禍祓いの影札
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巳坂と共に、みことは隊に合流した。
事の経緯を話し、捉えた者たちを隊長に引き渡した。隊長は情報を聞き出すと告げ、若い二人と共に林の奥へ消えていった。隊長が若い二人に、尋問のやり方を教える、という会話も聞こえてきた。あまり血生臭くならなければいいが、とみことは密かに思った。
この場にはみことと巳坂だけだ。
「お前、何であいつらと戦っていたんだ?」
「見つけちゃいけないものを、見つけちゃったからですかね」
みことは、先ほどの場所の地下に何かあると踏んでいた。
「あそこに、結界がはられているってことか。けどよ、灯篭あったか?」
巳坂の言う通り、土地に結界を張るには、規模にもよるが、本来、灯篭が必要だ。だが、あの地にはその規模の割には、灯篭らしきものがなかった。
そこでみことは、わずかな空間のゆがみがある場所を探った。そこを掘ったら、見事にそれらしきものがあり、さらに探ろうとしたところで、敵襲を受けたと巳坂に伝えた。
「なるほどな。灯篭なしの結界なんて、はれるもんなのか」
「可能か不可能かで言えば、可能ですね。工夫して埋め込んで表立って見えなくする、灯篭でない何かを代用品とするか。今回は、おそらく前者でしょうね。なかなか小賢しいことをしますよね」
そんなもんなのか、と巳坂は、みことの口から出る言葉の一つひとつが新鮮な感じがした。結界術の達人として同行していることも思い出し、納得した。
「けれど、何か違和感があるんですよね」
ポツリとみことが告げた。違和感という言葉を、巳坂は疑問を浮かべながら、繰り返した。
「隠して守る結界、というより、何かを中に閉じ込めているような――」
「……?」
「漠然とした違和感です。ただの勘違いの可能性も十分にあります。隊長たちの、尋問の結果を待ちましょう」
何とも表現しがたいですと顔をしかめるみことに、巳坂も隊長たちの報告を待とうと同意した。
隣にいた巳坂が、首筋を拭いながら、みことに告げてきた。
「にしても暑いな。……おい、䕃。あっちに川があったろ。ちょっくら行くか」
「えっ。今からですか?」
みことが止める間もなかった。巳坂は迷いなく隊長たちが消えた方とは逆の、水の流れる音の方へと足を進める。
みことはどうしたものかと迷った。周囲に特に怪しい気配もなかった。尋問もすぐには終わらないだろう。別行動になるのも後々面倒なことになりそうな気もしたので、少し距離を置いてついていくことにした。
せせらぎに到着するなり、巳坂は一切の躊躇なく、装備を解き始めた。みことは、てっきり体を拭うくらいかと思っていたが、まさかこれは浴びるつもりなのかと顔を青くした。
「ちょっ……。み、巳坂さん!?」
「あぁ? 何だよ。ほら、お前も脱げよ」
バサッ、と上着が地面に放り投げられる。元から薄着な巳坂ではあるが、裸となると話は全く変わってくると、みことは焦った。
夕日に照らされた巳坂の背中が見える。みことの脳裏に、かつての伊武基の姿が重なった。剣豪として、伊武基の弟として、彼がどれほどの鍛錬を重ねてきたかを物語っているようだった。
だが、どこかいたたまれない気持ちになり、みことは視線を泳がせた。
「私は、その……あとでいいです。見張りも、その、必要ですし」
「お硬てえこと言うなよ。男同士だろ。遠慮すんなよ」
ドボン、と豪快に飛び込む音がした。水飛沫がみことの頬を掠めた。実は自分は女なんですと今この場では言えないみことは、どうしたものかとこめかみを押さえた。巳坂の沽券にも関わるのではないか。
そんなみことの葛藤は露と知らず、巳坂は前髪をかき上げ、気持ちよさそうに息を吐いた。そして、岸辺で固まっているみことを見上げる。
「お前、さっきから妙に頑なだな。……まさか、脱げねえ理由でもあるのか?確かにお前男にしちゃひょろそうだが」
「そ、そんなわけないでしょう。これでも鍛えてるんですから」
「じゃあ別に良いじゃねえか」
来いよと手招く巳坂。先ほどの戦闘を共にしたことも経てなのか、巳坂は完全に「䕃」を気のいい同性の戦友だと思い込んでいる。 みことは冷や汗を流しながら、結界術を維持する玄力にさらに意識を割いた。今、動揺して術が解ければ、この川辺は地獄絵図となるだろう。巳坂が混乱して流されるかもしれない。
「私は、」
みことが、俯きながら、極力巳坂の方を見ないようにして呟いた。聞こえた声に、巳坂は、何だと返事をして耳を傾ける。
「ひ、冷え性なんです!風邪を引いたら足手まといになりますから」
「……冷え性? 何を言うかと思えば。男のくせに女子みたいなこと言うんだな」
一瞬ぽかんとした巳坂は、「なんか面白いやつだなお前」と笑ってきた。
「仕方ねえな。それならまあ、無理して入んなくていいぜ」
「わっ、やめてください! 服が濡れます」
不敵に笑いながら、巳坂は、川の水を掬いみことに浴びせかけてくる。完全にからかっているなと、みことは苦笑した。
みことは、どこか楽しそうな巳坂を見て、本当に裏表がない人だと、彼の兄も思い浮かべながら微笑んだ。いつか自分が䕃ではなく、みことだと彼に言えるだろうか。ただこの純粋そうな彼にとって黒歴史とならないことを祈った。
そんな感傷に浸る間もなく、巳坂が川から上がろうと立ち上がった。突然の彼の行動に、みことは目を点にして固まった。
「ふぅ。……?䕃、お前、耳まで赤いぞ。やっぱり暑いんじゃないのか?」
「大丈夫です!!」
みことは、脱ぎ捨てられた巳坂の服をひったくるように拾い上げ、全力で顔を背けながら、彼に押し付けた。
「早く着てください! 敵が来たらどうするんですか!」
「へいへい」
悪びれもせず笑う巳坂の隣で、みことは心の中で早くこの任務を終わらせて戻りたい、と切に願うのだった。
