禍祓いの影札
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隊長が扉を蹴り破る。
捉えられていた人々が、隊長たちのもとに感謝を述べながら近づく。ここで何が行われていたのか、ここに来るまでの尋問や人々の表情や鼻につく鉄錆のにおいから、想像に難くなかった。
「皆さん、安心するのは早いです。今から我々が外に連れ出します。離れないように」
隊長がざっと全体を見渡し、自力で立てなさそうな人に肩を貸した。そして、若手二人に声をかけた。
「衰弱が酷い者もいる。一刻を争う。俺の術で全員の気配を隠し、敵の目を盗んで神奈備に引き渡す。だが、この人数だ。引き渡すまで、俺は自由に動けない」
若手二人に隊長が厳しい視線を向ける。
「お前たちは、取り残されている生存者がいないか確認の後に、巳坂と合流して捕縛対象を見つけろ。梶の力があれば、そう易々とは遅れはとらんはずだ。いいな」
はいと返事をし、迷いなく二人は行動を始めた。
隊長が二人の背中を見送り、囚われていた人々に向き直る。陣を描き、印を結ぶ。隊長と囚われていた人々を、濃密な遮断の気が包み込み、陽炎のごとくその姿を周囲の景色へと溶け込ませていった。
その強烈な空間の歪みと玄力の動きを、みことは結界の維持を通じて正確に感じ取っていた。少し離れた場所で人形を切り伏せていた巳坂も、牢の方向から気配が一気に消え失せたことで、隊長たちの離脱を察する。
――ここからは更に時間との勝負だ。
取り残された人がいないか、二人は、刀に手をかけながら別れて駆ける。すぐそこでは巳坂が斬りあいをしているのか、激しい音が響いていた。一刻も早く合流しなくては、と若手は固唾をのんだ。
一人、真っ青な顔をして目をつむり倒れている人物がいた。
「大丈夫ですか?!」
微かにうめき声が聞こえる。生存者がまだいたと、もう一人に告げ、駆け寄る。
その人物の肩に手を掛けた。その瞬間、わずかに違和感が走る。軽すぎる。骨と皮だけになっているのか、それとも――別の理由か。
「息は……ある、よな」
そう口にしたものの、その声色には安堵よりも警戒が混じっていた。目を閉じたままの人物は、まるで呼吸を最小限に抑えているかのように、静かだった。周囲の鉄錆の匂いに紛れて、かすかな薬品のような匂いが鼻をかすめる。
「いたか。この人だけだな。無事とはいいがたそうだが、行こう」
やって来たもう一人と目配せをして、身体を抱え上げる。
生憎、ここから瞬時に飛べる術を自分たちは持たない。あの梶なら、と考え、扉の外に出る。
扉の先にいた想像以上の人形の数に、一瞬背中に冷や水を浴びたような感覚が落ちた。
「梶さん!」
呼びかけると、遠方にいたみことと視線があった。
生存者まだ一名いたことを告げると、みことは、承知とばかりに頷いた。
次の瞬間、抱えていた人物の指先が、若手の制服の袖を軽く掴んだ。力はない。だが明確な意志だけがそこにあった。
「どうしました?」
「ダ、メ……だ」
ふと背後に気配を感じた。
「もう遅い。彼は既に人形です」
