カグラバチ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「䕃の旦那。おや今日は珍しい子を連れているなぁ。まさか旦那の子供かい?」
「違いますよ。親戚の子供を一時的に預かっているだけです」
「さっすが䕃さんの親戚の子。将来有望な顔をしているわぁ」
「奥様、褒めても何もでませんよ。あ、これ買いますね」
「買ってくれるんですねぇ旦那」
「その子の分もおまけしておきますね」
「ありがとうございます」
にこやかに会話をしている。こうしてやり取りを見ていると結界術で分からなくなっているだけで、この人が実は女性だなんて露にも思わないだろう。
実際自分でも全く違和感がないし、言われても本当にその人物がいる様にしか見えない。
はじめて見た時は驚愕した。
父さんにみことと出かけてこいと言われ、出かける準備をして玄関に出たら爽やかな好青年が立っていた。誰?と思っていて警戒したら、父さんが後ろで爆笑していたのは記憶に新しい。「相変わらずイケメンに変身するんだなぁみこと」と好青年の肩をバシバシ叩く父さんの発言に開いた口が塞がらなかった。
みことさんは結界術の応用だと言っていた。相手の認識をズラすらしい。
挨拶を交わし品物を受け取り、店を出る。おまけで貰ったんだと、お菓子を俺に差し出してくれるみことさん。お礼を言い受け取る。
先ほどの会話を反芻し、親戚の子、と言われたことが何となく嬉しかった。実際に血縁はないが、家族のように感じているのは自分だけじゃないのかもしれないと自惚れてもいいだろうか。
ふと、先ほどのお店の夫婦の発言に引っかかりを覚えた。
そうだ、みことさんのことを「䕃さん」と呼んでいた。
「ん?チヒロ君どうしたの?」
「いえ。さっきの人たち、䕃さんって呼んでいたなと思って。みことさんって鎺みことじゃあ」
「あー……。そっか、チヒロ君は知らなかったか」
後頭部に手を当てながら、うっかりしていたという様な表情を浮かべるみことさん。
「この格好をしているときはね、鎺じゃなくて䕃で名乗っているの。まあ身を隠す用だし、一応同姓同名はやめておくかってことでね」
柴からのアドバイスでもあったんだと昔を懐かしむように告げられる。隠密行動の際に何かと同姓同名ではやりにくいのだろう。
この姿のときは䕃みことと名乗っているらしい。
「六ひ……チヒロ君のお父さんとか、柴とか薊が私のことをみことって呼ぶのもそれが理由なのかもしれないね。まあ何も考えていない気もするけれど」
たしかに苗字で呼び合っている印象が多い彼らがみことさんは下の名前で呼んでいた。それもあってか、自身もみことさんのことは自然とみことさんと呼んでいたことを思い出した。
「䕃の姓は何か縁があったんですか?」
もしや結婚とかしていたのだろうかと、何となく気になって言葉を溢してしまった。
これは失礼だったかもしれないと内心焦る。案の定、みことさんは驚いたように目を見開いている。
しまったと思い、謝ろうとした。
「え?その会話を柴としている時に、丁度目に入ってそれでいいかって思っただけだよ」
鼻歌でも唄うようにあっけらかんと告げるみことさん。今思えばもっとかっこいい苗字にすればよかったな。今からでも変えるか極道寺とかとブツブツ言っている。
そうだった、この人はそういう人だった。
杞憂であったことにホッと息をつき、手に持っていたお菓子を口に頬った。
「いつかね。この術が私以外に使えるようにしないとね」
家路につきながら、ポツリと告げるみことさん。
どういうことかと視線を向けると、みことさんはこちらに微笑みながら言葉を溢した。
何でもこの変装術は自分にはある程度の精度はあるが、他人に施すとなるとまだまだ課題が多いらしい。
かつて試作として一度父さんにかけて、美少女にしてみたが声がそのままで柴さんと薊さんと爆笑の嵐になったとか。確かに想像しただけで吐きそうだ。
「この術が人にも出来たら、もっと自由に動けると思うから」
現状、砥ぎ師のところに行くにもかなりの警戒をしている。言葉には出さないが、父さんもきっと不自由しているだろう。
空を見上げながら告げるみことさんは困ったように笑っていた。
「まあ私自身にかけるときも匂いとか玄力は誤魔化せないから、そこらへんが鋭い人とかにはばれちゃうのもまだまだ課題」
頑張らないとなーと身体を伸ばし、家の結界に触れるみことさん。
本来の姿になったみことさんに手を差し出され、迷う間もなくそれを握る。
そっと握り返してくれるその手はとても温かく安心できた。
「みことさん。ありがとう、ございます」
