禍祓いの影札
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五つの風が吹いた。
みことを先鋒に、隊長と若手二人、殿に巳坂。夜更けの閑静な森の中、共に駆けていた。
「突入したら、研究施設を目指す。そこにいる目標人物を見つけ次第、捕獲。これが最優先だ」
隊長が、確認をするように告げる。全員が速度を落とさず、耳を傾けた。
尋問の内容を考慮すると、研究施設は最奥にある。とりあえずはそこに向かう形かと、みことは、背後から聞こえる指示を反芻した。表向きは医療機関で、臓器売買や人身売買を行っている家。さらに、あの人形の妖術。囚人もいることが判明した今、みことは今回の任務で、自身のするべきことを改めて考えていた。
木々が僅かに揺れる音が、みことの心をざわめかせた。それを気にしないようにと自身の手を握った。
――そして、と隊長がさらに言葉を続けた。
「研究施設に行くまでに、拘束されている人々がいる。その救助も、同時に行う」
「当然ですね!」
「人数は先ほど尋問で、おおよそは把握しています」
若い二人が任せろとばかりに、告げた。表情を見なくても、その声色からやる気に満ちていることが読み取れた。
みことは、隊長の言葉に些か驚いた。神奈備が囚人の救出に介入するとは思わなったのだ。今回自分が来ているのもあり、そこはみこと自身が勝手にやろうと思っていたところだった。
「神奈備は、いいのですか?」
「救える命は、救う」
思わず振り返り、みことは尋ねた。迷いなく告げられた隊長の言葉に、みことは、無意識に口角が上がった。
刹那、みことは、奥にいる巳坂と視線が交わった。巳坂も鋭い眼光と共に微かに頷いていた。
「本家が駆けつけるまでに終わらせる。いいな」
走っているが、全員が息ひとつ乱していない。巳坂と二人は承知と、隊長に頷いた。先導しているみことは、チラリと隊長に視線を送り、確認をするように隊長に告げた。
「駆けつける
「……ああ」
みことからの視線と質問に、隊長は、一瞬眉を上げた。だが、含むような返事をしてすぐに目を逸らすように、視線を前に向けた。
「ここだと思います」
その一言と共に、みことが立ち止まった。
全員が足を止め、周囲を見回す。あたりは木々が広がっている。一部、何かに一直線に斬られたのか不自然な倒木があるのみだ。巳坂がここか、と納得したような表情をしている。対照的に若い一人が、この下に本当にあるのだろうか、という表情を隠さないまま隊長の方を向いた。視線を向けられた隊長は、眉ひとつ動かさず、静かにはっきりと全員に告げる。
「梶がこれからここの結界を破壊する。おそらく先ほどの敵がいるだろう。作戦は、先ほど告げた通りに」
各々が頷く。みことが一歩前に踏み出した。
みことが離れろとばかりに腕を翳したと同時に、隊は気配を消し、離れた。
みことはしゃがみ、陣を描く。
最初に襲撃を受けた時に、僅かに感じた結界の核となる部分を意識しながら、玄力を込める。
張られていた結界とみことの結界、二つがぶつかり合った。みことの結界に触発され、輪郭を露わにした結界。みことは、玄力の流れから僅かな隙間を見つけ、そこに玄力を流し込んで破壊した。
ガラスが割れて弾けるような高音が静寂を劈き、空間が歪んだ。
先ほどまでなかった入り口が、足元に広がっている。
「行くぞ」
その一言と共に現れた隊長が、扉に手をかける。
結界が破壊されたことは、本家にも報が行くだろう。ここからは時間との勝負でもある。各々が、刀に手をかけ、警戒を持ちながら、突入する。
薄暗い階段を降り、目に飛び込んできた光景は、想像を上回る広さだった。密閉された空間特有の重い空気と、微かな薬品と鉄錆の匂いが鼻腔を突いた。
「地下にこんなでけぇの作ってたのか」
「この静けさが、不気味です」
巳坂が舌打ちをしながら、周囲を見回す。若者が告げたように、あたりは、異様なほどに静まり返っている。
みことは、しゃがみ混んで地面に両手をついた。
「梶?」
「……」
集中力を高め、周囲の玄力の反射を把握する。
「把握しました」
「分かるのか?」
「金打と納刀による反響で、周囲の空間を把握する友人がいましてね。それを参考に、玄力を利用した形です。先ほどまでは結界が邪魔していましたが、今なら大雑把には把握できました」
みことは立ち上がりながら素早く懐から紙をとり出し、把握した地下の地図を大雑把に描いていく。
さらりと告げているみことに、巳坂は、コイツは本当に何者なんだと疑念が湧いた。それに先ほど友人と言ったが、巳坂の知る限り、そんな芸当ができるのは座村だけだ。兄を知っていて、座村の友人かもしれない結界術の達人。おまけにこの繊細な玄力操作。一瞬記憶の隅に何かがよぎった気がしたが、隊長の一言で今は任務だと切り替えた。
「御託はいい。梶」
みことは頷いた。
広い空間が一つ、その橫に幾つかの箱のような空間が連なった場所、そして広い空間を抜けた先にある場所をみことは塗りつぶしていた。その場所を巳坂が指差す。
「これは?」
「ここは結界がありましたので、正確な大きさはわかりません。けれど、きっとここに目標人物がいるはずです」
「この連なった部分は、牢にも見えますね。ここに捕まっている人がいる可能性は」
「十二分にあり得る」
「実際、ここには何か動きのある気配がいくつかありました。人々がいるとしたらここです」
「……一分で中層を抜けるぞ」
隊長の短い号令が響く。みことが地図を懐にねじ込むのと、若い二人が抜き身の刀を構えて左右の警戒に走るのは、ほぼ同時だった。誰も確認の言葉を返さない。
その余裕すら惜しむように、五つの足音が地下の静寂を切り裂いていた。
