禍祓いの影札
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「──なるほど、ここまでとは」
みことは小さく息を吐いた。情報は思ったより生々しく、みことの隣にいた巳坂も、思わず息を飲んだ。
あの後、元の場所に戻ったみことと巳坂は、空が薄暗くなってきた頃に戻って来た隊長から、尋問の結果を聞いた。
隊長は一番情報を持っていた一人だけを連れていた。あの時、みことが手練れだと判断していた人物だった。残りの二人は、若い二人が見張っているらしい。
みことがあの場で見たこと、感じたことのすり合わせを行った。やはり、あそこの地下に、今回の捕縛対象がいると考えて良さそうだった。そして、人身売買や臓器売買のルート、患者の名目として囚われている人のことも概ね判明した。
ここまでよく情報を聞き出したものだと、みことは、ちらりと隊長と拘束されている一人を見た。その人物は様子から、神奈備はなかなかな尋問をしたようだった。経験の浅い若い二人が動揺していなければいいが、とみことはひそかに思った。――まだ、確認したいことがある。
「本当に、それだけですか?」
みことはしゃがみ、拘束されている人物の顔を覗き込みながら告げた。その人物はぐったりしている。
「どうした?」
みことの問いに、隊長がまだ何かあるのかと声をかける。みことは体勢をそのままに、顔だけを隊長に向けた。
「あそこは、何かを閉じ込めようとしている感じがしました。もし、」
みことは言葉を切った。
その瞬間、捕縛している人物の背後から異様な気配が押し寄せた。同様に気配を察知した巳坂が、瞬時に刀を抜き、みことを思いっきり自身の方に引き寄せた。
あたりに鉄のにおいが充満した。
「……お、お許しを、」
拘束されていた人物の胸から刀が突き出ていた。目を見開きながら、空を仰ぐように誰かに許し請うていた。
刀の刺さった人物の身体が傾いた。それと同時に、影のようにすっと一人が現れた。人間――しかし、何か雰囲気が異様だった。
その者は刺さっている刀を抜き、巳坂に斬りかかった。速い。だが、巳坂は剣筋を見切り、刀で受け止めた。巳坂が受け止めている隙に、隊長が敵を切り伏せた。
「何だ、こいつは」
「どう見ても味方ではない」
恐らく口封じだな、と告げながら隊長は血振りをして納刀した。
みことは、先ほどまで尋問していた人物が息絶えていることを確認した。見開いたままでいるその目を、みことは手を翳してそっと閉ざした。
さきほど、あの体勢のままでいたら みことにも刀が刺さっていただろう。
「巳坂さん、今回も助かりました」
「礼はいい。それにしても、仮面なんざつけて、何のつもりだこいつ」
隊長が切り伏せた刺客は、仮面をつけていた。それをあらためようとした。その時。
「隊長!突然何者かが、とらえた奴を――」
「くそ!何なんだこいつら」
若い二人が、焦りを交えた声と共に駆けて来た。闇に紛れ刺客がいるのか、何者かと戦っている。鍔迫り合いの音が聞こえた。
巳坂が舌打ちをして雷を纏い、若い二人に襲い掛かっている者を斬り伏せた。先ほどの刺客と似た風体をしている。
隊長とみことがいた場所に、全員が揃った。先ほど助けられた二人は、巳坂に歓喜の表情を浮かべながら礼を述べていた。
「隊長、まだいます」
「分かっている」
若い一人が、少なくともあと二人はいるはずだと告げた。
ゆらりと一つの影が現れた。刀を手に構え、静かに近づいてくる。刀を握った手の力加減や歩幅は人間そのものなのに、動き全体に違和感がある。
顔は深く隠され、表情は全く読み取れない。
「何もんだ?」
巳坂が問いかけると同時に、もう一人、同じ姿の影が現れた。巳坂の鋭い目が、違和感を捉える。足音は人間だ。しかし、体の重心の移動が不自然だ。息づかいも感じられない。
「いや、これは――」
みことは、先ほど隊長が斬り伏せた者を見る。傍にはその者が刺した人物の亡骸もある。明らかに赤の広がり方が、違った。
みことは、感じ取ったのか、言葉とともに一歩、後ずさった。みことの視線、剣士としての勘、先ほどの斬った感覚から、隊長も一つの答えが出ていた。
巳坂は、違和感を覚えつつ刀を構える。影は容赦なく前に出るが、攻撃のタイミングもわずかに規則的で、自然な人間の反応とはどこか違う。
隊長、みこと、巳坂。互いの視線が交錯し、緊張が張り詰める。
――これは、人形だ。
しかし、その確信を口にする間もなく、影は刀を振りかざした。
動きは速く、恐ろしく力が強く、人間離れしている。巳坂が一歩前に飛び出し、相手の刀を受け止めた。
「初速は恐ろしいが、それをいなせば相手は脆い。お前たちでも壊せる」
隊長が素早く若い二人に告げた。一瞬、壊すという単語に疑問を浮かべたが、それは重要ではないと判断し、二人は、隊長の指示に耳を傾けた。
「初撃を受けるのは、俺と巳坂。お前たちは、その隙に攻撃をしろ」
はい、という力強い返事と共に、隊長が動いた。
みことは懐に手を伸ばし、いつでも動けるようにしつつ、周囲の気配を探った。
「……敵は、今姿が見えている数だけです」
みことが告げると、承知と返事がきた。不思議な気配だ、と人形に対して思う。これは妖術。どこかに、この人形を操る妖術師がいるはずだ。
目の前で戦っている神奈備の彼らを信じて、周囲の気配を探る神経をさらに研ぎ澄ました。そこかと思ったところに綾紐を伸ばすが、空を切っただけだった。
「いたか?」
「申し訳ないです。逃がしました」
無事に敵を全員いなした隊が、みことに声をかける。全員、怪我を負っている様子はなかった。
逃げた気配は、地下施設の入り口があると思われた場所に向かっていった。みことがそのことを告げると、隊長は頷いた。
全員で作戦を確認し、その地下施設へ向かうことになった。
気が付けば、空は黒に染められている。
想像以上に、面倒なことが絡んでいそうだ。みことは、嫌な予感がした。
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