禍祓いの影札
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みことは、離れたところから二人の名前を呼びかけ、守るように若い二人を綾紐で囲った。微かだが、二人からの返事が耳に届いた。玄力を最大にこめ、敵の刃を防ぐ。
致命傷は避けたが、彼らが意識を失うのは時間の問題だ。
敵が、彼らはもういいと判断したのか、再び巳坂やみことに矛先を向けてきた。
先ほど刺された傷も相まって、これ以上二人がこの場にい続けると命取りになる。
敵の攻撃を防ぎながらみことが考えを巡らせる中、迷いを払うような鋭く真っ直ぐな声が、耳に届いた。
「梶!二人を任せた」
承知とばかりに、みことは二人の元に向かう。
走りながら懐から紙を取り出し、指先を噛んだ。ぷつりと滲んだ血で紙に字を書いていく。
みことは、気絶している二人の傍に己を滑り込ませた。怪我の状態を瞬時に判断する。
二人を抱え、彼らの背中に先ほど書いた札を貼る。治癒はできないが、傷口の悪化を抑えることはできる。みことはそのまま隅に移動して二人を降ろし、素早く周囲に陣を書いた。
二人を包むように結界が張られる。――これで、とりあえず彼らの命は問題ない。
さて、とみことは間髪入れず背後に視線を鋭く向けた。
激しい斬り合いをしている。巳坂の腕は確かだ。けれど多勢に無勢。それに、こちらを気にしている様子も見られる。妖術で味方を巻き込まないように、ほとんど剣術だけで闘っている。みことは離脱も考えたが、厳しいのは明白だった。
どうするか。そう自身に問うたと同時に、みことは駆け出していた。
みことは、巳坂の背後から斬りかかろうとしていた人形を蹴り倒した。その横にいた人形が、刀で切りかかって来る。素早く懐刀を取り出し、ガキンッと敵の刀を受け止めた。自然と巳坂と背中合わせになる。
「梶?!お前……!」
「二人は安全なところにいます。ご安心を」
敵を押し返し、玄力を込めた拳で殴る。その迷いのない敵捌きに、戦えるなんて聞いてねえぞ!と内心戸惑いながら巳坂も刀に力をこめた。だが好都合と、二人で目配せをしながら敵を戦闘不能にしていく。
敵の数が多い。今は人形とはいえ、人の形を模しているばかりか、元は人だったのだ。気分も最悪だとばかりに、みことは舌打ちをした。
「巳坂さん!」
「っ何だ?!」
「10秒守ってください!」
告げると同時に、みことは巳坂の背後に回り、目を瞑った。何か己の内で玄力を練っている様子だ。巳坂はみことの突然の行動に、何事かと思ったが何か策があるのだろうと察した。息を吐き、神経を研ぎ澄ます。巳坂は完全に無防備になったみことに斬りかかってくる刀を弾くと同時に、己を狙う者もいなした。
激しく刀がぶつかり合う音を耳で捉えながら、みことは視界を閉ざした。自身の玄力を薄く纏い、周囲に拡張した。手に取るように玄力の流れが感じ取れる。
僅かばかりに乱れる玄力の場所。人形たちから感じる玄力の糸の先を辿る。繊細な作業を、みことは全神経を集中させて行う。
「……見つけた」
妖術師の位置を特定した。みことは目を開けるやいなや、駆けだした。一気に距離を詰め、相手の結界術を破壊する。妖術師は何故分かったとばかりに目を見開いている。みことは迷いなく懐刀を取り出し、相手の肩に突き刺した。
「貴様!小癪な真似を」
「巳坂さん、妖術を!私ごと打ち込んでくれて構わない!」
みことが、体重をかけて妖術師を押さえ込みながら巳坂に告げる。相手は拘束を振り払おうと激しく暴れた。刀を抜こうとした相手の腕を、みことは、足で抑え込む。懐刀を更に深く突き刺した。
「はあ?!だがそしたらお前、」
「いいから!」
妖術師が一瞬緩んだみことの足を払いのけ、雄叫びと共に刀を抜いた。みことを刺そうとしたが、みことは迷いなくその刀を片手で握った。激しい痛みが襲うが、逃がさないとばかりに刀を掴む腕と懐刀を刺す腕に、力を込める。
「この狂人が……!」
苦悶の表情を浮かべ罵倒の言葉を浴びせてくる妖術師に、誉め言葉だとばかりにみことは笑う。力は拮抗しあっている。みことはこの一瞬の出来事が長く感じた。
この距離なら、結界の展開が間に合う。直撃は免れる。刺すような痛みが逆にみことを冷静にさせ、この状況を切り抜ける道筋を計算させていた。だが、それを知らない巳坂の瞳には、悲壮な決意が宿る。
「巳坂さん!問題ない!早く!」
「チッ知らねーぞ!!」
みことの問題ないの一言を信じ「雷躯」という声と共に巳坂は雷を纏い、切り掛かった。周囲にいた敵が薙ぎ倒されていく。雷撃があたりに弾け飛んだ。
みことは瞬時に、変装術を解いた。術の同時展開を捨て、玄力を防御へと回し、新たな結界術を纏った。抑えていた妖術師を、思い切り壁際へと蹴り飛ばす。
巳坂が放った雷撃と共に、妖術師が壁に飛んだ。
