テニスの王子様
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文字は人を表すとはよく言ったものだ。
まっすぐとそして上品な文字。全体のバランスの取りかた。彼の人となりが分かる葉書だ。見惚れるように思わずため息がこぼれる。みょうじなまえ様と彼の手で綴られた文字を指でなぞる。
こんな無機物のペンで描かれた線一つひとつに温かさを感じて、愛しく思ってしまうあたり、自分の思っていた以上に私は彼に惚れ込んでいるようだ。
まあそこに書かれてる内容は、適度に運動をしているか、ご飯はしっかり食べているか、ちゃんと休んでいるか。といったもので、読み終えた最初の一言は思わず「アンタは私のお母さんか!」だった。
「恋人らしく、もっと寂しいとか会いたいとか書いてくれてもいいのに」
まあそんな性格でもないか、なんてちょっとした愚痴をこぼしながらも、欠かさず葉書を送ってくれる彼の優しさに十分心は満たされる。
さて、と思い机にしまってある絵葉書のコレクションを取り出す。今回はどれにしようかな。
こうして並べてみると、山の絵葉書が多い。山好きの彼が少しでも喜んでもらえたらと、どこか旅行などに行くたびに山の絵葉書を購入し、気が付けばそれなりの数になっていた。
私の絵葉書が減るたびに、ドイツからの素敵な絵葉書が増えていく。
彼もまた、私の好みに合わせて葉書を選んでいそうだった。彼からかわいらしいキャラクターの絵葉書が届いたときは、普段とのギャップに思わず笑ってしまった。それと同時に、このキャラクターが好きだと何気なく会話で言っていたことを覚えていてくれたのかと思い嬉しくなった。
ふと、うな茶のかわいらしいイラストが描かれた絵葉書が目に留まる。見た瞬間、彼を思い浮かべ即購入したやつだ。今回はこれでいいかもしれない。
絵葉書も決まり、よしと思い書く内容を考える。
困った。
いつもそうだ。
大好きなあなたにしばらく会えていないから寂しいです、なんて書いたら重い奴に思われるかな。テニス一直線の彼には伝えるべきではないかな。そんなことを思い、いつも下書きには書いても、葉書に記したことはない。
ドイツはどうですか。テニスはどうですか。今の日本の気候は、学校は……なんて当たり障りのない内容になってしまう。そして絵葉書の空スペースに書ける量も限度があるため、体調を気遣い、元気ですごすようにといって締めくる。
ポストに持っていく道すがら、自分の葉書を改めて見返す。
結局は自分も彼と同じような内容になっていて、思わず自分でも笑ってしまった。
きっと、むこうも同じ感じでああいう内容になっちゃうんだろうな。
遠くにいる恋人に、少しでもこの愛しさが届けと思いながら、両手でしっかりと葉書の端を掴む。
えいっ。
このポストに入れるのは何度目だろうか。ポストの方が、彼より私の顔を見ているんじゃないかなんて思えてきた。
もし次に日本に帰ってきたら、彼に両手で葉書をおしつけよう。その葉書には、私のありったけの思いを綴ろう。葉書じゃなくて、いっそ巻物でも押し付けてやろうか。
拝啓手塚国光様。それくらい、葉書なんかじゃ書ききれないくらい、大好きです。
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