無法地帯
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「もーー!柴さん!あんまからかわんといてください」
空を裂くような声が響く。
耳まで真っ赤にして怒っている声の主の前には、からからと笑う人物がいた。
「真城ー、みことのどこがええの?」
にやにやと悪戯気に笑う柴が、真っ赤になっている真城をからかい倒している。
柴は、全身から楽しいという雰囲気が滲み出ている。
「全部ですけど文句ありますか?!」
やけくそとばかりに真城が声を上げた。
みことの好きなところ、出会ってから少しずつ距離を縮め、気が付けば惹かれていた。
目の前の全力でニヤケ面をしている彼に、真面目に答えるのも面倒だとばかりに、真城はそっぽを向いた。
「あーあ、惚気ちゃって」
したり顔をしながら、大げさに肩をすくめる柴。だが、すぐに堪えられないとばかりに肩を震わせ笑い声が口から零れ落ちていた。
相変わらずな柴の態度に、真城は、いっそ拍手を送りたくなるくらい呆れて感心した。
そしてひとしきり笑い、ふっと息を吐いた。柴がピタリと止まった。
どうしたのかと真城が視線を向けると、真剣な眼差しとぶつかる。さっきとは打って変わって、真面目な雰囲気を纏っていた。
真城は、柴のその様子に、思わず背筋が伸びた。
「……まぁ、あいつをよろしゅうな」
真城の肩をぽんと叩く。その声音と手つきは、どこまでも優しかった。
――そういえば、そもそもみことと真城の二人を引き合わせたのは、柴だった。
付き合うことになったと、真っ赤になりながら報告をしたあの日のことを真城は思い出した。
のんびりとした、穏やかなとある昼のこと。
「あの、俺ら、付き合うことになりまして……」
一瞬フリーズした柴が、慎ましやかに繋がった手と、顔が赤い二人を見比べた。
それから、堰を切ったように腹を抱え爆笑した。
「ホンマかあ?! 真城とみことが?!」
ぶはははと弾けんばかりに笑う柴。
それはもう大爆笑だった。真城が今まで見たことがないくらい、柴は楽しそうな笑顔を浮かべていた。
正直言って不気味だったと、後にみことも語っていたくらいだ。
「わ、笑わんといてください!俺らは真剣なんです!」
顔を真っ赤にして怒る真城。その横では、かつて真城が初めて会った時と同じチベットスナギツネのような顔を浮かべたみことがいた。何でもないような涼しい表情をしているが、耳は真城と同じように真っ赤だ。
それを見た柴は、一瞬だけ、本当に嬉しそうに目を細めてみことを見た。――その瞳は、選んだ相手が真城で良かったと物語っている。
「柴、うるさい。それ以上騒ぐなら埋めるよ」
そんなみことの言葉など聞こえないとばかりに、笑い続けていた柴。そんな彼に、いいかげんにせい!と左右から同時にはたかれる音が響いたものだった。
「ひっどいわぁ!叩かれたことなんてないのに」
「はいはい」「嘘やん」
乾いた音が響く傍らで、その三人を包む雰囲気は、とても温かく心地よいものだった。
――あれからずっと、柴は勝手に色々と妄想してはムフフと怪しく笑い、二人から不審がられ続けている。
さっきの真面目な顔もどこまで本気なんだか、と真城は小さくため息をつく。
それでも、肩に置かれたその手の温かさは確かなものだった。
「分かっとりまっすよ」
ふと、みことの笑顔が脳裏をよぎった。
真城は小さく、けれど確かな声で頷いた。
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