いのに」
眠るなまえを幸村は真っ直ぐに見つめる。
「いつもありがとう」
返事は無いが、なまえに笑いかけながら幸村は告げる。
「ねえ、なまえ。風邪の治し方、知ってる?」
風邪はね、人にうつせば治るんだよ。
そう言い幸村は、静かになまえの艶やかな唇に、自分の唇を重ねた。
保健室に一陣の風が吹き込み、カーテンを大きく揺らした。
次の日。
「おっはよー!」
「なまえ!もう大丈夫なのか?」
「うん!あれ?幸村は?」
「風邪らしいぜ」
「魔王も風邪ひくんだ……!」
「お前、うつしたんじゃねえの?」
「は?何で??」
「なっ!だって、昨日、保健室で……」
「?」
「ヤッパリ何でもねえよ!」
「はあ?!」
皆で覗き見していたなんて言えるかと、ジャッカルは内心ツッコミを入れた。
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