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――会わせたい奴がおんねん。
そう言われ、ついてきた。だが、たどり着いた場所はとある貸し部屋の一角。誰もいない。
静かなこの場所で、連れて来た張本人は、勝手知ったるとばかりにソファでくつろぎ始めた。暢気に欠伸をしている。
訳の分からないまま、身の置き所を探していると、突然扉が開いた。
視線が自然とそちらに向かう。
扉から現れたのは一人の女性だった。
「……何の用だ、柴登吾」
それと――と訝しげに警戒をこめた視線をこちらに向けてきた。己や柴と年が近そうではあるが、その雰囲気は浮世離れしているような、どこか諦観しているようなで、大人びて見えた。
固唾をのんで見守っていると、ソファでくつろいでいた柴がカラカラと笑いながら彼女を指さし、こちらに告げてきた。
「真城、こいつこいつ。多分真城とタメくらいやろ。みことや」
「みことや、って。説明雑すぎません?それに、めっちゃ警戒されてますやん」
「きっと緊張してんねん。照れ屋やから」
この前ぶりやなーと手を挙げて挨拶している柴に、みことはまさにチベットスナギツネのような表情を浮かべていた。そして、軽蔑するように毎度毎度とため息を溢した。
「妖術局は、人の留守に入り込むのが礼儀なの?」
みことは、皮肉を籠めて言っていそうだったが、柴は感じない様子であっけらかんと告げた。
「不用心やったから、俺らが留守番をしとったんや。感謝し」
「そう。それはどうも、ありがとう」
そう言うや否やみことは、柴に殴りかかった。柴は口角を上げて受けて立つとばかりに、みことを掴み、「広いとこ行こか」と告げて、どこかに消えた。
「は?え??柴さん??」
何だったんだ?
ポツンと残された己は、困惑するしかなかった。
下手に動くのもと思い、大人しく待っていた。
時計の針を眺め、微かに耳に届く針の音を聴きながらぼんやりと待つ。
柴と組むことになり少し経った。何かと自由気ままで悪ガキを絵にかいたような柴との日々は、忙しなくて退屈しない。人と共に過ごすこと、人としての温もりを教えて貰っている気がする。まあ余計なことも沢山教えて貰っている気もするが、それはそれでいい。
そんな柴が、珍しく純粋に楽しそうな様子だった。みことといった彼女とは、いったいどういう関係なのだろうか。柴は、ただの気まぐれなようで、実は情に厚いのは、短いこの期間でも何となく分かって来た。自分に会わせたいと言っていたが、何かそこに意図があるのだろうか。
真城がそう考えていると、静寂を切り裂く様な豪快な音と共に、天井に柴とみことが現れた。
「ちょっ、危なっ!」
ソファのところに二人して落ちてきた。真城は、さっと避けたが、みことが咄嗟に柴を下にして、クッションにしたのを見逃さなかった。
埃を払いながら、みことが立ち上がり、真城に向き合った。しっかりと柴を踏んで立ち上がっていた。本当にこの二人いったいどんな関係なんだと、真城は内心ツッコミをいれた。
「で、貴方は誰?」
「俺?俺は、真城です。一応、柴さんの相棒?」
「一応、やないやろ。相棒や!相・棒!」
重いわ!とみことに言いながら、柴が起き上がり、サラリと告げる。当然とばかりに相棒と告げてきたことに真城はどこかこそばゆさを感じた。
「柴の?――苦労していそうだ」
どこか同情するような、労うような視線を貰う。
「まあ楽しくやっとりますよ」
「せやせや!」
みことは、柴と己のやりとりを見て、一拍置くようにしてそうかと微かに笑った。こんな優しい雰囲気で笑うのかと、真城はどこか驚きを抱いた。
「――で、柴さん。何で俺とみことさんを会わせたかったんです?」
この発言に、今回の来訪の目的を今知ったのか、みことも疑問を浮かべている。柴に視線が集まるが、柴は、何てことないような雰囲気で言葉を告げた。
「そりゃ、みことは俺らくらいしか友達おらんから」
「表出ようか」
「表出ても何もないやろ?」
「貴様のお墓を、今から、作るんだよ」
「ま、まあまあ。みことさん、落ち着いて」
終始口許がゆるんで笑顔な柴と、こめかみに青筋を浮かべているみこと。対照的な表情をしている二人のやりとりに、真城は何だかお笑いを見ているような気分になった。喧嘩はしているが、やりとりはどこか二人とも互いに気を許している様子が感じ取れる。
「まあ真城もみことも、年も近いやろ。ほぼタメなんやないか?妖術師同士、仲良ーしたってな。お互いに」
境遇も共感できるとこ、あるはずやで。と言って柴は互いの手を掴んで強引に握手をさせた。
「これで、友情成立!」
雑すぎひん?と内心ツッコミを入れていたら、向かいからポツリと「雑だなぁ」という言葉が己の耳に届いた。同じことを考えていたことに、真城は思わず破顔した。
「真城とか好きに呼んでくださいよ。よろしゅうな、みことさん」
「私も、みことでいい。よろしく真城」
隣で柴が騒がしく何か言っているが、みことは気にせず真城に挨拶をする。
「……あ。せや、真城。言い忘れてたわ」
満足げに頷いていた柴が、思い出したように指を立てた。
「みことは玄力操作の変態やねん。色々聞いたり、参考にし」
「柴。褒めてないよね、それ」
「ちなみに、真城の妖術もなかなかやで。みこともきっと興味持つと思うんやけど」
ほうとばかりに関心の眼差しをみことが真城に向けた。
「まっ、俺の方が強いんやけどな!ごめんけど!」
「……苦労しそうですね、お互い」
自由奔放な柴に、真城が苦笑いしながら告げる。みことも深く、深く同意するように頷いた。
騒がしい日常に、また一つ、面倒で愛おしい縁が増えた音がした。
****
空気を切るような、音がした気がした。
手を伸ばしていた湯呑に、一筋のひびが入っている。
「――みこと?どうかした?」
そのヒビを隠す様に、ひったくるように湯呑を手に持った。
「千晃。ごめん、何でもないよ。千晃こそ、どうしたの。待っていてよかったのに」
「何か、落ち着かなくて」
手伝うよと千晃が隣にやって来る。自分もどこか心がざわめいている。隣に来てくれた千晃の存在に、己も助けられた気がした。
「杁島での会談――」
千晃がそれだけを告げ、言葉をとめる。目を細め、時計を眺めた。針は、12時を少し過ぎたところを示している。
「義之氶さんもヒロトさんもいるし、大丈夫だよ」
「うん」
己に言い聞かすように言葉を落とした。千晃も頷いた。
杁島へ向かった四つの背中を思い返す。妖術局が推薦した最強の部隊である彼ら。ほなまたと、笑顔で手を振り別れた真城の顔が浮かんだ。
――何より、柴がいる。
彼がいれば、いつでも撤退はできる。彼らも帰って来るだろう。そう信じるしかなかった。
風がどこからともなく吹き込んだ。
ふと、真城の声で、名前を呼ばれた気がした。
「――真城?」
窓の外は、不気味なほど静かだった。
