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養護教諭主と理科教諭の白石
放課後の部活も終了し、生徒たちは下校した。先ほどまで騒がしかった校庭や校舎は今は静寂に包まれている。
春と夏の間の穏やかな陽気に包まれ、明るい空に、日に日に太陽が沈む時刻が遅くなっているのを実感する。
今日は職員会議もないし、後は事務処理をして鍵を閉めて帰るだけ。そう思いながら、今日の来室の記録を整理しつつ明日の健康診断のスケジュールを再確認する。
コンコン。と遠慮がちに扉が叩かれる。
「どうぞー」
そう答えると、笑顔と共に入って来たのは同期の彼だ。今年度から共にこの学校に赴任した彼。その爽やかな風貌と人当たりの良さから職員からも生徒からも人気だ。
「いらっしゃい白石くん。どうしたの?」
「部活ん時に、ちょっと手痛めてしもた」
「ふふ。まあ髪の毛焦がすよりはましかな」
「あれは黒歴史やな」
「どこ痛めたの?見せて」
幸いに腫れはなさそうだ。見ながら彼に理由を問うと、テニスボールの籠を抱えて無理して運んでいる生徒が案の定転びそうになって助けたときに痛めたらしい。相変わらず人たらしなことをしているようだ。
笑いながら話す白石くん。普段生徒の前では標準語なのに、こうやって二人の時は関西弁だ。関西弁は彼によく似合っている。
同期であっても教諭と養護教諭。それなりに生徒の情報共有などの話はするが、初任者研修も別であるためなかな仲良くなることはなかった。仲良くしたかったが、その風貌や人気から委縮してしまっていた。
そんなアイドルのような存在であった白石くんと話をしたのは、ついこの前。
なんでも化学の時間に燃焼実験をしていて、分量を間違えた生徒がいたのか、失敗した生徒からそれを庇って前髪を焦がしたらしかった。一応ということで、副さんに連れられ保健室に来た。煙は吸わなかったようで、大事はなかった。その後、校長や副さんにちょっとばかり注意をされていた彼が、放課後に私に改めてお礼を言いに保健室に来た。その時に、お互いこの学校で今年度の初任同期ということで、今まで話をしたいと思っていたと言われ、私も嬉しかった。
話をしていく内に、お互いに打ち解けて来て、ふと関西弁が彼の口から出た。彼の慌てて言いなおしていた姿が少し面白くて、笑ってしまった。関西に住んでいたことが分かり、無理して標準語にしなくてもいいと話した。それからというもの、生徒や職員の間では標準語だが、私と話すときは関西弁だ。なんだか気を許してくれている気がして、ちょっとばかり特別視してくれているのかななんて勘違いしてしまいそうだ。
「相変わらず片付いとるな、ここ。流石みょうじさんや」
「ありがとう。赴任した時は物に溢れてて驚いたけど、普通の保健室はこんなもんでしょう?」
「俺の中学はえらくごちゃごちゃしとったわ。なおしによく行っとったもんや」
「え。生徒の白石くんが?」
懐かしいなと目を細めて語る白石くん。彼の中学生時代はどんなんだったんだろう。テニスがとても上手で、今はテニス部の顧問をしている。きっと中学でもテニス部で活躍していたんだろうな。
「せや。今日この後、どや?」
そう悪戯っぽく、コップを持つ動作と共に言う白石くん。語りたいことがたくさんあると笑っている。初任の私たちにとって、この年度の始まりは色々と悩みが多い。私は二つ返事で了承した。
「ほな、15分後に!」
お疲れ様と言い爽やかな笑顔で出ていく白石くん。急いで日誌を提出して、着替えなくては。
白石くんのその笑顔と言葉だけでも、疲れが吹き飛ぶ。自分の話のネタを考えながらこれからの予定に心が弾んだ。
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